「収入源をグローバルに」 欧州在住ライターがつづる越境フリーランス事情

1つの国に暮らしながら、さまざまな国の企業から仕事を請け負う「越境フリーランス」。世界でも増えているという働き方ですが、実際にはどのように仕事のオファーを受けているのでしょうか。ベルギー在住で、越境フリーランスを実践する編集者が体験をつづります。

雨宮 百子

(あめみや ももこ)

ベルギー在住エディター。早稲田大学政治経済学部卒業後、Forbes JAPAN編集部のエディター・アシスタントを経て、日本経済新聞社で記者・編集者として働く。就業中に名古屋商科大学大学院で経営学修士(MBA)を取得。2022年8月に退職・独立し、渡欧。現在はルーヴァン経営学院の上級修士課程で欧州ビジネス・経済政策を学びながらフリーランスとして活躍。

LinkedInで募られる短期プロジェクトの担い手

2022年から、ベルギーの大学院で学びながら、フリーランスで仕事をしている。奨学金などを取得したり、貯蓄を切り崩したりして学業に専念するという道もあったが、日本にいる間、働きながら経営学の修士を取得した経緯もあって、海外でも「働きながら学ぶ」ことに挑戦してみたかったのだ。 日課にしているのが、海外ではビジネスSNSとして普及しているLinkedIn(リンクトイン)の「パトロール」だ。 LinkedInでは、多くの企業が求人を出している。正社員の募集もあれば、副業をする人や私のようなフリーランサーを当て込んだ短期プロジェクトの募集もある。金融関係の記事の執筆者を探している案件や、住んでいる地域に関連した調査、旅行の添乗員の募集まで案件はさまざまだ。 2023年末、いつものように「求人」から「Japanese」「remote」などで検索すると面白い案件が出てきた。ネーティブの日本人で英語ができる人材を対象にした、「AIのプロンプト(指示)修正」の業務だった。 LinkedInで履歴書を送ると、ものの数時間で「採用」と返事がきた。日本オフィスのメンバーと5分ほどオンラインミーティングで本人確認をして、送られてきた定型文の案内メールに沿って登録を進めると、専用のサイトと、使用するチャットツールが案内された。私が履歴書を送ってからわずか数日で「業務開始」となった。

LinkedInで仕事を探す

数時間の業務で数万円、支払いはPayPal

プロジェクトの内容は、AIが生成した日本語の文章を比較し、より良いほうを選び、その理由を英語で添えて、提出するというものだった。チャットツールのチャンネルには、300人近い人が登録されていた。 細かい計算方法は把握しなかったが、報酬は時給で計算され、オンライン決済サービスの「PayPal(ペイパル)」経由で、米ドルで支払われた。入金まではおよそ1週間。作業の間は、画面が監視されるプログラムをONにすることが求められた。 画面上には、チェックすべき「AIが生成した日本語文」が次々と表示されていった。それを、参加者たちが次々とチェックしていく。参加者は世界中から集まっているようで、プロジェクトはまさに24時間ノンストップで進行していた。 結果として、私は数時間のプロジェクトで数百ドルを稼ぐことに成功した。日本円にすれば数万円。円安が進むなかでは、日本からの参加者にとってはよりよい実入りとなったに違いない。最初は正直、本当に報酬は支払われるのかと不安もあったが、杞憂(きゆう)だった。

LinkedInでの「仕事探し」は当たり前

こうした募集には、LinkedInをパトロールしていると、かなりの頻度で出合える。時期によったり、同じような案件がいくつも掲載されていたりすることもあるが、15分ほど検索すればたいてい1~2個見つけられる。 内容によっては、英語に不安がある人でも、生成AIや翻訳ツールを利用することでこなせるものもある。国境を越えた受託になることも多く、報酬は円やドルなどさまざまだ。これはLinkedIn経由ではないが、筆者は仮想通貨のBitcoin(ビットコイン)で受け取ったこともある。 何が言いたいかというと、海外ではこのようなフリーランスが非常に仕事を見つけやすい仕組みがあるということだ。もちろん、LinkedInは日本でも利用できる。だが欧米に比べると利用者が少なく、企業の採用での活用もまだあまりされていないように思う。

