注目BIZワード「ダイナミックプライシング」 ITと需給で決まる「変わる値段」

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物価の上昇にともない、モノの値段についての話題やニュースを目にすることが増えています。値段といえば、最近よく聞くようになったのが「ダイナミックプライシング」という言葉。テクノロジー全盛の時代だからこそできる新たな値付けの手法に、注目が集まっています。

1970年代の航空業界が皮切り

ダイナミックプライシングは、需要と供給の状況に合わせてモノやサービスの価格を柔軟に変動させるマーケティング手法です。価格は一般的に、原価や販売コストに一定程度の利益分を上乗せする形で設定します。それに対し、ダイナミックプライシングは需要の多い状況では価格を高く、逆に少ない状況では安く設定して利益の最大化を図ります。 その起こりは意外と古く、1970〜80年代にアメリカの航空会社が時期によって航空券の価格を変動させる仕組みを取り入れたとされています。その後、欧米の航空、観光業界を中心に広がり、特にアメリカでは飲食、小売業界でも導入が進んでいます。ホテルや旅行プランなどのオフシーズン、オンシーズン、レギュラーシーズンなどに色分けされた価格表は皆さんもなじみがあるのではないでしょうか。 近年、特にダイナミックプライシングが注目を集めているのは、ITやAI(人工知能)、ビッグデータ解析といった技術が急速に普及したことにより、従来のようなシーズンや曜日といった要素だけでなく、天候予測や過去の販売データなど複雑な条件を加味した需要の予測ができるようになったからです。EC(電子商取引)の普及も相まって、より細かく、機動的に価格を変えることが可能になり、導入する企業が増えてきました。 ダイナミックプライシングに企業が期待する効果は、売り上げの最大化だけではありません。多くの在庫を抱えるリスクや販売機会のロスを軽減できたり、繁忙期と閑散期の需要を平準化することで設備や人的リソースを効率的に活用できたりといった利点もあります。 一方の消費者にとっても、時期などをずらすことで今までより安い価格で商品やサービスの恩恵を受けられたり、繁忙期に混雑が緩和されたりといったメリットが考えられます。 新型コロナウイルスの流行下では感染防止対策としても再評価され、公共交通機関などの混雑緩和策として改めて注目を集めました。

導入により顧客満足度や収益の向上に

海外では多くの業界で活用が進んでいます。米アマゾン・ドット・コムは小売業界でいち早くダイナミックプライシングを取り入れ、2013年にはサイト上で1日に250万回もの価格調整を行い、その年の売り上げを前年比で27%も伸ばしたといわれています。東南アジアのライドシェアサービス大手グラブも、需要に応じてリアルタイムで乗車価格が変わる仕組みを採用して、シェアを拡大しています。 日本ではエンターテインメント業界での導入が目立っており、大阪のテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは2019年1月から曜日や季節に応じて数種類の入場料を設定する仕組みをスタートしました。それまでは一律の料金設定のみでしたが、導入後は休日や行楽シーズンに集中していた入場客が平日に分散することで混雑の緩和につながり、利用者の満足度が向上したそうです。スポーツイベントでは、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスが過去のデータに基づいて対戦相手、開催曜日により試合ごと、座席1席ごとにチケット価格を設定したうえで、発売後もチームの順位や当日の天気予報によって15分おきに価格を変えるといった対応をとっています。

今後の見通し

AIなどのテクノロジーがさらに進化、普及することで、より幅広い業界での活用が期待されるダイナミックプライシング。今後は鉄道、高速道路といった交通インフラの料金や電気料金など、公共性の高いサービスで導入される可能性もあります。海外での実績もあるように、渋滞、混雑の緩和や電力供給のひっ迫を回避するといった社会的な課題の解決策としても期待されています。 ただ、企業にとっては「もろ刃の剣」にもなります。顧客にとって想定外の値上げが、「企業本位」「AI任せ」などと受け止められて反発が起こり、長年同じ価格に親しんできた「常連客」を失うリスクもあります。ダイナミックプライシングについての消費者の認知が広がることや、企業だけでなく消費者側にもメリットがあると感じられるマーケティングをできるかが成否のカギとなりそうです。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

掲載日:2022年9月30日