<お話を伺った方> 名前: 青木 一剛(あおき いっこう) 大手IT企業勤務。2021年8月から鹿島アントラーズ・エフ・シーで副業。
コロナ後、「いかにファンベースを拡大するか」
副業のアントラーズでは、どのようにお仕事をされているのですか。
業務委託の形で、週8時間が目安になっています。週に2度ほどオンラインで会議に出て、残りの時間は施策を練るための調査や資料作成等をしています。 本業のIT企業では、広告コンサルティング・マーケティングを担当しているのですが、本業の業務の合間の空いている時間や、休日の時間を副業に充てています。 新型コロナウイルスの感染拡大の影響でスポーツビジネスは非常に厳しい状況になりましたが、そういったなかで「限られたリソースを最大限に活用しながら、アントラーズファンベース(基盤)を増やす」ためのコンシューマー(消費者)向けマーケティング戦略の立案とその遂行がミッションです。 具体的にいうと、ファンの方を増やすにはどうしたらいいか、スタジアムにどうやって来てもらうか、グッズの販売や各種SNSでのコミュニケーション設計をどうするかといった個々の課題について、中長期の戦略を考えたうえで、短期的な施策に落とし込んでいます。 現在、副業を始めて4カ月くらいですが、これまでのビジネスモデル、問題点をデータをもとに整理し、将来を見据え、これからのマーケティング戦略を提案しています。
今回の副業を始めた経緯について教えてください。
自分はわりと長期でキャリアプランを考える方なのですが、遅くとも5年以内にはプロの経営者、ないしCMO(最高マーケティング責任者)になりえる人材でありたいと考えています。過去の転職の際も、この目標から逆算して「自分には足りない経験を積むことができ、自分が成長できる環境に身を置こう」と考えてきました。 今の会社は5社目ですが、1社目の金融機関在籍時に、MBA(経営学修士)を取得するため米国に留学させてもらいました。そのときに周囲の友人などと話していて、随分とキャリア観は変わりました。向こうでは「会社に依存せず、自分の責任で自分のキャリアを構築していく」という考え方が当たり前で、影響を受けています。 今の会社には2020年に転職したのですが、副業が認められていました。留学中の経験もあって副業にはもともと興味があり、検討を始めたという流れです。本業とは別に自分がワクワクするような仕事をしたいと思って、関心のあったスポーツビジネス中心に、ビズリーチなどのサイトで求人を調べました。いくつか検討し応募した結果、幸いにもアントラーズで副業をすることが決まりました。
アントラーズでの副業は、どのあたりに魅力を感じましたか。
サッカーが好きなので、単純に心からワクワクできて、なおかつ自分のキャリアの幅を広げることができそうな案件だと思ったからです。 実は当初、アントラーズの求人は「新規事業担当者」だったんですが、私のバックグラウンドを考慮してもらい、「コンシューマー(消費者)向けのマーケティングをしてみないか」と提案されました。 「ワクワクしたい」という自分の欲求もありつつ副業をしながらマーケターとしての幅を広げたいという思いもあったので、副業でマーケティングに関われるのは、まさに私の希望通りでした。柔軟な提案・採用をしてもらったことにとても感謝しています。 また、スポーツが好きなのでスタジアムなどで現場の空気を直接感じられるというのも大きな魅力です。試合に向かっていく選手たちを間近に見ると、やはり興奮しますし、「こちらも本気で臨まなくては」と、モチベーションになります。
挑戦する雰囲気に感じる鹿島の「気概」
副業を実際にしてみて苦労することはありますか。
基本的にはあまりありません。強いていうとすれば、アントラーズは副業人材を受け入れるのは初めてのことで、どのように情報セキュリティと円滑なコミュニケーションを両立するかというのは課題の一つだったかもしれません。 働き始めのころは、アントラーズ内では共有される情報が、開示ルールなどの制限によって業務委託の私には届かないことがあり、「あれ、青木さんにこれ共有されていなかったっけ?」といったことは起こりましたね。 副業での勤務という立場ゆえに、自分から意識してコミュニケーションをとらないと日々更新される情報にキャッチアップしにくいということに気付きました。そのことを率直に上長に伝えたところ、それまでよりしっかりと情報共有の時間をとってくれるようになり、今では活発なコミュニケーションができています。