座談会参加者(以下、敬省略) Aさん:27歳男性。出版社から創業間もない新興メディアへ転職。 Bさん:30歳男性。総合商社から医療系ベンチャーへ転職。 Cさん:34歳男性。テレビ局から東証グロース市場に上場するIT企業へ転職。 Dさん:26歳女性。食品メーカーから人材系ベンチャーへ転職。
親には転職を事後報告
みなさん、大手企業を辞めることに家族の反対はありませんでしたか?
A 実は去年、結婚して、家も買って、そんな人生の大転換点で転職活動を始めたんです。妻からは「どうして転職するのか?」を細かく聞かれて、それを伝えたら「じゃあいいんじゃない?」という温かい反応でした。本人も転職経験があるためか、転職することがリスクだという概念がないようで、とても心強かったです。親には反対されるのがわかっていたので、転職は事後報告にしましたけど。 D 私も事後報告です。両親は田舎に住んでいて、前の会社は名前を知っていても、今の会社は知らないので、「えっ」と驚いていました。「まあもう転職しちゃったから」で押し通しましたね。 C 僕は30代にもかかわらず、親に事前に相談しましたよ。母親から「あなたの人生で私は一回もダメと言ったことがない。でも今回だけは言わせて」と哀願されて困りましたね…。最後は自分の思いを伝えて、なんとか理解してもらいました。 A ちなみに前職を辞めるとき、先輩や上司に捨てぜりふを言われたりしませんでしたか? D ないですよ。人事部長が「戻ってきてもいいよ」と言ってくれました。そう考えると、いい会社でしたね。 C 僕もないです。みんな優しくて、所属していた部署のボスは「俺は君を引き止めるための武器がない。残念だ」と言っていましたね。 B 僕は先輩から「君は辞めると思っていたよ」と言われました。IT関連の部署は辞める人が多かったので、予備軍だと思われていたのかもしれません。 A みなさんギスギスしてないんですね…。僕は上司から「戻ろうと思っても居場所はないからな。うちの会社じゃなく、この業界に」と言われました。 D それは怖すぎます…。 A 実際はちゃんと働けているので大丈夫でしたけどね。
意思決定の方法がまるで違う
大手企業とベンチャーで、ギャップに驚いたことはありますか。
B 事前に細かく話を聞いていたので、ギャップは少なかったです。前職に比べると、エンジニア、デザイナー、営業、それぞれスペシャリティーを持っている人が多いと感じますね。 その点は素晴らしい一方で、だからこそガバナンスが利きづらいとも思います。商社だったら部長が決めたことにみんな従うといったイメージがありますが、今の会社ではエンジニアの観点から「違う」と思ったら簡単には従わない。それぞれが意見を主張して、合意をとっていくカルチャーなんです。 今までは自分の意見を主張するとき、どうやって部長を説得するかから逆算していたのが、今は全員の意見をそろえて調整していきます。その流儀にはまだ慣れないですね。

教育体制などはいかがでしたか。
B 社員教育はやはり大手企業のほうがちゃんとしていると思いました。今の企業は新規事業のメンバーが毎月増えていて、一人一人に丁寧に説明する時間があまりないんですよ。それでトータル100時間はある研修や事業の紹介を動画で準備してあるんです。それを見せるだけで、レポートの提出もない。成長するかどうかは個人次第という雰囲気です。 A 逆に僕は手厚く教育してくれることに驚いています。経営陣と毎日1on1があって、ビジネスの流儀や、データの扱い方などを細かく教えてくれるんですよ。僕が想像以上に使えない人材だった可能性もありますけど。それでも、「あなたが戦力になったら会社の総合力が上がるから」という考え方で指導してもらえるのがうれしいし、教育の優先度が高いことに感謝しています。 前職は、人もいて組織の体力もあったはずなのに、そういった教育のカルチャーが全くなかったんですよね。初日から「とりあえず取材に行ってこい」と谷に突き落とされるようなスパルタの教育方針でした。
ベンチャーであってもネクタイ必須で朝礼も
D 確かに、前の会社だと新人を育成する仕組みは形だけしかなかったんですよ。たぶん社内で人を育てなければいけないという危機感が、人事以外に浸透してないんじゃないですかね。新人教育がうまくいくか失敗するかは、OJT(On the Job Training)を担当する先輩と新入社員の関係性が構築できているかどうかにかかっていましたね。 その点、転職先では全部仕組み化されていたのが、いい面でのギャップでした。前の部署は毎月数名が入ってきて、だいたいは営業の予算達成ができるぐらいまでには育つんです。上長の能力とは関係なく、誰がその教育を受けても同じく成果を出せるシステムには驚きました。 あと、ベンチャーでも堅い部分があったのは、ちょっと意外でしたね。男性のセールスはネクタイ着用が必須だし、朝礼も毎朝あって、フルフレックスというわけでもない。そこは前職のほうが柔軟だったかもしれません。 A 僕もベンチャーはルールがないぐらいに思っていました。この前、見た目もベンチャーの人間になろうと思って、Tシャツに短パン姿でオフィスに行ったら社長に怒られたんですよ。「創業メンバーでさすがにそれは禁止にした」と言われました。
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文:鈴木 工 写真:市来 朋久 掲載日:2022年8月18日