託児所よりもベビーシッターが普通
先日、台湾人の友人である李さんと食事をした時のこと。共通の友人で、先月子供が生まれたばかりのAさんの話になり、私は何気なく「そういえばAさん、託児所見つかったのかな」と言いました。 すると、李さんは心底意外そうな顔をして「託児所?ベビーシッターに頼むんじゃない」とひと言。今度は私が意外そうな顔をしていると、「台湾の都市部では、小さい子供の世話は託児所よりもベビーシッターにお願いするのが一般的だよ」と教えてくれました。 李さん自身、子供が幼稚園に入るまで出勤から帰宅までの1日10時間、週5日ベビーシッターにお願いしていたといいます。さらに「自分は決して特別ではなく、子育て中の同僚の半分くらいは自分と同じようにベビーシッターを利用していた」というのです。 李さんは現地の広告代理店勤務。比較的高収入であり、夫婦ともにフルタイムで働く「パワーカップル」であるのは確かです。しかし、ものすごいお金持ちというわけではありません。日本人の感覚では、平日に働いている時間すべてベビーシッターに預けるというのは、「過ぎたぜいたく」にも感じます。
6歳までは社会で育てる!充実の補助制度
なぜ、台湾の人はそれだけベビーシッターを利用できるのでしょうか。その秘訣は台湾の少子化対策にあります。 2021年2月、台湾は「6歳までは社会で育てる(0-6歲國家一起養)」という政策を打ち出しました。「子育て世帯に対する補助の拡充」のメニューの一環として、ベビーシッター利用の際の補助金額を引き上げることを発表したのです。 この政策により、ベビーシッターを利用した際の補助金額は、2021年2月の6,000元/月(約3万円)から、2024年1月には倍以上の13,000元/月(約65,000円)にまで増額されました。 これに加えて地方自治体にも補助金が申請できます。台北市在住の場合、ベビーシッターの利用で5,000元/月(約25,000円)の補助金が申請できます。つまり合計でひと月あたり18,000元(約9万円)の補助金を申請できることになります。 台湾のベビーシッターサービスには、保護者の自宅にシッターを招く「到府」と、シッターの居宅に子供を預ける「在宅」の2種類があります。利用が多いのはより安価な「在宅」で、1時間100元~250元(500円~1,250円)。月極め契約をする場合は週5日×10時間の利用で17,000元~19,000元(85,000円~95,000円)となり、ほぼ公的補助でまかなえる計算になります。 聞くと、李さんやその同僚が利用していたのも「在宅」の月極め契約だったとのことです。

シッターは個別交渉でさまざまな家事にも対応してくれる。宿題を見てくれることも。
犯罪者は登録不可! 学科と実技の試験も必要
利用を促進するための、安心・安全に対する配慮もあります。 台湾では2014年から「ベビーシッター登録制度」を導入しており、ベビーシッターとして働くためには台湾の法規で定められた複数の書類を行政機関に提出して、ベビーシッターとして登録をする必要があります。 「学科試験」と「実技試験」にも合格しなければいけません。また台湾における犯罪歴がないことを証明する書類で、通称「良民証」という「警察刑事記録証明書」の提出も必要です。

台湾の通称「良民証」 ※画像の一部を加工しています。 日本ではかつてベビーシッターによる男児の殺害事件があり、これを受けて2015年4月から全てのベビーシッター事業者に対する届出が義務化されましたが、登録には台湾ほどのハードルを課しているわけではありません。
日本以上の少子化が進行
こうした制度が整っている背景には、日本以上に進行している少子化があります。 2022年、台湾の合計特殊出生率は0.87と過去最低を更新しました。日本の1.26(2022年)やシンガポールの1.05(同)などを下回っており、2023年もこの傾向には歯止めがかからなかったとされています。人手不足も深刻化しており、2024年2月時点では20万人以上の労働力が不足しているとの統計があります。 「子供を産み育ててほしいし、働いてもほしい」。子育て世代に対する、そうした社会の要請から、台湾では手厚い仕組みが整えられているといえます。 本稿では、大きな特徴であるベビーシッターについて紹介してきましたが、もちろん子育て世帯に対する支援はそれだけではありません。 公的調査によると、台湾全域のベビーシッター利用率は子供が0歳~3歳の場合で7.9%です。日本の利用率は2%弱で(国立社会保障・人口問題研究所の「2021年社会保障・人口問題基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」より)、それに比べると高いものの、子供の預け先として親や親類、保育園などが多いのは日本と同じです。 台湾にいると、日本よりも「家」や「一族」を大切にする傾向が強いと感じる場面は多いです。そのため、「実家で預かってもらう」ことを第一の選択肢にしている人も多いでしょう。 ですが、そういう人も実家に預けられない時などに臨機応変にベビーシッターを利用しているようです。ある知人によると「いつも預けている実家がダメな時のシッター代は、両親が負担してくれる」のだとか。
「本気の少子化対策」で子育て世代に安心感を

台湾でも祖父母の力を借りることは多い。 ベビーシッターに預けやすい環境が台湾にある背景には、台湾が取り組んできた「本気の少子化対策」があります。充実した公的補助や行政主導でのベビーシッターの質の担保などは、民間ではなかなか対応できない課題でしょう。 子育て世代の安心感をつくることは、その国や地域の未来をつくること。台湾の少子化対策は、同じく深刻な少子化に直面している日本にとって、大いに参考にできる点がありそうです。 編集注:この記事はライター個人の見解をまとめたもので、ビズリーチの見解を示すものではありません。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
写真:著者提供 掲載日:2024年7月16日