経営と副業で3足のわらじ 「得意なこと」と「やりたいこと」を分けて歩む第2のキャリア

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2021年、20年以上勤めた人材大手を退職した岡田由美さん(仮名)は、2019年に設立したばかりの教育系ベンチャー企業に経営陣として入社しました。それとほぼ同時に、業務委託という形で神奈川県小田原市とさらにもう1社でもキャリアをスタート。突然「3足のわらじ」で仕事を始めた背景には、「得意なことを生かす仕事」と「やりたい仕事」を分けるという、副業を前提とした新しいキャリア観がありました。

目次
  1. 「子供との対話」のため、転職を検討
  2. 「通りそうなプレゼン」を捨て、やりたいことを主張
  3. 収入は2分の1、共働きで支え合うメリット

<お話を伺った方> 名前:岡田 由美(おかだ ゆみ、仮名)40代 20年以上勤めた人材大手を2021年6月に退社。教育系ベンチャー企業に経営陣として入社したほか、副業として新たに民間企業1社と神奈川県小田原市から業務委託を受けている。

「子供との対話」のため、転職を検討

今回の転職の経緯について教えてください。

6歳の子供がいるんですが、成長とともにもう少しちゃんと子供と向き合いたいなという気持ちが強くなっていました。幼いときに比べれば物理的な手は離れてきていますが、これからはちゃんと対話に時間を使っていきたいと思うようになって。前職がかなり忙しい状況だったので、環境を変えることを考えていました。 前職の会社のことは大好きだったので、辞めるときは後任が出てくる時期に合わせ、迷惑がかからない状態にしたいと思っており、タイミングを検討していました。人事関連の仕事をしていたのですが、社内で組織再編の動きがあり、ちょうどいいと感じて辞めることを決めました。 ただ、子供との対話を増やそうと考える一方で、長い人生のことを考えると子育てだけにコミットするのではなく、第2のキャリアも築く必要があると思っていました。 そうした状況のなかで、前職を辞めるということを今在籍している教育関連のベンチャーに話したところ、お誘いいただいたのです。経営陣として加わってもらいたいというお話で、それならばある程度時間は自由になるし、また私自身、前職で管理職経験は長かったものの、経営までは関わっておらず、興味はあったのでお受けすることにしました。

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新しい会社でのお仕事に加え、副業をしようとお考えになったのはなぜですか。

次の仕事を探すときにビズリーチに登録したんですが、そうしたら前職での経歴に興味を持ってくださった複数の大手企業などからスカウトをいただきました。多くは正社員でのお話だったのですが、それでは前職時代と状況は変わらないだろうなと思っていたので、お断りしていました。 一方、副業として業務委託などを受けるという選択肢に気づかせてもらいました。ちょうど前職を離れるタイミングで、小田原市で女性活躍を推進する仕事の募集が目に入り、自分の力を試したいなと思って応募しました。

力試しですか。もう少しご説明いただけますか。

はい。それまでも自分なりには仕事をしてきたつもりではありましたが、1社にずっといたわけなので、自分の新しいキャリアを考えるにあたって果たして外の環境で自分はどれほどのものなのかを知りたいと思いました。小田原市の募集を見たときに、恐らくこれは100名以上から応募があるだろうと。前職時代の知り合いとか、そういったものに関係なく、自分はその選抜に通るかどうか知りたいという気持ちです。 また行政の仕事には関わったことがなく、興味がありました。小田原市にも観光でよく訪れていました。民間企業での私の経験が、行政の分野でお役に立てるのであれば、と思い応募しました。

「通りそうなプレゼン」を捨て、やりたいことを主張

選考はいかがでしたか。

応募にあたって小田原市の状況を聞きました。「5年間の計画目標などがあったが、達成できていない」と。その課題を考えるうちに、これは組織の土台作りの問題だなと感じました。女性活躍のための個々の施策をどうこうするというより、それを推進していく組織をきちんと作れば回っていくと感じたのです。 選考過程でプレゼンテーションがあったのですが、行政の業務委託契約で、期間は半年。そうなると普通は半年以内にやること、できることをプレゼンすると思うんです。でも、半年でいなくなるリーダーに何ができるのかと。そこで私は、いったん期間のことは忘れて5年後にも続く計画を立ててプレゼンしました。 実は自分でもこれは、前職を辞める前ではできなかったことじゃないかなと思っています。恐らく、無意識に選考に通りそうな形に整えてしまったと思うんです。でも前職を離れ、全く別の形でキャリアを組み直そうとしていたときだったので、選考に通るかどうかよりも「自分のやりたいこと」が認められるかどうかを優先しました。結果的にはそれが良かったのかもしれません。でも自分の「やりたいこと」「やるべきこと」が認められたという意味で、これは私にとって非常に大きなことで、かなり自信になりました。

