座談会参加者(本文中は敬称略) Aさん:30歳女性。出産を控え、産休中。2度の転職を経験。 Bさん:38歳女性。7年前に結婚、子供はいない。転職は3回。 Cさん:39歳女性。小学校低学年の子供が1人。転職経験はなし。
「ゲタを履かせる昇進」なら願い下げ
以前に比べ転職する方が増え、男女を問わず主体的に「キャリアの選択」をする機会が増えてきました。キャリア形成について、同年代の男性などと比べて性別で違いを感じることはありますか。
A 今までは特に性別を意識はしてきませんでした。ただ、今まさに妊娠中で2022年内に第1子を出産予定なのですが、やはり育休の取得などでは違いがあるとは思います。もともと夫も私の出産に合わせて育休を取得予定だったのですが、会社から「どうしても業務が立て込むから、取得時期をずらせないか」と言われ、期間は後ろ倒しになりました。私自身は仕方ないと思っていますが、出産する女性に対して同じお願いはあり得ないと思いますので、制度利用という意味では違いはまだあると思います。 B 私も業務上で違いを感じたことはありません。ただ7年前に結婚したのですが、子供は積極的に持とうとはしてきませんでした。子育てをしていれば「明日から誰か出張に行ってくれない?」と言われたときに手を挙げにくくなりますよね。人生でやりたいことなどを考えたとき、私は仕事をしたいという思いが強いほうなので、キャリア形成における性別差を感じずに済んでいるのかもしれません。 C 私はけっこう性別での差を感じていますね。小学校低学年の子供がいますが、やはり子供がもっと小さい頃はそれまでのような仕事の仕方はできませんでした。夫の会社にも育休などの制度はありますが、やはり女性のほうが、キャリアの中断やキャリアチェンジを迫られるケースは多いというのが実情ではないかと思っています。 一方で、女性にいろいろなチャンスが生まれるようになったとも感じています。社内の年次的なこともありますが、私自身もプロジェクトリーダーなどの打診を受けることが増えました。ただ、純粋に評価されているならうれしいですが、どうしても女性について「ゲタを履かせる」ような風潮はあります。「どうして私なんですか」と聞いたときに、「子育てしている女性がやってくれるの、いいじゃん」と言われたことがありました。本人は悪気がなかったのでしょうが、正直「それなら願い下げだ」と思いましたね。

「キャリアの断絶」に対する不安
「キャリアにおける性別差」を感じるかは、所属企業の雰囲気によって大きく異なると思います。Cさんのように育児で「キャリアの断絶」を感じてしまう環境の場合、転職は有望な選択肢になるでしょうか。
C 難しいですね。私がいるような、歴史の長い日本の大企業ほど断絶を感じやすいとは思います。制度としては育休取得や時短勤務が評価に響かないようにはなっているわけですが、現実にはさまざまな影響があります。 例えば私は社内で飲みに行く機会が減り、社内事情に疎くなったりもしました。年次が上がると社内での調整業務などのウェートが増しますが、復帰後、社内事情を勘案した調整などをするのにハンディキャップを感じる場面があります。そうすると同じ会社にいるメリットが薄れるわけなので、だったら転職してもいいじゃないかという考えはわかります。 ただ大企業なら社内にも受け皿があり、働き方が多少変わったとしても、基本的な制度や人間関係が変わらない環境で働けるという安心感は大きいです。異動も多いため、復帰後のことを話していた部長が代わってしまうということも起こりやすいですが…。 A 身につまされます。私の今の会社はまだ歴史が浅く、人数も多くないので、実は私が産休・育休の取得者第1号なんです。私がしていた仕事はすでに後任に引き継いでおり、復帰後は「元の仕事」ではなく、別の業務に関わることになります。幸い経営陣と密に面談をし、復帰後の業務を検討していくことになっているのですが、やはり不安は大きいです。

