上昇する転職者の平均年齢
「45歳定年制」が話題になり、各企業でも定年制度の見直しが進むなどキャリアが多様化していますが、いわゆる「転職の限界年齢」は現在どのようになってきているでしょうか。
佐藤 私は1997年から人材紹介の仕事を続けてきましたが、2000年代の初めごろには「転職は35歳まで」という「35歳転職限界説」がよくいわれていました。しかし、現在はそこまで年齢が意識されなくなった印象です。 私が最近、東証1部上場企業にご紹介した方は52歳。転職経験はなく、1社に30年間勤めてきた方です。そういう方でも転職に成功しています。年齢よりも、他社で通用する専門性があるかどうかのほうが重要になっています。 新浪さんの発言も、そういう意図だと私は解釈しています。自分の将来やキャリアをまったく考えずに、会社にしがみついていたら成長できない。45歳までに世の中に通用する専門性やスキルを身につけなさいという意味であると理解しています。 高本 弊社のデータをご紹介すると、2020年に転職が決まった人の平均年齢は39歳でした。5年前に比べると2.2歳ほど転職者の平均年齢は上がっているんですね。 ただし、現実問題として年齢が上がるほど企業の採用数は減りますから、転職活動に一生懸命取り組まないと成功しません。現在の社内の立場に慣れきって、その状態でなんの準備もせずに面接に臨まれる方なども多くいらっしゃいます。面接する会社のホームページぐらいは見ておいてほしいのが正直なところですね。 小野 40歳を超えての転職は、仕事への思いや会社への強い関心が大切です。まずはそれを伝えられるように、書いたり話したりして言語化しておくというのが大事かなと思います。私自身も42歳で転職していますが、名古屋に優秀な人材を集めて、名古屋の経済をもっと発展させたいという思いを面接で伝えて転職が決まりました。
転職でスキル以上に大切なものとは
佐藤 転職理由が「今の会社は業績が悪くて…」では弱いですね。できるだけ前向きなもののほうがいい。これは年代を問わずですが、転職の目的を見失っている人はそこを再確認したほうがいいかもしれません。 高本 年齢を重ねるとご自身の人脈で転職先を探される方もいらっしゃいます。実際、年齢を問わず転職が決まった人の2割以上が縁故採用というデータもあります。スキルを磨き、キャリアを積むのはもちろんですが、人脈も大切だということです。 ただ、人脈が広いといっても限界があるのも現実です。自身のキャリアの可能性を知るためにも、転職サイトに登録することは最低限やってほしいですね。転職サイトはたくさんの企業やヘッドハンターが見ていますし、新しい人脈にもつながる可能性がありますので。 佐藤 最近は50代の登録者も増えていますから、抵抗感はないようですね。 小野 私たちヘッドハンターは「この方のキャリアを生かすには、どのような職種がいいのだろうか」と真剣に見ています。自分の市場価値は自分自身ではなかなかわからないものですよ。ある求職者と面談していたら、ものすごく傾聴能力が高い。ご本人に伝えたら「ふつうだと思いますけど」と意外な表情なんです。本人も気づかない強みを見つけ出して企業に紹介するところにも、私たちの介在価値があると思います。 高本 例えば、航空会社でキャビンアテンダントのシフト管理や育成等を担当していた人は、コールセンターの採用担当者が「個人のモチベーションを高めるシフトづくりや女性のマネジメントができそうだ」と考えるかもしれない。 最近は、「カスタマーサクセス」といって、顧客の成功や成長を積極的に支援する職種が注目を集めています。自分のスキルが、初めて聞く新しい職種に合うことだってあるでしょう。自分で探しても限界があるからこそ、転職サイトに登録する意味があるんですね。

近年は、肩書よりも長く働けるかどうかを重視
40代、50代は転職後の肩書やポジションにこだわるという話があります。たとえば「部長以上でないと納得しない」「役員候補で採用してほしい」などです。実際にはどうでしょうか。
佐藤 40代以上になると、肩書やポジションにこだわる方がいらっしゃるのは確かです。逆にまったく気にされない謙虚な方もいて、どちらかといえばスペシャリストの方に多い。 例えば、人事部門でずっと働いてきたのに、異動で別の職種になった。どうしても人事の仕事に戻りたいからと転職するというケースです。そのように、仕事内容を第一に考えて転職活動する方は早く決まりますね。 近年は、肩書より長く働けることを重視する方が増えています。60歳を過ぎても働き続けることを希望される。「今の会社では60歳を過ぎると居場所がない」というわけです。人生100年時代という認識が広がってきたといえます。 高本 同じ50代でも、前半と後半では希望する内容が違ってきます。50代前半はまだお子さんの教育費などがあって年収に目が向くことが多く、50代後半になると、自分がしたい仕事、自分のスペシャリティーを生かせる仕事に就きたい。そういう傾向があるようです。 組織のしがらみは面倒だから、責任あるポジションは不要という方もいます。なんなら業務委託でもいいと。そういう柔軟な考えの方のほうが決まりやすいですね。 小野 どちらかというと肩書を意識するのは企業側かもしれません。「今の会社でこのポジション、この年収ならそれ以上の待遇でないと・・・」と考えて二の足を踏んでしまう。 私がご紹介したなかに、大手自動車メーカーで部長まで務めた方がいて、57歳のときに、従業員200人ほどの鉄鋼会社に転職されました。技術力がある会社で、その方がやりたい仕事があったんですね。でも、鉄鋼会社の社長さんは「大企業の部長まで務めた方に来られても…」とちゅうちょされたので、「いやいや、ご本人は問題ないと言われていますから」と説得しました。 実際に転職すると、その方はわずか2年で副社長になり、会社の利益は2倍になりました。中小企業やベンチャーは、考えすぎないほうがいいと思いますね。 佐藤 仕事のやりがいを求めて、大企業から中小企業へ転職する方がいますね。この流れは今後も加速するでしょう。 一時的に年収が下がっても、将来への期待で転職される方は、低く見ても転職市場に3割程度はいる印象です。目先の収入より将来に目を向けるほうが確実に成功します。

小野 その57歳の方も初年度は年収がだいぶ下がりましたけど、中小企業の魅力は70歳を超えても働けることです。その点、大企業は社内規定が厳しくて難しい。長期で見ると、中小企業の方が収入は上回ることがあります。 高本 企業は、人手不足で採用に苦労しているところが多い。募集要項の見直しはもちろん、今後は女性・シニア・外国人をいかに効果的に取り入れていくかというところも、キーになってくると思います。 特にシニアの方々は、成長の重要なファクターになるはずです。労働力人口が減っていくなか、「40代までしか採らない」と言っていたら、企業の存続が危ぶまれます。企業側が意識を変える必要があるでしょう。 近年転職先として人気の高まっているベンチャー企業が成長するうえでも、大きな組織を知っているシニアの経験や知見は貴重です。欧米では「若い起業家+経験豊富なシニア」の組み合わせがよく見られます。シニアにはお金や肩書より、「社会に恩返しできればいい」という貢献意欲から働く方がたくさんいらっしゃいますから。

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構成:伊田 欣司 撮影:市来 朋久