レファレンスチェックの依頼はオープンに
「あっ、課長。すみません。今度他社の転職面接を受けるので、レファレンスチェックに応じていただけますか?」 職場で突然、そう言い出す同僚がいたとしたら、あなたや周りの人はどう感じるだろうか。企業にもよるかもしれないが、日本ではギョッとされるのではないだろうか。「レファレンスチェック? いやいやその前に転職を検討しているって? ちょっとあっちの部屋で話そうか」。そんな対応が目に浮かぶ。 レファレンスチェックとは、中途採用をする企業が、候補者の経歴や働きぶり、人となりを調べることを指す。以前所属していた職場の上司・同僚らに聞き取りをするのが主な手法で、オーストラリアでは、転職の際はほぼ必ずと言っていいほど実施される。 日本でも近年広がってきていると聞くが、まだまだ一般的ではないと思う。冒頭のように、上司に対して気軽に対応を依頼するようなケースはまれだろう。ところが、転職自体が全く珍しくないオーストラリアではエレベーター内の立ち話で依頼されることもあるくらいのものだ。 依頼するほうだけではない。「そうか。キミのような優秀な人材がいなくなるのは痛手だが、キミの未来のためだ。喜んで引き受けるよ。任せてくれ」。そう言って、簡単に引き受ける上司も決して珍しくない。これは空想の話では決してなく、オーストラリアでの日常的な風景だ。
レフリーは「持ちつ持たれつ」
日本でも転職自体は珍しくなくなったと言えるかもしれない。だが転職活動をしているということは、在籍企業に対して「内密にすべきこと」との意識がある人はまだまだ多いのではないか。内定後ならまだしも、その前段階では「社内で不当な扱いを受けないか」「転職を妨害されないか」といった懸念を抱く人もいると聞く。 だがオーストラリアでは、そうしたことを心配する人は少ない。なぜか。オーストラリアで何度も転職経験がある知人に尋ねると、「誰だっていつ転職するかわからない。誰かが転職するときに意地悪なんかしたら、自分のレファレンスチェックに応じてくれる人がいなくなる。ギブ&テイクだ」と言う。 ちなみに、レファレンスチェックに応じる人のことを英語で「レフリー」と呼ぶ。スポーツの「審判員」と同じ言葉だ。審判というと、最終的な合否に大きな影響を及ぼしそうな印象も受けるが、レフリーに連絡があるのはたいてい企業が採用する意志を固めたあとだ。 採用面接の最後に面接官から「これで面接は終了です。近いうちにレフリーに連絡すると思います」と言われたら、心の中でガッツポーズしていい。それは「レフリーと話して、職務経歴書や面接での回答と大きな齟齬がなければ採用する」くらいの意味だからだ。レフリーへの確認は「電話のみ」で終わることもあれば、「専用の書類への記入」まで求められることもある。
豪州でレファレンスチェックの際に使う書類の例
会社よりも同僚を大事にする文化
日本では昔から、入社の際に「身元保証人」を書類に書いて提出することを求める企業がある。近年は減っているが、そうした身元保証人とレフリーは異なる。日本の身元保証人は万が一入社後に問題が起きた場合の連絡先といった立場であるため、親族がなることが多い。だがレフリーはあくまで、本人の「仕事ぶり」を保証する役割であり、職場での様子を見てきた上司や同僚でないと意味をなさない。 知人が言っていたように、オーストラリアでは誰もが誰かのレフリーになる可能性がある。年功序列的な要素も少ないため、「前の会社の部下が今の会社の上司」といった逆転現象も普通に起こる。それがわかっているから、多くの人がその時の上司や部下、同僚との関係を大事にしようとする。 よく「欧米文化圏のビジネスパーソンは、日本よりもドライ」といわれる。確かにドライな面はあるかもしれない。解雇は珍しいことではないし、労働条件をめぐって交渉することも通常のことだ。またいわゆる「飲みニケーション」のような、プライベートとの区別があいまいになるような方法で関係構築が図られることもまれだ。 だがそれは、仕事仲間のことを大事にしない、という意味ではない。筆者としては、むしろすごく大切にしているように感じる。ハラスメントが全くないわけではないが、互いが快適に過ごせるような職場環境を築こうとする意識は、とても高い。少なくとも私が知っている範囲では、そうした人間関係はドライというよりもかなりウェットだと思う。 1社で勤め上げることが「望ましい」とされてきた日本では、多くの場面で個人の事情よりも会社や組織の事情が優先されてきたと言われる。転勤の実質的な強制などが典型だ。それに対して、転職が一般的なオーストラリアでは「組織の事情より、周囲にいる仲間を含めた個人の事情の方が大事」と考える人が多いように思う。その結果、同僚同士が互いのレフリーとなれるよう良好な職場環境づくりに努めているのだとすれば、少し不思議な気もするが、組織にもやはり貢献しているのだろう。 編集注:この記事はライター個人の見解をまとめたもので、ビズリーチの見解を示すものではありません。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
掲載日:2023年9月15日