B ライフステージに合わせた選択ができるといいと思いますが、正社員でしっかり働くような女性向けの転職情報って、かなり少ないと思うんですよ。「みんなどういうふうに仕事しているのかな」「転職しているのかな」ってネットで検索しても、ほとんど参考になる情報は出てきませんでした。営業職など人数の多そうな職種では少し出てきましたが、私の探していたマーケティング職などでは、企業を比較できるほどには情報が得られませんでした。そうした部分も、転職のハードルになっているかもしれませんね。
「キラキラし過ぎ」は共感しにくい
性別にかかわらず、子育て社員や女性の就業環境に関する記事などは目にする機会が増えているようには思いますが、それらについてどう感じていますか。
B 女性活躍のロールモデルのように紹介される方は、みんな「すごいなあ」とは思うんですが、基本的にそういう方の記事ってキラキラしすぎていて、書かれていない「裏の事情」が多くあるんだろうなと思ってしまうんですよね。実家が近くて親が頻繁に手伝いに来てくれているのではとか、世帯年収が高くて家事代行などのサービスを頻繁に使っているのではとか。 C わかります。偶像じゃないかと思っちゃいますよね。「朝4時に起きてご飯作って、6時からメールチェックしています」みたいな記事もありがち。子育てしながら管理職になった方としてはよく聞くエピソードですけど、それ、絶対毎日やれないよねと思います。

A 私も転職経験があるので、情報が飾り立てられているのは感じますね。採用パンフレットとかに取り上げられている人の話は、「特別な人が再現性のない仕事の仕方をしている」と思っちゃうことは多いです。企業としては一生懸命「すごい人」を出しているのかもしれませんが、求めている情報とズレは感じますね。「何億円も稼いでいる経営者が転職した」という情報を聞いて、「自分とは違いすぎて参考にならない」と感じるのに近いのではないでしょうか。
制度の有無より運用状況
仮に転職するとしても、企業選びのハードルが高いということですね。転職をご経験のおふたりは、転職先の選び方で体験から何か学んだことはありますか。
A 私は初めての転職のとき、公務員からベンチャー企業に移りました。その時の転職活動は苦しかったですね。性別とは関係ないですが、自分の強みが何か全くわからなくて、何がアピールできるかわからなかったんです。でも、ある人材紹介会社の担当者が親身に話を聞いてくれて、「ものごとを俯瞰して、全体最適を探る考え方と行動ができる」ことが特徴だと教えてくれて、今まで視野に入れていなかったベンチャー企業をすすめてくれたんです。それまではそんなふうにとらえたことがなく、第三者の意見を聞くことは大事だと感じました。

B 私もヘッドハンターの方にはお世話になりましたね。人と人なのでどうしても相性はありますが、合う方は私の条件にフィットした企業を紹介してくれましたし、面接に臨む際に企業側との期待値調整などもしてくれて助かりました。 性別に関係するところでいくと、制度として「産休・育休がある」というのは当たり前だと思っているので、重視しないですかね。それよりもその企業の第一線と思われる営業などの部署で、どれくらい女性が活躍しているのかを気にするといいかなと思います。 A 確かに。それを聞いて思いましたが、男性管理職も含めて、どれくらい子育てや女性のキャリアに理解があるかは大事ですよね。夫の会社は、制度は手厚いし、ホームページで男性の育休取得を奨励してもいます。でも実際の運用は、先ほどお話ししたように必ずしも制度を期待通りに使えるわけではなさそうです。上司の方は年配で、育休取得などもされていない方ということなので、大変さの想像ができないといったことが影響していると思うんですよね。育休だけが物差しではないと思いますが、こうしたことは世代間ギャップもありますから、性別に限らず、どんな人が管理職になっているのかを知るのも大事かなと思います。 C 私も育休の経験がある男性が上司だったときはすごく働きやすかったです。ついつい女性管理職の数などに目がいきがちですが、先ほど触れた「ゲタを履かせる問題」もありますし、それだけで女性の働きやすさを語れるわけではないですよね。私は転職はしていませんが、もしするとしたらそうした部分は気にするかもしれません。 第2回に続きます
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掲載日:2022年11月21日