<お話を伺った方> 内田 真由美(うちだ まゆみ) ヤフー株式会社在籍、副業で岡山県笠岡市のシティプロモーション推進ディレクター(2020年10月〜)
きっかけはコロナ禍でのリモート化
はじめに、内田さんのご経歴とヤフーでの業務について教えてください。
ヤフーには2014年から勤務しています。その前はリクルート系の企業で営業コンサルティングなどをしていました。ヤフーでは最初にECサイト「Yahoo! ショッピング」の編成やUI改善などをしていましたが、もともと「地域を元気にする仕事がしたい」との思いもあって、2018年にデータソリューション事業本部に移らせてもらいました。 ヤフーはメディアやECなどさまざまなネットサービスを手がけており、集積したビッグデータを分析して企業や自治体の事業活動を支援するのがデータソリューション事業です。ヤフーのデータを使うとどんなことができるかご説明しながら、お客様のニーズにあった活用方法をご提案します。
副業はどういった経緯で始められたのですか。
新型コロナウイルス感染症拡大で2020年の春にフルリモートでの勤務になりました。通勤時間がなくなったことで、その時間を、学びやスキルアップに活用したいと思ったのがきっかけです。本業では自治体の方々にヒアリングをしながら提案を行っていましたが、「現場のニーズをもっと知りたい」「自分のスキルが社外でどう生かせるかチャレンジしてみたい」という思いもありました。 そこで副業を探していたところ、ビズリーチの公募で出会ったのが笠岡市の求人でした。私は神戸市出身で岡山県は隣の県ですから親近感はありました。いくつか自治体の副業募集ページは見ていましたが、笠岡市のサイトからは担当者の「街をよくしたい」という熱意や「一緒に作っていきたい」という思いがすごく伝わってきました。特に「バックアップは全力でしますので、新しい試みや提案など積極的にチャレンジしてください」といったメッセージが心強かったです。副業も行政のお仕事も初めてで、不安もありましたが「この方々と一緒にまちづくりをしたい」と思ったことが決め手になりました。
副業は週に1~2回、月に12時間
笠岡市でのお仕事はどのようにされているのか教えてください。
業務委託の形で、基本的には週に1~2回オンラインでミーティングをしています。笠岡市の仕事に関わっているのは月に12時間ほどです。原則的に全てリモートで、笠岡に行くのは年に1回くらい、機会があるときにという感じです。 業務内容は「シティプロモーション」で、本業で培ったデータ活用やサイト運用、社内外での企画ディレクションの知見を、市のPR活動に生かして仕事をしています。 例えばSNSの発信では、ターゲット設定、投稿タイミング、トレンド分析などのアドバイスをします。他地域にいらっしゃる方に笠岡市の観光や特産品を知っていただくために関心を呼ぶようなイベントの企画運営にも関わっており、コンセプト設計、構成企画を笠岡市の職員の皆さんと作成し、プロジェクトの進行管理を行っています。 特産品の紹介をするオンラインイベントを始めたところ、2回目で全国から100人の方にご参加いただきました。地方自治体はどこも人口減が課題になっています。移住者を増やすのはなかなかすぐには難しいですが、こうした交流をきっかけに、観光や「ふるさと納税」のような形で関わっていただける「関係人口」を増やしていくことが大事だと思っています。

実際に笠岡市でのお仕事をされて、どんな印象をお持ちですか。
本業でも自治体の地域活性化の支援をさせていただいていますが、やはり実際に当事者として関わり、共通の感覚をもてるのがこれまでと大きく違う点ですね。先ほどの特産品のイベントにしても、市の職員の皆さんが生産者の方と丁寧にコミュニケーションを取りながら地域課題に向き合っているプロセスが分かります。実際に一緒にプロジェクトを進めていると「こういうところにデータが使えるな」という気づきがたくさん得られます。 本業では「どんなデータがあるか」「どういう使い方ができるか」は分かっていますが、やはり現場での実行プロセスや地域課題は深く理解できていない部分があると思います。