転職市場NOW 商社編 世界的危機で役割が大きくなるビジネス

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トップヘッドハンターに転職市場の最新動向を解説してもらう本連載。今回は2021年に「JAPAN HEADHUNTER AWARDS」(株式会社ビズリーチ主催)の商社部門でMVPを受賞したキャリア インキュベーション株式会社の阿部哲也氏に、商社の転職市場動向を聞いた。

阿部 哲也

(あべ てつや)

キャリア インキュベーション株式会社マネージングディレクター 新卒で株式会社リクルートに入社。その後は求人メディアの企業の立ち上げ、大手学校法人、出版社の勤務を経て、2000年にキャリア インキュベーション株式会社の創業に参画。商社業界の専任担当として総合商社への転職を支援。ある商社では数年にわたり全内定者のシェア4割という実績を持つ。

ウクライナ侵攻で商社のビジネスはどう変わるか

まずは商社業界の現在のビジネストレンドを教えてください。

直近ではやはりロシアによるウクライナ侵攻が大きなトピックです。ロシアが主な産出国である石油やLNG(液化天然ガス)などの資源価格の高騰や、その他の原材料調達コスト増、世界規模での物流体制の逼迫など商社が関連する分野にも影響が出ています。メーカーなどの企業が困っている調達関連の業務を、リスクを含めて引き受け、ビジネスを成立させていく商社の本来の存在意義が際立ってきているなと感じています。

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採用に関しては、商社の中途採用はどのように変化してきているのでしょうか。

2000年ごろに「商社不要論」が取り沙汰され、各社業績が低迷していた時期は採用数が減っていましたが、ここ10年ほどは各社安定した人数を中途採用を行っています。直近では、事業投資と投資先経営人材を担う方やIT・DX推進役の採用人数が増えています。増えているはいうものの、人数は大手でも数十人程度で、その枠に数千人が応募する狭き門であることは変わりません。

商社が中途採用で見ているポイント

商社は、中途採用ではどのような人材を求めているのでしょうか。

商社、特に総合商社が求めているのは修羅場をくぐり抜けられるポテンシャルを持っている人材です。企業によっては、加えて専門性を求める企業もあります。

ある大手商社の場合、本社総合職が5,500人程度でありながら、グループ会社や投資先の関連会社などが1,700社程度あり、扱っている商材は合計で5万点にのぼります。単純計算で1人当たり10もの商材を担当することになります。

多岐にわたる商材やサービスに関して、市場開拓や取引交渉、配送ルートの確保などさまざまな業務に携わることになります。ときにはトラブル対応を求められることもあります。事業環境の急激な変化などビジネス面での対応はもちろんですが、例えば大型タンカーが座礁するなど特殊な問題も発生するため、それらに対処できる力が求められます。いずれも定型の答えがない対応を求められるため、問題解決力の高さは中途・新卒どちらでも求められる素養です。

商社のターゲット年齢と内定者の特徴

中途採用はどれくらいの年齢を対象にすることが多いでしょうか。

商社の場合、新卒採用市場での人気も高く人員構成も新卒比率が高いのが特徴です。そのため、新卒の教育研修期間とされる5~6年を超えた27~35歳くらいが中途採用のメインターゲットになっています。もちろん実際採用された方に年齢の幅はありますが、30歳前後で、新卒で入社した同じ世代の社員に比べて専門性、そして問題解決能力が高い人材を採用したいのです。上限に関しても、商社各社は人事制度の改革にも取り組んでおり、若手社員の役職者への昇進を早める傾向にあり、将来の幹部候補となる35歳くらいまでがターゲットになっているケースが多いです。

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問題解決力を、どのようにして選考で確かめるのでしょうか。

ポテンシャルの見方は中途も新卒とはあまり変わりません。自社で結果を残している社員のコンピテンシー(行動特性)を把握し、それに合致する人材であるかを面接で判断しています。例えば、幼少期から社会人までの間で、どのようなトラブルに遭遇し、それをどのように乗り越えてきたか、仕事上で出会ったトラブルをどのように乗り越えてきたかなどを丁寧に聞いていきます。新たな行動を起こした場合には、そのモチベーションの源泉は何だったのか。中途であっても、場合によっては幼少期や受験などの話も含めて、過去の経験について聞かれます。各社とも面接のパターンはだいたい似ていますね。

商社から中途採用で内定が出る方はどんな特徴がありますか。

商社の仕事は多岐にわたっており、接点のない方にとってはイメージしにくいでしょう。そのため、入社後のイメージができているかが重要になります。現職で商社と取引があったり、一緒にプロジェクトを進めた経験があったりする方であれば、入社後のイメージを持ちやすく、選考中のやりとりも違和感なく進むでしょう。ただ、一緒に働いたことはなくても、友人や先輩など商社で働いている方に、どのような仕事をしているか、自身の経験のどこが商社で役に立つかなど、聞いておくことでイメージは高まるかもしれません。

内定していく人が多い4つの職業

実際に内定する方を見ていても、海外駐在の際に商社の方と親しくされていたり、海外大学のMBAで商社勤務の知り合いがいた、親御さんが商社に勤務されていたりと商社業務の解像度が高い方は、他の方よりも選考を通過しやすい印象です。

また専門的なところでは、最近はIT・DX経験者が増えてきています。特にサービスの実証実験や新規事業開発、一般消費者向け企画などの経験がある方がDX推進役として採用されています。またM&Aなどを担う投資銀行や会計士の方が経理財務部門に内定するケースも多いです。関連会社が多い関係で、CFO(最高財務責任者)やそれに準ずる経理管理ポジションは多く、それらの業務を担うことが求められています。また地頭のよさ、修羅場を乗り越えた経験やストレス耐性という点では、コンサルティングファームや国家公務員の方も、これまで多く採用をご支援してきました。

官僚の方は、どのような経緯で商社への転職を考えるのでしょうか。

転職される理由は業務が忙しすぎる、子供ができて自分の時間を作りたいなどさまざまですが、「世の中の役に立ちたい」という官僚の方の考えは、商社と共通している部分が多いです。これまでも官僚から商社に転職されている方がいらっしゃるので、先輩の転職先を見て、転職先の選択肢の一つとして受けられる方がいらっしゃいます。

ただ、官僚の方はご自身の経験がどんなところに役立つのかを把握されていないケースが多いです。あまり詳細が書かれていない職務経歴書の内容を深掘りしてみると、データ集計や分析に強みがあったり、ステークホルダーとの交渉に長けていたりと商社業務でも役立つところが見つかるケースも多いです。

求められる英語のスキルはどの程度でしょうか。

海外とのやりとりが多いので、英語のスキルが欠かせないケースもありますが、経験スキルやコンピテンシーのほうがより重要です。中途の場合は、新卒より求められる英語力が低い傾向にあります。TOEICの点数でいうと、低い設定のところで730点、下限がないケースもあります。国内の企業とのやりとりも多いため、英語よりも他の側面を評価されるケースもあります。

転職した場合の条件面について教えてください。

5大商社の場合、新卒で入社して10年目で平均年収は1,500万円程度になり、40代で課長や部長に昇進した場合は2,000万円を超えてきます。商社の給与は基本的に社会人の経験年数で規定されている企業がほとんどなので、中途の場合でも新卒と同様の給与テーブルでの算出になります。一般の水準から比べると非常に高いといえると思います。

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文:吉田 洋平 写真:研壁 秀俊