アントラーズは風通しがとてもよいので、今後も何か気付いた点があったら上長に相談しながら解決していきたいと考えています。 また、私はマーケティンググループでマネージャーのサポートの立場で戦略策定に関わっていますが、やはり社内での経験が豊富な社員に比べると、現場の状況がわかっていない面もまだまだあります。 私の考える戦略が現場とかけ離れてしまうと、効果的・実践的な施策は打ち出しにくいですし、現場を知らない人間の考えた戦略では、「チーム一丸となってやるぞ」というモチベーションには絶対なりません。 ですので、その点は現場に詳しい社員と1対1でオンライン面談したり、シーズン中は月に1回を目標に本拠地のカシマサッカースタジアム(茨城県鹿嶋市)の試合に足を運んだり、あるいは別のスタジアムやサッカー以外のスポーツの試合観戦もして「こんなことできるかな」と考え、社員のメンバーとディスカッションしています。
外部人材に対する期待を、どんなところにお感じですか。
先ほどコロナの話題が出ましたが、今まで依存してきたビジネスモデルが成り立たなくなってしまったという危機感は非常に強く感じています。 だからこそ新しい戦略、新しいビジネスモデルが必要なのだという意識は、組織全体から感じられます。「これまでは目の前のことにかかりきりだったけれども、これからは外からの新しい視点によってそれを変えていこう」という意識が強くあるように思います。 その理由として、メルカリが経営権を取得したこともあると思いますが、アントラーズがJリーグのなかでも人気・実力ともに高く、リーグを牽引してきた歴史ある名門クラブということも大きいと思います。関係者には「日本のフットボール界をリードし、世界に挑戦していこう」という気概と自負、既成概念にとらわれず新しいことにチャレンジしようという柔軟性をとても感じますね。どんな会社にも業界の常識や慣習にとらわれてしまう部分はあると思いますが、外部人材との掛け合わせによって「慣習の壁」を乗り越えようとしているのかなと思っています。
副業でキャリアの「空白」を埋める
実際にされてみて、「副業」という働き方に対してどんな印象をお持ちですか。
スポーツには興味があったので、実はアントラーズの社員としての求人を見たことも過去にあります。でも実際に転職となると、待遇やその後のキャリアのことなど、考えなければいけないことがたくさん出てきますよね。「楽しそう」や「経験してみたい」だけでは難しいかな、と二の足を踏んでいました。 その点、副業ならキャリア上のリスクを抑えながら中に入って経験できますし、もしそこで、もっと本格的に関わっていきたいという気持ちになったら、転職するという選択肢も出てくるかもしれないわけですから。 また、マーケティングのプロフェッショナルであれば、広告出す側と受ける側の両方の立場に精通しているのが理想です。以前は飲料メーカーで「プレーヤー(ブランドマネージャー)」としてマーケティングを担当していたのですが、今のキャリアが長くなればなるほど、広告出稿側である「プレーヤーとしての経験が少なくなってしまう」という思いもあります。デジタル領域、マーケティング領域ともに進歩は早く、数年前の常識が通用しなくなることはザラです。副業をすることで、そうしたキャリア上の空白を埋められる、今後のキャリアの幅を広げられるというのは、非常に大きなメリットだと思います。
キャリアプランを描く際の選択肢が広がったということですか。
そうですね。転職をベースにすると、一つの時期に一つのことに集中しなければいけませんよね。そうするとその期間に、過去に経験した違う分野でのスキルはどんどん「賞味期限」が短くなっていってしまいます。それが副業をしていれば、仮に次に転職をしようとなったときも本業以外の実績を残すことで、自信を持って次の企業で即戦力として貢献できると思います。 今の仕事はとても好きなので、すぐ転職ということは全く考えていませんが、やはり「一つ」を選ぶというのは誰にとっても難しいことなのだと思います。それが他の選択肢を切り捨てずにしたいことができるというのは、自分にとってはまさに新しい可能性です。現在も他の副業でいくつかお手伝いさせていただいていますし、もしいつかアントラーズの案件から離れるときが来ても、別の副業は考えると思いますね。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
撮影:横濱 勝博