十数年越しの「リベンジ転職」に失敗、そして さよならファーストキャリア3

2023年5月、12年間勤めた大手小売企業を辞めようと思い、転職活動を始めたAさん。初めての転職活動は手探りで、思ったようにはいきませんでした。転職活動の詳細を、数回に分けてお届けする連載の第3回です。 ※Aさんは実在の人物で、取材時点で転職活動を継続しており、匿名としています。

プロフィール 2011年、大手小売企業に新卒で入社。経理部門に長く携わる。社内での展望が描きにくくなり、転職を検討。国立大の大学院修了。2児の父で、38歳。

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偶然の縁

2023年の夏、Aの元に一人の転職エージェント「B」から提案が届いた。 「○○総研、××総研、△△総研の求人をご紹介します」 それはなんと、Aが新卒の際に「第一志望群」としていた3社そのものだった。 今回の転職活動にあたって志望業種は幅広く設定しており、コンサルティング業界も含んでいたため、外資系などさまざまなコンサルティング企業の紹介はそれまでも無数にあった。だがピンポイントで、かつて志望したシンクタンク系の3社が並んだメッセージは初めてだった。 案件の魅力もさることながら、B個人にも興味がわいて返信した。すると、知り合いではないものの、同じ大学の先輩であることもわかった。 縁を感じて、Aはそれらすべての会社への応募を依頼する。新卒の就職活動で、第一志望群だったそれらの会社への就職を果たせず、「悔しい思いをしたという感覚は、ずっとあった」。 だが結果でいえば、それらの企業の選考は通らなかった。3社以外にも同業でいくつか受け、1社は最終面接までいったものの、不採用だった。Bは「38歳という年齢が、同業界としては若干高くとらえられたかもしれない」と申し訳なさそうに話してくれた。

自分の可能性を、信じられるように

しかし、採用に届かなかったとはいえ、この異業種への挑戦はAの中に大きな変化をもたらした。 転職活動を始めたばかりのころは、「外の会社に出て自分なんかが活躍できるのだろうか」という不安が大きかった。だからこそ、現職に近い流通企業を多く検討したほか、企業からの直接スカウトには応募もできなかった。 だが未経験の業種でも最終面接まで進むなど、選考に手ごたえもあった。現職で積み上げてきたものは、異なる業種でも評価されるのだ。 シンクタンク系コンサルティング企業が全滅し、Bに「まだ私のお手伝いが必要ですか」と尋ねられた。Aは間を置かず、はっきりと答えた。「まだ私の知らない業界、会社がたくさんあるはず。ぜひ力を貸してください」 「外の世界にも、自分の生きる道がある」。そう思うようになっていた。

同業と、異業種で1社ずつ内定

時期は11月。 実は、別の転職エージェントから紹介され、夏からゆっくりと選考が進んでいた大手流通企業があった。その最終面接が月末に設定され、通過すれば数週間以内に内定を受諾するかが迫られる状況になった。 他の業界も検討するとなると、急ピッチで進めなければいけない。AはBに有望そうな企業のリストアップを依頼し、候補が10社ほど挙がった。インターネット大手、スタートアップ、人材、エネルギーなど多様な企業名の中に、誰もが知る日本の大手IT企業X社の名前があった。 当初、X社の志望度は10社のうち中位くらいだったとAは言う。だが、最初の選考からAはX社に好印象を持った。 「ミスマッチがないように、互いの理解を深めようとする姿勢があった。私の希望も聞いてくれたし、自社の説明も丁寧にしてくれた」 それまで受けた面接では、「選考の場」としての要素が強く「うちの会社についてどれくらいちゃんと調べていますか」と試すような企業もあった。企業としては当然の姿勢かもしれないが、「自分が必要とされている実感はなかった」とAは話す。 X社の面接官の1人で、募集ポジションの責任者でもあるという男性は「新しい取り組みをするために、リーダーとして若手をまとめられる人を探している。来てくれるならうれしい」と言ってくれた。X社の事業規模は現職の3倍以上。リップサービスはあったかもしれないが、そんな大きな企業の役職者から、そこまで言われるとは思っていなかった。 X社の選考は年末にかけて急ピッチで進み、Aは見事に内定を得た。Bからは「X社の規模で、これだけ速く選考が進むケースは珍しい」と言われた。同時に進行していた大手流通企業からも内定を受けており、Aは決断を迫られることになった。 さよならファーストキャリア4 つかみとった年収1.3倍 に続く 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

文:中川 雅之 掲載日:2024年3月25日