社会において「何のために存在しているのか」を示す
企業が経営方針を定める手法といえば、著名な経営学者のピーター・F・ドラッカーが提唱したミッション(Mission)・ビジョン(Vision)・バリュー(Value)の頭文字をとった「MVV経営」が広がってきました。それぞれ「使命」「理念」「行動指針」などと訳されます。企業が重視する価値観や、達成したい姿、それに向けて必要な基軸などを構造化するモデルだといいますが、パーパス経営はこれと何が違うのでしょうか。 どちらも、企業の基本となる価値観を示すという点では類似しています。ただ「パーパス」という言葉には、「社会における自社の存在意義を明確にする」という点がより強く意識されているといいます。 グロービスのシニア・コンサルタントである井上佳氏は、「何を行うべきか(What)」を示すミッション、「どこを目指すのか(Where)」を示すビジョン、「どのように行動するか(How)」を示すバリューに対し、パーパスは「われわれは、なぜ社会に存在するのか」という「Why」を示すものだと説明されています。 またビジョンやミッションが「未来」に目指す企業の姿を示すことが多いのに対し、「現在」どうあるべきかを示すのもパーパスの特徴とされています。
世界の潮流が普及の背景
それではなぜ今、注目が高まっているのでしょうか。 言葉自体は、世界で初めてCSR(企業の社会的責任)のガイドラインとなる「ISO2600」が発行された2010年ごろから、海外で着目されはじめたといいます。それが一気に広がるきっかけとなったのは、2015年9月の国連サミットです。SDGs(持続可能な開発目標)が採択され、「パーパス」を掲げる企業が増えました。 著書に「パーパス経営」がある一橋大学大学院客員教授の名和高司氏は、背景に顧客市場、人材市場、金融市場の3つの市場からの要請があると解説しています。 1つめの顧客市場では、「エシカル(倫理的)消費」と呼ばれ、社会全体や環境によい事業を手掛ける企業の商品を購入する消費性向が広がっているといわれます。特に1980年代以降に生まれたミレニアル世代以降の若者に、その傾向が強いようです。 同様の傾向が職場選びにもあり、ミレニアル世代やさらに若いZ世代は、就職や転職活動において、企業が環境や社会に配慮したサステナブルなビジネスをしているかどうかを判断基準に置いているといいます。これが人材市場からの要請です。 金融市場では、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点を重視する「ESG投資」が世界的な広がりを見せています。 こうした外的環境の変化を受け、企業は単に収益や株主利益を追求すればよいという時代ではなくなってきたといえます。このことが、パーパス経営が広がる理由となっています。
ブランド力の向上や採用に寄与
ビジネス・パーパス委員会を政府内に立ち上げたスコットランドなど、パーパス経営は欧米から広がりました。ですが、今は日本でも多くの有名企業が取り組むようになっています。 2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」をパーパスとして掲げたソニーは、コロナ禍の2020年度に過去最高益をあげました。味の素も2年かけてパーパスを策定したほか、2021~2022年にかけて多くの企業がパーパスを掲げるようになりました。 パーパス経営には数々のメリットがあるといわれますが、パーパスを単に掲げるだけでは意味がないことは留意すべきでしょう。経営陣がパーパスに沿ったさまざまな判断を下し、従業員一人一人に浸透させるように心を砕かなければ看板倒れとなります。素晴らしいパーパスを掲げるほど、実行に覚悟が問われ、なおざりにした際には外部からの視線も厳しくなります。パーパス経営はパーパスを掲げて終わるのではなく、そこから始まるといえます。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
掲載日:2023年2月24日