米企業調査、88%がオフィス復帰促すため「食事」などインセンティブ付与

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米国で、企業が従業員にオフィスで働くことを求める動きが広がっています。そんななか、ある調査では88%の企業が食事などのインセンティブを付与することで、オフィスへの復帰を促しているということが明らかになりました。

多くの企業がインセンティブにより従業員のオフィス復帰促進へ

イーロン・マスク氏が買収したTwitterで、同氏が原則リモートワークを禁止し、オフィスへの出勤を求めたと報じられ、話題となりました。そんななか、Resume Builder.comが実施した調査が注目を集めています。 同社が2022年9月、米国の経営者1,000人を対象に聞いたところ、今後6カ月以内に、少なくとも一定の頻度でオフィスワークを必須とする企業の割合は90%に上ることが明らかになりました。 また、従業員の出社を促進するため何らかのインセンティブ施策を実施している企業の割合は88%に上りました。経営者の多くは出社して従業員同士のコミュニケーションが生まれることを重視しており、コロナ禍で広がったリモートワークからの「回帰」に心を砕いているようです。

復帰拒む従業員は解雇も

Resume Builderが2022年9月に実施した調査によると、調査時点における企業のリモートワーク状況は、出社の必要がない完全リモートワークが34%、リモートワークと出社を組み合わせたハイブリッド型が45%、原則出社が21%でした。ハイブリッド型と原則出社を合わせると全体の66%が、一定の時間以上のオフィスワークを求めていることになります。 現在完全リモートワークとしている企業に、今後6カ月以内にどのように出社条件を変更するか聞いたところ、「出社を求めない」としたのは27%で、73%は一定以上の出社を求めるとしました。求める出社頻度は週4日が最多で30%。次いで週5日(原則出社)が15%、週3日が8.5%、週2日が5.9%となっています。 ハイブリッド型の企業ではどうでしょう。

出社を求める日数について、現時点と6カ月以内の未来について聞いた結果を比較すると、より多くの出社を求める企業が増えていることがうかがえます。現時点で「週4日」とした企業の割合は調査時点では16%でしたが、「今後6カ月以内」となると29%と13ポイント上昇しています。「1週間に5日間の出社(原則出社)」を求めるという企業は、現時点の0%から7.9%に増えています。対して、「週3日」は調査時点の46%から35%に、「週2日」は調査時点の27%から18%に低下していました。

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「食事」などのインセンティブで従業員のオフィス復帰促進

通勤の必要が増えることについては、リモートワークを望む従業員からの反発も想定されています。 今回のResume Builderの調査では、企業の21%が、従業員がオフィスワークの復帰計画に従わない場合「解雇する見込み」と回答しています。 ただ、解雇などの厳しい姿勢を示すだけではないようです。「オフィスワーク復帰促進のため、何らかのインセンティブ施策を実施している」という企業の割合は、88%に上りました。 付与するインセンティブを複数回答で聞いたところ、最も多かったのは「仕出しの食事提供」で、割合は41%でした。次いで通勤手当が35%、昇給が34%、オフィス空間の改善が32%、ドレスコードの緩和が22%、チーム・企業イベントが22%と続きました。

レイオフが広がる? 政府統計にみる米労働市場の実態

足元ではGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)を含む米IT大手による大規模なレイオフに関するニュースが連日報じられており、米労働市場は悪化しているかのような印象もあります。ただ、米労働統計局の2022年9月時点のデータによると、求人数は1,068万件と歴史的に高い水準を維持しています。2019年は1年を通じて700万件ほどで推移していました。2022年9月の解雇率も0.9%と、2019年の推移レベルである1.1~1.3%を下回り、低い水準となっていることが分かります。 退職者数も高い水準にありますが、求人も旺盛なため雇用環境は決して悪くありません。企業は従業員を確保し、より高いパフォーマンスを発揮してもらうために、インセンティブの付与に動いているといえます。 米紙ニューヨーク・タイムズは9月、オフィス勤務に戻った従業員に対し、インセンティブとして無償のランチを提供するとしましたが、オフィス復帰への拒否感は強く、1,200人余りの従業員がオフィス復帰義務付けに抗議する事態になりました。 日本でも、リモートワークからオフィスワークへの復帰を進めたいと考える経営者は少なくないとされます。ただコロナ禍を経て、子育て世帯などある程度リモートワークで働くことを前提に生活を構築している人も増えました。米国のように「従わなければ解雇」といった強権的な対応が日本で広がる可能性は低いといえますが、企業による急速なオフィス復帰の強制に対しては同様に反発がある可能性はあります。 IT人材など、不足しがちなうえに流動性が高いとされる人材の流出を防ぐため、「オフィス復帰のためのインセンティブ」が日本でも取り入れられていくことになるでしょうか。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

文:細谷 元(Livit) 掲載日:2022年12月19日