49%の企業に「いる」
「働かないおじさん」とは、正社員として長く働いているため高い給料を受け取っているにもかかわらず、それに見合った働きをしていない人材、もっといえば「サボっている」と周囲に見られる中高年男性のことと考えられるでしょう。 仕事をサボる中高年はいつの時代にも一定数存在していたのでしょうが、「働かないおじさん」という言葉が用語として使われ始めたのは、2010年代半ばからといわれます。政府による働き方改革の推進などで企業の労務環境の変化が大きくなった2020年代ごろから、この用語に再び注目が集まっており、最近では「妖精さん」という別の呼び名も生まれています。 経営コンサルティング会社の株式会社識学が2022年4月に行った調査によると、回答を得た1385人のうち、49.2%が「あなたがお勤めの会社に、“働かないおじさん”はいますか?」という質問に「いる」と答えました。働かないおじさんが仕事の代わりにしていることについては、「無駄話をしている」(47.3%)、「ボーっとしている」(47.7%)、「休憩が多い」(49.7%)が上位を占めました。同社の調査では「働かないおばさん」についても、47.3%が「いる」と回答していて、性別を問わず一定の働かないミドル、シニア人材が存在しているといえそうです。
「個人の問題」にとどまらない
2022年12月、横浜市の50歳の男性職員が減給処分を受けたことが話題になりました。勤務中に業務用のパソコンで「ソリティア」などのトランプゲームに興じ、その時間は半年間で計275時間に及びました。 こうした極端な事例を目にすると、「働かないおじさん問題」は個人の人間性や資質によるものと思われがちです。本人の責を問うべきケースがあるのは確かですが、実はそこには個人の問題にとどまらない日本の企業社会が抱える課題があります。 年功序列型の人事制度や終身雇用、流動性の低い労働市場などは、日本社会に根付いた慣行とされてきました。一定の年齢に達するとポストから外れる「役職定年制」もあり、中高年になって役職が下がり、待遇が悪くなって、やりがいのある仕事を与えられず仕事に対するモチベーションの維持が難しくなる人材が増えやすい構造があります。 こうしたことから「働かないおじさん問題」は、日本特有の社会現象で欧米では同様の問題は指摘されていないといわれます。「働きたくても、うまく働けない」環境が中高年人材の意欲を奪い、生産性を下げているというのです。2022年11月に弁護士ドットコムが行った企業向けのアンケートによると、社会全体で「働かないおじさん」が増えないようにするために必要な施策として「年功序列をやめて、給与に差をつける」が30.2%で最も多く、「解雇をしやすくする」(16.0%)が次に続きました。
対策に動く企業
一般的に中高年になると、身体的な面で若いころよりも低下する能力があるといわれます。そのことが、特定の業務におけるパフォーマンス低下につながることはあるでしょう。ただ、経験に裏打ちされた知見や社内外での深い人間関係など、若いころには持ちえなかった「武器」を持っていることもまた確かです。そうした資産を十分に活用せずに眠らせておくことは、企業としても社会としても損失であるといえます。 近年、役職定年制を廃止したNECや大和ハウス、50歳以上のキャリア開発に注力するNTTコミュニケーションズなど、大手企業のなかで中高年人材の活性化に取り組む企業が増えています。少子高齢化が進行するなか、中高年人材を活用しなければ必要な人材を確保できないという事情もあります。 中高年社員をめぐっては、本人の「やりたいこと」「できること」と会社からの役割・期待にギャップが生じていることが、モチベーション低下の要因になっていると指摘されます。 そうしたギャップがあることに本人が気づき、ギャップを埋める行動をとれるようにする仕組みが重要です。どんなアクションが望ましいかは、それまでのキャリアや人生観などによって変わり、個人差が非常に大きくなります。企業が中高年の活躍を促したいならば、面談やリスキリング、アンラーニングなどの学び直し、学びほぐしを取り入れた人事制度の活用などによって、丁寧に支援していくことも重要になります。 「働かないおじさん」は、若い世代が抱く不公平感を示す表現でもあります。ただ、誰もが年を重ねることを考えれば、「中高年の優遇をなくし、若年層に手厚く報いる」という対策だけでは、「年齢を重ねると、仕事の意欲が下がりやすい」という課題の解決にはなりません。年齢に関係なく働きやすい環境とはどんなものか、考える必要があります。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
掲載日:2023年1月30日