一方の自治体は、課題意識はありますが実際にデータで何ができるかというイメージを持ちづらいというケースが多いです。本業でも自治体の方などにヒアリングしながら提案するわけですが、自分自身が感覚で分かるのと課題を教えていただいて考えるのとでは「これほど差があるのか」と実感しています。 業務外では、自分の関わる全く違うコミュニティーが新たにできるということに精神的な豊かさを感じていますね。新しい気づきやコミュニケーションも生まれますので、楽しいですし、成長にもつながったと実感しています。また、自分自身もすでに笠岡市の関係人口の一人になるわけですが、親しみを感じられる地域が増えることが、観光や移住につながるということも副業の経験から感じました。
広がったキャリアの可能性
ヤフー社内では副業をするのにどんな手続きがあるのでしょうか。
事前申請をして承認を得る必要があります。 申請内容は、副業に関わる時間と本業の時間外労働時間の合計が基準を超えないかや、本業と競合しないかといった基本的な項目です。不明点などがあれば上長や人事に相談もできますし、社員が身体的に無理のない状態で、スキルアップするためにチャレンジすることを応援してくれる環境があります。
副業に取り組むようになったことで、キャリア意識などに変化はありましたか。
実は副業を始めて1年が過ぎた2021年10月に、ヤフーでは新たに自治体のDX推進やイベント企画を手掛ける部署にも所属することになりました。笠岡市での業務を通じて、現場の方々と一緒にさまざまなプロジェクトにチャレンジしながら、データ活用の必要性や可能性を伝えていきたいと感じたのが理由です。 新しい部署は「コラボレーション推進部LODGE(ロッジ)」といいますが、公共公益を重視した社会課題の解決や新機軸の技術紹介をミッションにしています。地域の課題に対して、VR(仮想現実)などの新しい技術を取り入れながら、新しいアプローチができるのではないかと感じています。 今、笠岡市から副業の業務委託料をいただいていますが、金銭的な報酬は付随的なものです。違う環境での仕事を経験できることで、本業もプライベートも大きく可能性が広がったと感じています。それが副業の価値ではないでしょうか。
一方で、副業をする際に注意したほうがいいと思うようなことはありますか。
当然かもしれませんが、まずは本業で副業ができるのか、できるとしてどういう条件なのかという確認は必要ですよね。そのうえで、副業先でどんな働き方になるのか、どんなアウトプットが求められるのかといったことは入念に確認したほうがいいと思います。 自分のことでいえば、笠岡市にはどんな勤務になるのか細かく確認しました。週1回程度の勤務とはいえ、報酬をもらってすることなので、求められている水準をクリアするのは当然だと思っていました。例えば企画書やレポートのフォーマットやボリュームなどです。先方の期待するアウトプットと想定のズレがあると、約束の時間内での業務が難しくなります。このあたりを曖昧にしておくと、後で問題が出てくることが考えられますので、はっきりすることが大事かと思います。
副業を検討されている方に、メッセージがあればお願いします。
副業は、エンジニアやデザイナーなど専門職の方を対象とする案件が多いイメージの方もいらっしゃると思います。私もビジネス職ですので、最初は自分が関われる副業の案件自体があるのだろうかと感じていました。自分の周囲にも「副業を検討しているけど、なかなかいい案件がなくて」という方もいて、確かに自分に合う仕事に出会えるかどうかは運の部分もあるかな、とは思います。 しかし、コロナ禍を受けて多くの人が副業を検討し始めて、今、企業や団体がそうした人材をうまく活用できないか考え始めていると思います。チャンスはこれから広がっていくのではないでしょうか。自分自身、開始前に想定していた以上の満足感を得られているので、副業に興味がある方は、可能ならばぜひチャレンジしてみてほしいと思います。 今後も、本業と副業の双方向でスキルアップをしていきたいなと考えています。
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撮影:土屋 剛