「関西出身者はノリが良い」のか
自覚しているかどうかにかかわらず、私たちの思考は一定の傾向やくせがあり、それは時として偏ったものの見方になっていることがあります。 一例をあげると、以下のようなものがあります。
血液型や出身地で、その人のパーソナリティーをイメージする 「O型だからおおざっぱ」「関西出身者はノリが良い」
性別、世代、学歴などで能力を推測する 「女性は理数系が苦手」「部下は年下がやりやすい」「〇〇大卒だから優秀なはず」
「性別」で任せる仕事や役割を決める 「体力勝負の仕事は女性は向いていない」「転勤を伴う仕事は独身男性が担うのがよい」
属性で判断する 「結婚してこそ一人前」「転職回数が多い人はいまひとつ信用が置けない」「外国人には細かいニュアンスが伝わらない」
大枠で見ると傾向を否定できないと感じるものがあるかもしれませんが、個々のそれぞれの人にとっては当てはまらないことも少なくありません。また、アメリカ国立衛生研究所の公開記事によると、「偏見」という言葉にはマイナスイメージがつきまといますが、偏見は、正常な行動の一部であり、危険などから「私たちが生き残るのに役立つ」といいます。 ただ、この無意識の偏見の影響を受けた判断を、当事者が不快に感じたり、扱われた側に不利益が生じたりするような、意図しない差別的な行動となってしまったときに問題となります。
私たちが持つ無意識の心理的傾向
アンコンシャス・バイアス、その先にある意図しない差別的な行動につながりかねないものとして、下記のような心理的傾向もあります。 ステレオタイプ:多くの人に浸透している固定観念やイメージで判断する ハロー効果:ある対象を評価するときに、一部の特徴に引きずられて全体を評価する アインシュテルング効果:慣れ親しんだ考え方やものの見方に固執してしまい、他の視点に気づかないか無視してしまう 集団同調性バイアス:特定の集団に所属することで、同調傾向・圧力が強まり周囲の価値観に合う判断をする
多様性の確保が企業活動にも重要になる
アンコンシャス・バイアスはなぜ問題視されるようになってきたのでしょうか。 東京都が2023年3月に公表した「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)1万人に対する大規模実態調査」では、保護者では約6割、児童・教員も約4割が「性別により仕事の向き・不向きがあると思う」と回答していました。そして、周囲の大人から性別を理由とした発言(=「男の子だから/女の子だから」)を聞くことが、児童の性別に対する意識に影響していました。アンコンシャス・バイアスは周囲の環境などによって形成されるという指摘です。 ビジネスの現場では男性がマジョリティーで、似たような価値観を持つ人で構成されていた時期があり、その間はアンコンシャス・バイアスが問題になることが少なかったといえます。 しかし、グローバル化の進展や人手不足などを背景に、多様な人材とともに働く職場や環境が増えてきました。グローバル企業を中心に「ダイバーシティー(多様性)」や「インクルージョン(包摂)」の重要性を掲げる企業も多くなり、アンコンシャス・バイアスに気づいてもらうことを目的として研修を導入する企業も増えています。 多様な人材を確保することはビジネスにおける競争優位性を保つためにも不可欠になってきています。大手コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査では「人種的・民族的多様性において上位4分の1の企業は、財務実績が国内の業界の中央値を上回る確率が35%高くなる」とその相関性を指摘しています。そのうえで多様性への取り組みは、「(企業を)より成功させる」としており、多様性に向けて、アンコンシャス・バイアスを認識することの重要性は増しているといえます。
大人の発言が子供の意識形成に影響
アンコンシャス・バイアスはどのように解消していくのがよいでしょうか。アメリカ国立衛生研究所の公開記事は、対処法として、まず、自分でも誰にでもそのような偏見はあると知ることの重要性を指摘しています。そのうえで、必要に応じて、自身の判断や考え方について、信頼できる友人や同僚に率直なフィードバックを求めたりすることも有効としています。 また、内閣府男女共同参画局の広報誌「共同参画」(2021年5月)では対処法として、「決めつけない、押しつけない」「相手の表情や態度の変化など『サイン』に注目する」などを挙げています。 私たちは物事を判断する際に、無意識のうちに、一定の傾向に沿った判断をしていますし、そのこと自体は正常な判断の一部です。ただ、無意識な判断が、客観的判断のじゃまをしていないか、そして誰かを傷つけたりしていないかについて、自覚的になることが求められます。また、時には、自身の判断が、客観的な情報と矛盾したり、他人を傷つけたり、おとしめたりするような差別的な行動につながっていないかを、冷静に考えることも必要といえるでしょう。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:渡辺 将之 掲載日:2023年6月19日