北海道の認定こども園に応募が殺到
保育園留学が始まったのは2021年11月。内閣府の一時預かり事業を利用し、北海道厚沢部町の認定こども園「はぜる」と、東京のスタートアップ企業「キッチハイク」がタッグを組む形で開始されました。人口約3,500人の同町での滞在に応募が殺到したそうです。 具体的な内容としては、保育園留学に来た親子が、町内の滞在施設「ちょっと暮らし住宅」で宿泊し、同町独自の食育体験プログラムに参加して、野菜の収穫などを楽しめます。価格は地域により異なりますが、同町の場合、留学期間1週間、大人1人、子ども1人で17.2万円となっています。 この保育園留学は、キッチハイク代表の山本雅也氏が、2021年7月に共働きの妻と子と一緒に、同町に3週間、ワーケーションで滞在したことがきっかけとなっています。日経クロストレンドの記事によると、山本氏は「自然にあふれたはぜるの保育環境は、教育意識の高い都会の親に確実に求められる」と考え、保育園留学の事業化プランを同町役場の政策推進課係長に提案したそうです。その予測通り、保育園留学は東北や九州など他地域にも広がり、大都市圏の親子が地方での暮らしを楽しむという流れが生まれています。
保育園留学を体験後、実際に移住する事例も
2023年6月にキッチハイクが公開した「保育園留学白書」によると、保育園留学に参加した家族は全国累計216組、人数としては、大人と子どもの合計で約750人にのぼっています。また、第1号の北海道厚沢部町ではリピート希望率が97%となっているなど、利用者の満足度が非常に高いとしています。 その北海道厚沢部町から始まった留学先は、現在は19拠点に増加(2023年5月末)。新潟県や熊本県などを含む1道10県に広がっています。 利用者の居住地を見ると、東京都59.3%、神奈川県14.8%、千葉県6.7%、埼玉県3.7%と、関東首都圏が約85%を占めています。親の年代は30~40代、子どもの年齢は0歳(6.7%)から6歳(9.1%)までが、ほぼ満遍なく参加しています。 こうした背景を受けて、キッチハイクでは「完全移住重視の時代から、ライフステージに合わせて弾力的に地域に住むやわらかな定住へのシフト」が進むとしています。
キャンセル待ち2,500組の人気プログラムに
一方で、親がリモートワーク可能な仕事であったり、長期休暇が取得できたりしないと利用が難しい面もあるため、働き方の多様化や柔軟性という問題と表裏一体のプログラムともいえます。 また、保育園留学の一つの狙いとして移住がありました。保育園留学を経験して「移住に興味を持った」「移住したいと思った」の合計が約70%にのぼりましたが、実際には、北海道に移住した事例がようやくでてきた段階です。 移住となると、一時的な滞在とは比較にならないくらい、働き方の問題は重要になります。コロナ禍がある程度落ち着き、一部にオフィス回帰の流れもあるなかで、完全にリモートワークが可能でないと、移住は実現できません。転職という選択をするにしても、その地域に仕事がある必要がありますし、首都圏からの移住となると年収の問題もでてきそうです。また、住宅や子育てに必要な医療や教育の環境を重視する親も少なくないでしょう。移住に向けたハードルは低いとはいえなそうです。 内閣府の2021年度「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」一般部門優良3事例に選出され、2022年度はキャンセル待ちが約2,500組もいるという保育園留学。2023年7月には、初の発達支援特化型として、北海道小樽市の発達支援事業所と連携し、取り組みの幅が広がっています。今後、保育園留学が広がるかどうかは、子育てや働き方の多様化、地方での暮らしや雇用の問題と密接につながっていきそうです。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
掲載日:2023年9月6日