広がる「メタバース採用」 次世代ネット「Web3」や「ゲーム」などで先行、日本でも

近年、大きな注目を浴びるようになったインターネット上の仮想空間「メタバース」。世界中で今、メタバース上での採用・就職活動が徐々に増え始めています。代表的なものが、メタバースでのジョブフェア(合同説明会)です。次世代インターネット「Web3」やゲームなど、メタバースとの親和性が高い分野で取り組みが先行しています。今後、どんな広がりを見せるでしょうか。

「Web3」特化のメタバース就職フェア

2023年2月16、17日、Web3に特化したマーケティング支援会社Hypeが、メタバース上でジョブフェアを開催しました。 Web3は、ブロックチェーンなどの技術を取り入れた、「分散型」と呼ばれる次世代インターネット技術を指します。Hypeが開催したのは、同分野の企業と人材のマッチングを目的とするもので、2月16日に技術職、17日に一般職向けに仮想空間上で開催されました。

メタバースWeb3ジョブフェアの開催を知らせるHypeのサイト 当初は2,000人の参加が見込まれていましたが、2日間で3,500人が参加したと報告されています。参加企業数は20社ほどで、分散化アプリ開発コミュニティー「BNB Chain」やクリプトメディア大手「Cointelegraph」など、Web3業界で知られる企業が多く参加していました。 技術職の求人では、最高技術責任者、バックエンドデベロッパー、フロントエンドデベロッパー、データサイエンティスト、一般職では、マーケティング担当者、ビジネスデベロップ部門、コミュニティーオペレーション部門、デザイナーなどがあったようです。 舞台となったのは、バーチャルプラットフォーム「Gather」のメタバース空間でした。往年のゲーム画面をほうふつとさせる8ビットの画面デザインで、参加者はアバターをつくり、ロールプレーイングゲームのように開設されたイベント会場を歩き回ることができました。企業ブースにいる別のアバターに話しかけると、ビデオ通話が開始されるという仕組みです。 Web3に特化したメタバースでのジョブフェアとしては、世界初の試みとみられます。

ゲーム内で採用も

こうしたメタバースにおけるジョブフェアは、この1年ほどで増えてきています。 フランス・パリに本拠地を構える、欧州最大のコンサルティング企業「Capgemini(キャップジェミニ)」は2022年4月、米国の大学生向けの就活イベントを開催しました。北米では初の試みといわれています。 またメタバースとの相性がいいとされるゲーム領域でも、採用活動が広がっています。代表例がオンラインゲームの「Roblox」です。 Robloxはユーザー生成コンテンツで成り立っており、個人クリエーターのほか企業が独自のゲーム要素を追加できるのが特徴です。そのなかで、コンテンツを開発するクリエーターを、同プラットフォーム内で直接雇用する仕組み「Talent Hub」の利用が広がっています。 ユーザーの拡大に伴い、コンテンツ開発者も数十人以上の人数を抱える企業や団体の参入が増えています。それによりTalent Hubに「Team Page」が登場し、プラットフォーム内でスタジオが個人クリエーターを雇用するという流れが生まれているといいます。

日本でもメタバースで新卒向け説明会

日本でも2023年1月、2024年卒業予定の学生を対象とする、メタバースを活用した新卒向け合同説明会が開催されました。就職支援会社「ネオキャリア」とメタバース事業を展開する「X」によるもので、メーカーや銀行など179社が参加しました。学生は、全国から3,666人が参加しました。

ネオキャリアとXが開催した合同説明会 この数年、コロナ禍の影響もあり、企業の採用活動にオンライン会議システムが活用されるケースが一気に増えました。オンラインでの面接は、立ち居振る舞いやしぐさなどから得られる情報が対面に比べて少なく、「見極めには不向き」との指摘も多くあります。ただ、対面での選考がしにくい社会情勢や、遠隔地に住む人材の選考がしやすい利点などもあり、一定程度受け入れられてきました。 求職者がアバターで歩き回るメタバースも、現状、表情やしぐさから得られる情報が少なくなります。そのため採用側の企業からすると、「使いにくい」と感じる場面は多そうです。一方で、求職者からすればより気軽に参加しやすくなるとも考えられ、人手不足が深刻な業種・職種では活用が進む可能性が考えられます。 2022年7月、アラブ首長国連邦(UAE)の最大都市ドバイでは、「ドバイ・メタバース戦略」が発表されました。今後5年でドバイのWeb3企業を5倍に増やし、4万人のメタバース関連雇用を生み出すとの目標が掲げられています。これを受けて、世界中から人材を集める必要から、同国の人材企業「Marc Ellis」は、メタバース空間にいる人材とのつながりを強め、採用活動を促進する計画を明らかにしました。 既存の採用活動を丸ごと代替するのには、メタバースにはまだまだ課題があると言わざるを得ません。しかし情報技術分野など、世界中の企業がしのぎを削る領域の採用では今後活用が進む可能性が高そうです。日本では、どのような利用が広がるでしょうか。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

文:細谷 元(Livit) 掲載日:2023年3月17日