採用フローは簡潔、スキルフィットの見極めは厳格

案件自体は非常に見つけやすい一方、実際に仕事を請け負えるかはかなり厳格な判断が下される印象もある。 例えば筆者のような「編集・ライター」関係の業務の場合。日本ではフリーランスとして新たに受託する際、スキルは主に書いてきた媒体名や、執筆経験の年数などで判断され、あまりなじみのない分野でも仕事を依頼されることがある。 だが欧米の案件ではそうはいかない。同じ執筆の仕事であっても「仮想通貨」「金融」など、それまでどんなジャンルで執筆実績があるかシビアに見られる。執筆自体の経験は長くても、求める分野での十分な実績がなければ、仕事を得ることは難しい。 では新しい分野に挑戦したい場合はどうするのか。大学で学んだり、企業のインターンシップに参加したりして、「専門分野の実績」を作るのだ。ベルギーの大学院のある友人は、そうした実績作りのため、わざわざ米・サンフランシスコに赴き3カ月インターンをしていた。それほど、海外での採用は「スキル・専門性」と「業務内容」のフィットが厳密に見られる。

さまざまな国を訪れながら仕事をこなす

「スキル重視」だからこその「タレントプール」

しかし、重ねてもう一つ指摘しておきたい。スキルが合わなければ容赦なく不採用になることは事実だが、それはなにも「海外でフリーランスの仕事を請け負うことは難しい」という意味ではない。不採用となるのは「その募集ポジションに対しての話」であり、「採用する人材として不適格」と言っているわけではない、ということだ。 実際、企業側からの不採用の通知は「今回のポジションには合わなかったけど、あなたと働けるチャンスを楽しみにしている」という感じでくる。これをただの社交辞令と思うなかれ。不採用の場合でも、企業の採用候補者リストとでも呼ぶべき「タレントプール」に登録することを促されることは多い。なにか新しい求人が生じた際、優先的に通知がいくような仕組みを企業が持っているのだ。 筆者も、複数企業のタレントプールに登録をしており、新しい案件の通知を受け取っている。機械的な連絡のときも、マネージャーなどから直接メールが来ることもある。私の周囲のフリーランサーはみな、こうしたことを熟知し、来たる未来の仕事のために、諸外国含めて広く種をまいている。

企業も活用する越境フリーランサー

デジタル技術の進歩と、コロナ禍の影響で進んだリモートワークによって、好きな時間に好きな場所で働こうという動きは世界各地で起きているように思う。人によっては、国境も簡単にまたいでしまう。 企業側がそれを推進している面もある。オンラインで仕事が完結するのであれば、わざわざ現地にきてもらう必要がない。働く場所を問わないなら、移動費やビザの取得に関わる諸経費なども不要になる。実際、私自身、英国企業から「あなたの住んでいるところで、あなたの時差で働いてください」と言われたことがある。 働き手、企業、双方のニーズがあり、国境を越えてフリーランスで働くハードルは下がっている。国によって異なるビザや納税の仕組みにきちんと適応する必要はあるが、海外でフリーランスとして働く経験を通じて、場所を選ばずに働く選択肢は確実に増えていると感じている。「デジタルノマド」と呼ばれる、移動しながら働く人々が滞在できるようなビザを発給する国もある。 もちろん、働き方やビジネス習慣が異なる海外の企業の案件を請け負う場合、スムーズにいかないことはある。特に報酬の支払い関連の行き違いはトラブルに発展しやすいし、トラブルにまでならずとも、初めてのクライアントやチームメンバーと的確に業務遂行するのには、相応の対応力が必要になる。プロジェクトが終了したら、次の案件を探さなくてはいけないのも、少し面倒臭い。 だが、そうしたことに対応できるのであれば、チャンスは世界中に転がっている。国境を越えて複数の企業と働くことも、日本にいながら外貨を稼ぐこともできるのだ。場所にこだわらずキャリアの幅を広げ、稼ぐ。そんな働き方があることを、知るだけでも価値があるのかもしれない。 編集注:この記事はライター個人の見解をまとめたもので、ビズリーチの見解を示すものではありません。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

掲載日:2024年4月9日