金融業界からの転職はカジュアルな面談の活用を ヘッドハンターに聞くキャリアの棚卸し~金融編

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キャリアの棚卸しは、一般的に、転職活動を前に仕事の経歴を振り返りながら、強みややりたいことを明確にしていくこととされますが、実態として「どうしたらよいのか」と迷う方が多いようです。今回、金融業界の方のキャリアの棚卸し方法や考え方、特徴などについて、業界に強みを持つキャリエイブルの下田由紀氏に話を聞きました。

下田 由紀

(しもだ ゆき)

キャリエイブル代表。明治大学卒業。総合金融会社のオリックスで経理、営業部門での経験を積みながら、中国語を独学で習得。一念発起して2012年に人材紹介会社のインテリジェンス中国に転職。中国江蘇省蘇州支店マネージャーとして現地日系企業向けの採用支援に従事。2014年に日本に帰国後、エンワールド・ジャパンに転職し金融業界・金融専門職の専任コンサルタントとして経験を積む。2021年に独立しキャリエイブル株式会社を創業。モットーは「企業と人々に新たな可能性と価値を提供できる人になりたい」。

棚卸しで考えるべき4つの項目

金融業界はゼネラリストを育てる印象ですが、いかがでしょうか。

例えば、銀行員の方だと、新卒で入社後、融資、経営企画、審査、リスク管理などフロントからミドルバックまで幅広く経験している人が多く、いろいろなことができる人になっています。実際、銀行もそういう人材を求めているので、そのように育成します。一方で、給与も高いのでキャリアという意味で「何がやりたい」「何ができる」を深く考えないまま、進んでいってしまうことはあると思います。

金融業界にいる人の場合、キャリアの棚卸しを具体的にどう進めれば良いでしょうか。

4つに分けて考えてもらうのが良いでしょう。まずは「できること」。これは、自身の業務を振り返れば、比較的簡単にわかると思います。2つめは「やりたいこと」になるのですが、これはすぐに答えられない方が多い印象です。なので、「いままで経験した業務や身についたスキルの中で伸ばしたいこと」と考えても良いかもしれません。 3つめは「向いていること」、最後に「自分や事業の将来」。それぞれについて考えてみるのが良いとおもいます。

棚卸しはどれくらいの頻度でやるべきでしょうか。

基本は目の前の仕事に全力で取り組んで、3年くらいたったら、自分を振り返るのが良いと思います。

金融業界の人と多く面談して、棚卸しのサポートをする中で、「やりたい」こととして多く見られる共通点はありますか。

「社会貢献」というキーワードを出す人が少なくありません。既存の産業、これから伸長する産業が、より伸びるように資金面や経営面の相談にのってバックアップしていくイメージです。一方で、アセットマネジメントなどを担当する専門職の方は、「スキルアップ」とか自分軸の方が多くてやりたいことが明確なケースが多いです。なので、棚卸しが必要なのは、どちらかというと専門職の方でなく、ゼネラリストとしてキャリアを積んできている方だと思います。

「金融を通じて社会貢献する」といっても、多様な選択肢がありそうです。未来のキャリアを考えるうえで、どう絞り込んでいけば良いでしょうか。

社会貢献をキーワードとしてあげた方に聞いているのは、「どういう立場でやりたいですか」ということです。相手の顔を見てやりたいのか、フロントをサポートしたいのか、組織が社会貢献していればどんなポジションでも良いのか、自分がどの部分にいたいのかを考えてもらうと良いと思います。社会貢献をキーワードにあげる金融の方は、フロント希望で自分のやったことが形になっていくことにやりがいを感じる方が多い印象です。

金融業界といっても多様な企業があります。出身企業ごと、もしくは今後のキャリアとして希望する企業ごとに、棚卸しの方法に違いはありますか。

ないと思います。キャリアをしっかり棚卸しすること自体が重要で、その結果を踏まえて、ある程度やりたいことを明確にして、将来などについて考えていくと良いと思います。

棚卸しに際して、苦手や失敗とも向き合うべきでしょうか。

はい。「向いているもの」は答えられなくても、「向いていないもの」を聞くと、早く抜けたかった部署やタスクを答えられる方が多いです。苦手や失敗と向き合うことは、その後の転職活動の面接で必ず聞かれますので、面接対策としても有効です。その壁を越えるために、どういう努力をしたのかを、思い出して整理していくと良いと思います。

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ビジネス分析、リスク評価の経験は集中的に

金融業界の方で、苦手、もしくは不満を抱えがちな業務はあるのでしょうか。

業務のタイプをフロント、ミドル、バックにわけると、だいたいバックの方は「調整だらけで、何のために、誰のためにやっているかわからなくなる」という方が多い印象です。しかし、棚卸しの結果、自分の強みを認識し、ミドルバックのほうが組織に貢献できると意識を改める方もたくさんいます。フロントは、プロジェクトやメンバーをマネジメントするためのリーダーシップや突破力が必要な一方、全体のバランスを俯瞰するのはバック経験者のほうが秀でている印象ですね。

