Copilotで可能になること、ワード、エクセル、パワーポイント
マイクロソフトは2023年3月、ChatGPTの屋台骨となっている大規模言語モデルGPT-4をワードやエクセルなどマイクロソフトのOfficeツールと統合した新ツール「マイクロソフト365 Copilot」を発表しました。Copilot(コパイロット)とは「副操縦士」の意味で、ビジネスパーソンの業務を適切に補佐し、ときになり代わって遂行する存在という意味と捉えられます。 これを使うと、ワード、エクセル、パワーポイントといったオフィスツールによる資料作成などの作業の多くを、自動化できると見込まれています。 文書作成ソフトのワードを例にとってみます。 マイクロソフトによると、Copilotの質問欄に例えば「ドキュメントAとエクセルシートBを参照して、2ページのプロジェクト提案書を作成」と入力すると、AIが当該のファイルを参照し、自動でプロジェクトの提案書を自然な言語で作成してくれるとしています。また「3段落目をより簡潔に」や「書類全体のトーンをもう少しカジュアルに」などの指示が可能で、文章要約や文章トーンの調整もできるようになるとしています。 同様に表計算ソフトのエクセルでも、「やりたいこと」を簡単な表現で入力すると、AIが自動でデータの整理、図表の作成・挿入、データを用いた影響分析などができるようになるといいます。プレゼンテーション資料作成ソフトのパワーポイントでも、すでに作成したワードやエクセルファイルを参照し、関連する写真の選択・挿入などを含めて自動で資料を作成してくれるといいます。 そのほかEメールの要約を作成したり、返信を下書きしたりといったことも「副操縦士」はしてくれるようです。 大きいのは、Web上に公開されている情報だけでなく、社内文書や議事録、メールのやりとりといった「社内データ」と連携できることです。それにより、社内事情などを的確に反映した社内資料をAIが自動で作成してくれると期待されています。
AIコンテンツの正確性やリスクへの対応
気になるのは、そうやって自動生成された資料が果たして利用者の「イメージ通り」もしくはそれ以上の正確さやわかりやすさでできあがるのか、ということでしょう。 発表時点でCopilotは限定された企業に提供され、試験運用が進められています。試験は数カ月続く見込みですが、Office 365部門の責任者ジャレッド・スパタロ氏は、AIツールのユーザーに対して「生成された情報をレビューし、ファクトチェックをするよう促している」と述べています。またAIに関する課題を明示し情報源を明確にすることで、AIの意思決定プロセスを透明化しているとも述べています。 実際にどれほどの精度で資料ができあがるのかは、現段階では未知数と言わざるを得ないでしょう。ただ対話型AIでは、ユーザーが入力した文字(プロンプト)によって、AIが出力する内容や精度、スタイルは大きく変わります。そのため、今後は「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれる「AIにうまく依頼をするスキル」が重要になるといわれています。 たとえば、翻訳タスクをAIに頼む場合、「この英語を日本語に翻訳してください」とシンプルに依頼をするよりも、翻訳の目的、スタイル、語調などを定義することで、求める翻訳アウトプットを効率的に生成することができるとされています。
自動化による時間節約効果
Smartsheetによる2017年のオフィスワーク自動化に関する調査レポートによると、1週間のうち4分の1以上の勤務時間が反復作業に費やされているとした人の割合は、回答者約1,000人のうち40%以上に達しました。また、反復的な作業を自動化することで、1週間あたり6〜7時間を節約できるとの回答割合は59%でした。 この調査は米国で実施されたもので、回答者の多くは反復的なタスクとして、Eメール対応、データ収集、データ入力を挙げています。AIツールが利用者の意図通りにこうした業務をこなしてくれるようになれば、オフィスワーカーの多くは、より多くの時間をそれ以外の業務に充てられるようになると言えます。 ChatGPTを巡っては、情報保護の観点から懸念もつきまとっています。JPモルガン・チェースなど、海外の一部大手企業が利用を制限していると報じられているほか、3月末にはイタリアが一時禁止するなど、欧州では禁止論も高まっています。 ただ、その一方で適切な利用方法を模索し、積極的に活用していこうという向きもあります。AIやロボットなどの自動化技術は人手不足が顕著な国ほど導入が進むともいわれおり、日本企業はこの新しい技術にどう向き合うかという課題に直面しています。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:細谷 元(Livit) 掲載日:2023年5月1日