企業側の思惑
4Rとは、人事(HR)、広告宣伝(PR)、経理財務(IR)、お客様相談(CR)を総称した呼び方です。すべての部署名に「R」が含まれるのがその名前の由来で、受付(Reception)と秘書(Secretary)を含めて「6R」、調査(Research)も入れて「7R」と呼ぶこともあります。 これらの部署に女性が集中する理由として、企業側の思惑が挙げられます。接客やクレーム対応などは、柔らかい言葉遣いなどといった「女性らしさ」が生きる仕事とされてきました。また、「女性らしさ」が生きると考えられてきた部署に、相談できる同性を多く配置することで、教育がしやすくなると考えられていることも、女性比率増加の背景にあるとされます。さらに、これらの部署はいずれも内勤で、出張や転勤はまれです。子育てなどの家事を主に担っているのは女性である場合が多い実態を踏まえた配慮の結果ともいわれます。
先進国でも大きい男女間の待遇格差
とはいえこの4Rに代表される日本の配属傾向をめぐっては、女性の管理職登用が進まない一因として、否定的な見解が目立ちます。 4Rの部署は、転勤などに伴う身体的、精神的な負担が少ない半面、商品やサービス開発、営業といった収益に直結する仕事と比べ、実用的なスキルやコミュニケーション能力を身につける機会は減りがちです。また、他部署への異動や転勤を繰り返す人より、社内のネットワークも乏しくなるきらいがあります。日本に女性の管理職が少ないのは、こうした配属に伴う経験の差が原因との指摘もあります。
性別による職務分離を容認してきた歴史
4Rのような配属の偏りの背景には、日本では、性別による職務分離を容認する制度が比較的最近まで続いてきた歴史的な経緯があるといわれます。 日本では、1986年に採用や配置についての男女の均等な扱いを求めた「男女雇用機会均等法」が施行されるまで、募集段階での男女の区別が認められていました。それ以前は、子育てなど母親としての役割が期待される女性には、時間外や休日労働をめぐる法的な制限が設けられ、担う仕事は、事務などの補助的な業務が一般的でした。 施行後も、男女を均等に扱うのが「努力義務」にとどまったこともあり、この構図は「コース別雇用管理」という形で事実上、温存されました。「コース別雇用管理」とは、募集段階で男女を分けない一方、「総合職」に男性、総合職をサポートする「一般職」に女性を多く採用するようなありかたのことです。その後、1997年の同法と労働基準法の改正によって、「努力義務」規定が解消され、女性に対する休日、時間外労働などの制限が撤廃されます。 一方、性別による職務分離が公然と行われていた時代を経験している歴史のある企業には、「女性を男性の多い職場に配置してもなじめない」「働き続けるより専業主婦になるほうが幸せ」といったバイアスが残っている部分があります。4R配属は、こうした古い価値観が反映された結果ともいえるでしょう。
長時間労働も影響
そのほか、4Rのような配属の偏りには、日本企業特有の雇用慣行の影響も考えられます。欧米と比べ、職務範囲がはっきりしない日本では、家庭を顧みずに仕事に専念できるかという「生活態度としての能力」が評価基準になるケースが多いとの指摘もあります。その結果、子どものいる共働き夫婦の場合、どちらかが仕事をやめたり、キャリアダウンせざるをえなかったりするような長時間労働が生じがちです。 そのしわ寄せは多くの場合、女性にいっている現状があります。2020年版の「男女共同参画白書」によると、日本の男性による有償労働時間は、週平均で1日あたり452分と、OECD(経済協力開発機構)加盟国平均の317分を大幅に上回りました。一方、家事などの無償労働時間の平均は、男性は41分なのに対して、女性は224分となっています。白書は日本の特徴について「男性の有償労働時間は極端に長い」「無償労働が女性に偏るという傾向が極端に強い」とまで指摘しています。この「男は仕事、女性は家庭」という価値観が夫婦間にまで浸透していて、結果として女性を重要ポストから遠ざけている構図が浮かび上がります。
対策するメリット
少子化による人口減少が続くなか、女性の力を活用できないのは企業にとって大きな損失といえます。女性の力の活用を妨げる原因となる4R配属も、是正が必要でしょう。 そのためには、「女性だから」とのおもんぱかりをできる限りなくすのが重要となります。女性の管理職の増加を目指す企業では、同性の少ない部署にあえて女性を登用するなど、男女でキャリアパスを分けない取り組みを強化しています。長時間労働の是正も欠かせません。4Rが存在する理由のひとつには、それ以外の部署では家事との両立が難しい実態があるとみられるからです。 労働力人口の減少が、企業の現場にも影響しはじめている今、性別による扱いを温存したままの企業は、優秀な人材と巡り合う機会が減ります。また、福利厚生の充実や、リモートワークの定着など、女性にとって働きやすい環境は、さまざまな社員の満足度も高め、定着率や生産性の向上にもつながります。「女性管理職を2030年までに30%」という数字目標にこだわるだけではなく、こうした観点からも企業は対策を検討する必要があるでしょう。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
掲載日:2023年2月16日 文:福田 小石