教会の「安食堂」が人気
日本人にも人気の観光地、首都ソウルの「明洞(ミョンドン)」。韓国でも物価が高いエリアとして知られていますが、そこで今、現地の会社員に人気の食堂があります。 それが「明洞聖堂」。そう、「聖堂」の名前から想像されるとおり、カトリックの会館です。ここの職員食堂は、昼の12時半になれば、職員や信者以外に開放され、誰でも利用できるようになります。 明洞聖堂は筆者のオフィスから歩いて10分ほどなので、ときどき訪れます。ところが、以前なら12時半の5分前に行ってもほぼ並ぶことなどなかったのが、最近は20分以上前から長い列ができています。
昼時になると建物外まで行列ができるカトリック会館の職員食堂 人気の理由はなんといっても安さで、定食タイプのメニューの価格は一律5,500ウォン(約605円)。マクドナルドの「ビッグマック」の単品価格が5,500ウォン(約605円)と比較すると、割安と感じていただけるのではと思います。 そのビッグマックですが、2014年1月時点では単品価格が4,100ウォン(現在のレートで約451円)でした。実に8年間で34%も値上がりしています。 「海外ブランドの食品だから高い」というわけではありません。 庶民の味方として親しまれている「キムチチゲ定食」。韓国消費者庁の調べによると、ソウルの平均価格は、2014年の5,363ウォン(約590円)から8,000ウォン(約880円)へ49%上がりました。「冷麺」や「ビビンバ」といった、日本でも有名な国民食もそれに近い水準で値上がりしています。 この間、物価全体の上昇率は20%。会社員の平均給与の上昇率は、調査機関による違いはありますが15%前後になっています。外食費が突出して高騰しており、ビジネスパーソンのランチを直撃していることがご想像いただけるでしょう。 日本では「ランチ代の節約」というと弁当を持参する方法が思い浮かびますが、これは韓国の会社員にはほとんど見られません。外食やテイクアウトなど、職場近くで調達するのが基本のため、より懐が痛みやすいのです。
価格が上がっている韓国の「定食」
政府が「ランチ代控除」の非課税枠を拡大
「ランチフレーション」という言葉が広がり始めたのは、2022年の中頃から。ランチ代が1万ウォン(約1,100円)に収まりにくくなって、問題視する向きが強まりました。 韓国では、会社が給料の一部を食事控除として非課税処理できる仕組みになっています。これは、まだ貧しかった時代に会社が従業員のランチを無償で提供することが一般的だったため、そのなごりとして制度化されているようです。 近年は給与の一部を「ランチ代補助」とみなす企業が増えていますが、今でも、社員食堂での昼食はすべて無料という会社もあれば、契約している社外の食堂で食事をする際は代金を会社が負担する仕組みを採用しているところもあります。韓国ではそれほど、「昼食は企業が提供するもの」という観念が一般的なのです。 そうした社会で昼食代が高騰したため、当然のように従業員からの「もっと昼食費分の支給額を増やしてほしい」という声につながりました。 個々の企業がどれだけ対応しているかはさまざまですが、高まる国民の声に2023年、政府が対応に乗り出しました。それまで月10万ウォン(約1万1,000円)だった非課税の上限を、20万ウォン(約2万2,000円)と倍に引き上げたのです。 ちなみに韓国の給与水準ですが、会社員の平均月給は352万6,000ウォン(38万7,860円)ですが、これは一部の高所得者によって引き上げられており、最も割合が多いのは200万~300万ウォン(約22万~33万円)。会社員全体の55%は300万ウォン以下という形になっています。
低価格店が人気
こうした事情から、さまざまな業態で低価格店が人気を集めています。 その一つが「テイクアウト専門」のコーヒーショップ。ランチ後のコーヒーは韓国の会社員にとって必須といっていいものですが、テイクアウト専門店ならLサイズのカプチーノの価格は1,500ウォン(約165円)から2,500ウォン(約275円)。「スターバックス」といった店内飲食型のカフェチェーンと比べると、おおむね半額かそれ以下の価格になっています。 コンビニ弁当の人気も高まりました。主流は4,500ウォン(約495円)から5,500ウォン(約605円)。運営企業は需要を取り込むために弁当の拡充に取り組んでいて、売り上げを伸ばしています。イートインを利用する会社員の姿も、よく見るようになりました。 日本でも、円安などに伴う物価高が家計を直撃していると聞きます。歴史・文化的な背景など異なる部分はあるものの、生活が苦しいときに庶民が思うことは同じ。企業や政治には、そうしたことに目を配ってほしいものですね。 編集注:この記事はライター個人の見解をまとめたもので、ビズリーチの見解を示すものではありません。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
掲載日:2024年5月1日