1980年代に広がった役職定年制
役職定年制は、部長級、課長級といった管理職が一定の年齢に達すると役職から外れて専門職などに就く制度です。1980年代に定年を55歳から60歳に引き上げることを努力義務とする高年齢者雇用安定法が施行された際に、組織の新陳代謝を進めて活性化を図ったり、人件費を抑制したりする狙いで導入が始まりました。さらに1990年代になると、社員構成の高齢化に伴うポスト不足を解消する狙いで広がっていきました。 労務行政研究所の調査によると役職定年制は全体の約30%の企業が導入しています。規模の大きい企業ほど導入している傾向があり、年齢は課長職の場合で55歳に設定している例が多いようです。 年功序列型の人事登用をする企業では、役職定年制がないと年長者がいつまでも上位の役職を占めてしまい、人材の新陳代謝が進みません。また社内の人員構成において役職に就くシニア層が増えると人件費の増加にもつながります。こうした問題を解決する手段として導入されたのが役職定年制ですが、近年、これを廃止する企業が増えてきています。
大企業で相次ぐ廃止の動き
NECは2021年、56歳で一律に管理職から外れる役職定年制を廃止し、約1,000人(全社員の5%)を管理職に返り咲かせる施策を打ち出しました。これに前後して、社内でジョブマッチングを図る人材公募制度を導入したり、役員の上限年齢を撤廃したりするなど、年齢にとらわれない人材配置を進める取り組みに力をいれています。 大手ハウスメーカーの大和ハウス工業も、2022年4月から一律60歳に設定されていた役職定年制を廃止しました。60歳以降も役職任用や昇格の機会を残し、減給を前提としていた賃金体系も見直しました。 役職定年制の廃止の背景にあるのは、終身雇用、年功序列賃金といった日本特有の人事制度を見直し、年齢ではなく業務内容とその成果で給与を決める「ジョブ型雇用」へと移行しようという流れです。
シニア層のモチベーション低下を防ぐ
役職定年制は前述のようなメリットがある半面、弊害も指摘されてきました。 多くの企業では、役職から外れることで減給となる給与体系になっています。法政大学などの調査によれば役職定年制の前後で年収は平均23.4%も下がっています。収入ダウンによるシニア層のモチベーションの低下が組織全体に悪影響を及ぼし、そうした先輩社員の姿をみた若手社員の意欲低下にまでつながってしまうケースがあります。雇用の流動化も進んでいるため、より能力や勤労意欲の高いシニア層がライバル企業に引き抜かれてしまうといったリスクも、以前より高まっています。定年後研究所などのレポートによると、役職定年は1兆5,872億円もの経済的な損失をもたらすと試算されました。 少子高齢化による労働力人口の減少や、健康寿命の延伸などを背景に、就業年齢は延びる一方です。2021年には高齢者雇用安定法の改正法が施行され、70歳定年時代に入りました。役職定年を迎えてからの就業期間が長くなるなか、役職定年制はメリットよりもデメリットが上回ると判断する企業が出てきているというわけです。 労働力不足や社会保障財源の確保の観点からも、シニア層が活躍できる社会をつくることは重要です。これまでの硬直的な人事・労務制度を見直し、シニア層がこれまでの豊富な経験を生かしてモチベーション高く働ける環境を整備することが、企業に求められる時代になってきています。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
掲載日:2022年12月27日