金融で評価されやすい、棚卸しに際して詳しく思い出しておいたほうが良い経験や業務はありますか。

長期にわたって低金利が続くなか、金融機関は、リスクをとった投融資に力を入れるようになって久しいです。そのため、投融資対象のビジネス分析や経済性評価をした経験、ビジネスの欠点や弱みを理解して向き合った経験や関連したスキルは評価されやすいと思います。また、投融資に際しては、回収できるか不透明な部分が出てくるため、リスクを定量的に評価した経験は、価値が出てきていると感じます。

逆に、評価されにくい経験や業務はありますか。

パターン化した契約締結やインターネットで調べればわかるような情報提供など、人工知能(AI)によって代替される可能性が指摘されるような業務でしょうか。ただ、情報提供とはいっても「この人からしか得られない情報がある」と思えば、AIに代えられることはないと思います。 また、フロントの場合、顧客側は「この人にお世話になりたい」という気持ちがあれば、単に金額以外でも決めていくことが十分ありえる世界です。特に、スピード感があったり、事前に社内交渉をすませて提案してきたりするなど、相手の期待以上に何かやってくれるような人は、今後も高く評価されると思います。

キャリアの棚卸しは、自分一人でできますか。または、家族や友人を相談相手としてお願いできますか。

まず、キャリアの棚卸しを一人でやるのは難しいと考えて良いかと思います。そのうえで、最近は、転職が一般化してきたので、キャリアについて知見のある人も増えてきました。ただ、棚卸しに際しては、カッコ悪い経験や困っていること、自身の弱点を話す必要もあります。そういう意味で、友人や家族に対して話しづらい部分があるので、ヘッドハンターや専門家を活用するのが良いと思います。

ヘッドハンターのところに来る時点で、棚卸しが終わっている人はどれくらいいますか。

ほとんどの人はできていません。1割もいない印象です。「得意なことはない」という人がいたり、おおむねまんべんなく成果を出せる優秀な人ほど、自身の「何が売りになるのか」に気づいていなかったりする印象です。

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カジュアルな面談での「いいね」が自信に

棚卸しの前に、業界分析やビジネスのトレンドなどの情報収集・分析は必要ですか。

心から必要だと感じています。新卒の就職活動のときは、足しげく企業説明会に通うのに、転職活動の際は、求人内容やヘッドハンターの話、インターネットの口コミなどを見てわかったつもりになる方が少なくありません。

おすすめの情報収集の方法はありますか。

カジュアルな面談機会を利用することです。自分の経験やスキルを企業から「いいね」と評価してもらえると、それが自信につながります。そこから、やりたいことや将来の姿を描けると思います。最近は多くの企業が、カジュアルな面談のようなスタイルで門戸を開いていて、企業側が時間や労力をかける前提で声をかけているのは、何か魅力を感じている証拠ですから、一度話してみるとよいと思います。 ヘッドハンター経由であれば、企業の求める人材像を理解しているので、カジュアルな面談が有意義になる可能性は高いです。また、行きたい企業があるなら、その会社や業界に強いヘッドハンターに相談して、カジュアルな面談の機会を探ると良いと思います。

金融業界の方が、転職活動の際、カジュアルな面談を受けることは多いのでしょうか。

広まってきましたが、多いとはいえない状況です。カジュアルとはいえNGが出る可能性を嫌がってか、二の足を踏む人が多い印象です。ただ、企業が確認することもある半面、求職者が企業に確認することもできる機会です。お互いに実際に会話をしてみないとわからないことが多くあるので、構えすぎずに臨んでみると良いと思います。

金融の方であれば、ヘッドハンターだけでなく、多くの企業から直接声がかかると思います。その中には、知名度が低い会社もあると思いますが、そのような企業との面談も棚卸しにつながりますか。

自身の経験やスキルが他社や他人からどう評価されるのかを知るという意味で、志望する業界や企業が定まっていない求職者には、とにかくいろんな会社や人に会ったほうが良いと伝えています。給与など表向きにわかる情報もありますが、実際に会って話を聞くことは無駄になりません。また、出てきた方と一緒に仕事をするイメージができるかを考えてみるのも良いと思います。 確かに知名度のある企業のほうが、「話を聞いてみたい」と人気が集中する傾向があります。スタートアップ企業、金融業界に関係するところとしてはフィンテック企業のスタートアップなどは、足を踏み込むのにリスクを感じるとは思いますが、いまでは多くの方が知ることとなったGMOやFreeeも最初はスタートアップだったわけですから、相性の良さを確かめる価値はあると思います。

自身や家族などプライベートに問題がおきた時の経験をどう捉えると良いでしょうか。

それも含めて棚卸しが必要です。そのうえで、その問題も踏まえて、快く受け入れてくれるところを探すべきだと思います。例えば、子育て中の世代が多い会社は、雇用主がそれを受け入れているということでしょう。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

写真:研壁 秀俊 掲載日:2023年1月24日