お金の流れを数字で表すキャッシュフロー計算書とは
企業の経営状態を数字で表す財務諸表には、「損益計算書(PL)」「貸借対照表(BS)」「キャッシュフロー計算書(CF)」の3種類があります。 損益計算書と貸借対照表については、日本で全ての株式会社に対して、年に1回以上の作成が義務付けられています。損益計算書は、売り上げから原価、経費、その他の支出を差し引いた利益や損失がわかるもので、一般的に多くの経営者が気にするものといえます。貸借対照表はあるタイミングでの企業の資産や負債がわかるものです。 対して、キャッシュフロー計算書は、上場企業にのみ作成が義務付けられていますので、その言葉になじみがない方もいるかもしれません。キャッシュフロー計算書は、四半期や1年間といった一定期間に、会社の中にあるキャッシュが、どのような原因でどれだけ増減したかを表します。増減の原因は、「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」の3つの区分に分けられます。 また、「営業活動によるキャッシュフロー」から「投資活動によるキャッシュフロー」を差し引いた額を、「フリーキャッシュフロー」といいます。フリーキャッシュフローがプラスということは、借り入れなどの資金調達をしなくても、企業が自由に使うことのできるキャッシュが増えているとみなせます。そのため、プラスのフリーキャッシュフローがある企業については「安全性が高い(倒産リスクが低い)」と考えることもできます。
資金ショートのリスクを管理する
キャッシュフローを意識することが大切な理由は、「ある時点で実際に会社の中にある資金を正確に把握するため」といえます。損益計算書に書かれている数字は、実際に会社が持っているキャッシュと一致していません。企業間取引(BtoB)では一般的に、売り上げが決まるタイミングと、実際にお金が入ってくるタイミングに、ズレがあります。請求書を発行した時点で、損益計算書上は売り上げに計上されますが、実際に支払いが行われるのはそれから1カ月から数カ月先です。約束手形で取引した場合は現金化するのにさらに時間がかかります。 こうしたタイミングのズレがあることにより、損益計算書上の数字と実際のキャッシュは一致しません。売掛金が大きすぎたり、なかなか回収できなかったりすると、損益計算書上では利益がプラス(黒字)であっても、手元のキャッシュがなくなってしまった場合、倒産することもあります(黒字倒産と呼ばれるものです)。そうしたリスクを管理するために、キャッシュフローを意識した経営が重要なのです。 キャッシュフロー改善のために有効な方法として、売り上げに対する顧客からの支払いのタイムラグを減らすこと、在庫をできるだけ抱えないようにすること、サプライヤーへの支払いに時間的余裕をつくることなどが挙げられます。アメリカのAmazonやAppleは、売り上げを回収するのに必要な期間を極めて短くすることでキャッシュフローを改善し、潤沢な資金を確保したことで知られています。
キャッシュの積極投資で成長したAmazon
キャッシュフロー経営を行うことで、企業にとっては黒字倒産の回避といった経営の安定性以外にどのようなメリットがあるのでしょうか。キャッシュを手元に確保できている状態は、企業やその経営者に多様な選択肢を提供します。手元にキャッシュを残しておくことで、対外的な信頼性を高めて借り入れを増やしたり、株主への配当に充てたりできます。 また、キャッシュフロー経営によって残った手元のキャッシュを、積極的に投資するという方法も考えられます。手元のキャッシュを積極的に投資している企業として知られているのがAmazonです。Amazonは創業から間もない1995年から7年間は赤字、その後も2014年まで利益はほとんどゼロでした。その理由は事業がうまくいっていなかったからではありません。世界規模で小売業のプラットフォームとなるべく、自由に使えるキャッシュで開発や新規事業、人材、M&Aなどに多額の投資を続けたのです。その結果、驚異的な速度で世界的な企業になりました。 ガレージからスタートして世界最大の企業となったAppleも、トヨタ自動車を含む世界の自動車メーカー上位7社分の時価総額を超えたテスラも、キャッシュを積極的に投資して成長してきました。 近年の投資家は、株式の配当より、株価上昇による売買利益を重視する傾向が強まっています。ですから「配当金を出すくらいだったら投資をしてほしい」と考えている株主も少なくありません。 金融業、保険業を除く日本企業の内部留保は10年連続で過去最高を更新し、2021年度末についに500兆円を突破したとされています。手元にキャッシュを確保し、経営を安定させるという意味では、日本企業もキャッシュを重視した経営をしているといえるのかもしれません。ただし手元の現金をどう使うかという点においては、21世紀に入って大きく伸長したアメリカの企業と、「投資に消極的」とされる日本企業の違いは大きそうです。「キャッシュフロー経営」の真価を発揮するためには、何のためにキャッシュを手元に確保するのかという問いかけも必要なのかもしれません。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:嶺 竜一 掲載日:2022年10月21日