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小田原市のほか、もう1社でも副業をされていますが、マルチで働くメリットとは何でしょうか。

もう1社のことは詳しくお話しできず、申し訳ありません。働く時間の配分としては本業ともう1社、小田原市でそれぞれ6:2:2くらいです。小田原市に関わるのは週に1~2回で月に1度くらいは市役所を訪ねます。 一番大きいのは、自分の「未経験だけど、やってみたいこと」と、「得意なこと、強みがあること」を分けて考えられるようになったことでしょうか。今の私にとっての「未経験だけど、やってみたいこと」は本業の教育事業です。一方で、「得意なこと、強みがあること」は、前職での人事やマネジメントの経験を生かした、小田原市やもう1社での業務委託の仕事です。1社でしか働かない場合、「やってみたいこと」と「得意なこと」にズレがあるとどちらかに目をつむらなければいけません。ですが複数の仕事を持てば、得意なこと、やりたいことを分散させて、収入や満足感、達成感を全体で得ていく、といった考え方ができます。 私としては、こういう考え方をすると自分がとても自由になった感じがします。個人としても1つの組織に属さないのはリスク分散になりますから、会社に依存しなくて済みますし、ある意味、個人と企業が対等になるような感覚を覚えます。このことがとても大きな発見でしたね。

収入は2分の1、共働きで支え合うメリット

1社に深くコミットする働き方は、収入などの安定性が優れているとされてきました。この辺りについてのお考えはいかがですか。

実は、収入面は前職のときと比べると2分の1くらいに減っています。夫の収入もあるので、生活が立ち行かないということはありませんが、娘との時間や自分のしたいことを優先したことで、収入面に影響が出ているというのは事実です。 ですが夫は「やりたいならやればいい」と応援してくれていて、とてもありがたく感じています。夫は会社員ですが、私ももし彼がある日突然「政治家になりたい」「お笑い芸人になりたい」などと言い出しても、それが本気なら応援できる関係でいたいと思っています。生活の支出は今まで半々でやってきていますが、これからは私が少し多めに家事をして、バランスを取ることになるでしょうか。 共働きは家事などの大変さが取り沙汰されることが多いですが、収入源が複数あるので、夫婦のどちらか一方が大きなチャレンジをしやすいというメリットがあるのだと感じています。もし自分が一人で子育てをしていたら、同じ決断はできなかったかもしれません。

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お話を伺っていると、ご夫婦の関係も含めて、社会の変化に合った新しい働き方を実践されているような印象を受けます。

社会の変化に合っているかはわかりませんが、新しい試みという意味では、最近メディアでも取り上げられている「ホリゾンタル(水平的)・リーダーシップ」には興味があります。 これは前職の頃からの関心ではあるのですが、1つの組織では、部署などの体制に合わせて垂直的なマネジメントをしますよね。いわゆる「縦割り」といったような。でも近年はそれぞれの強みを持った個人がプロジェクト単位で集まりチームを組成するといった、水平的なマネジメントの手法が出てきています。エンジニアなどで顕著なのかもしれませんが、自分のこれからのキャリアでは、そうしたリーダーシップの取り方、働き方ができないかと考えています。 小田原市では、市役所のなかに女性活躍の推進リーダーがいて、他にメンバーが兼務を含めて10名強います。私はそのチーム全体を見て、どうやってチームを運営していくか、リーダーの育成を含めてプロデュースしています。そういう意味では、副業は「ホリゾンタル・リーダーシップ」が取れる貴重な機会なのかもしれません。まだまだ始めたばかりですが、こうした働き方で、ぜひこれからのキャリアを築いていきたいですね。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

撮影:横濱 勝博