転職市場NOW 地方都市編 夢の地方転職 「新型コロナ」で実現した人は本当に増えたのか

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トップヘッドハンターに転職市場の最新動向を解説してもらう本連載。今回は2022年に「JAPAN HEADHUNTER AWARDS」(ビズリーチ主催)の地方創生部門でMVPを受賞した株式会社カラフルカンパニーの中西麻美氏に話を聞いた。

中西 麻美

(なかにし まみ)

カラフルカンパニー コンサルティング紹介部。大学卒業後、クイックに入社。関西エリアで機械・電機・自動車業界などの転職支援を行い、現在は北信越エリアに特化したカラフルカンパニーの人材紹介部門に所属。製造業・IT業界の技術系職種での採用支援で実績が多い。

地方はこれから転職市場が活性化してくる予測

中西さんは現在、北陸エリアを中心に人材紹介をされていると伺いました。

現在は主に石川、富山、福井の北陸3県の企業に人材紹介を行っています。業種でいうと7割が製造業、2割がIT関連、残り1割がその他といった構成です。

新型コロナウイルスの感染拡大で、リモート勤務の浸透や生活環境の見直しなどから地方への転職を検討している人が増えている印象です。実際、都市部から地方への転職者の推移はどのような状況なのでしょうか。

当社での実績をみると、2021年の転職成約数は前年比で8%増でした。転職市場の伸び、地方で働くことへの注目度が高まっていたことを考えると、そこまで増えていないという印象です。北陸エリアでいうと2015年に北陸新幹線の開業もありましたが、それでも急激には増えませんでした。そう考えるとまだまだ伸びしろはあると考えています。

地方でも求められるDX人材

企業側からの採用ニーズの変化はいかがでしょうか。

人材不足については、大都市圏より地方のほうが深刻な経営課題になっています。そのため、管理職のポジションはもちろん、現場のプレーヤーとしても、年齢を問わず採用のニーズは高いです。

具体的にどのような職種へのニーズが高いのでしょうか。

最近では北陸エリアでもDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようという企業が増えており、システムエンジニアの求人が多いですね。外注するというよりは社内で制度設計から運用までできる方を採用したいというニーズが高いです。製造業に絞ると、最も求人が多いのは生産技術のエンジニアです。特に装置開発のエンジニアでマネジメント経験がある方は、年齢に関係なく求められています。

中途採用の対象年齢について、大都市圏と地方で違いはありますか。

基本的には全国と変わらず、製造業の開発職種では、近い領域で3年以上経験がある20代後半から30代前半の方へのニーズが最も高いです。ただ、先ほども申し上げたように人手不足は大都市圏よりも深刻で、中小の製造業などでは業界未経験であっても年齢を問わず採用したいというケースが増えてきています。これは大都市圏ではあまりないケースで、今後さらに増加することが予測されます。

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元々中西さんは関西エリアで人材紹介をされていました。北陸エリアと比較して、企業の採用活動に違いはありますか。

北陸エリアは大都市圏よりも人手不足が大きな経営課題になっていると感じます。これまで、地方では新卒採用が中心で、中途採用はポジションに空きが出たときに行われてきたのが実態です。そのため、中途採用に中長期の計画を立てている企業は多くありませんでした。しかし、これまでの採用手法ではマネジメント層の人材はもちろん、現場のプレーヤーも採用できない状況になってきており、企業によって採用力に差が出てきています。

企業側の対応にも変化が起こっているのでしょうか。

これまで、企業の採用担当者は採用業務だけではなく労務や経理なども行っているケースが多く、採用にあまり時間をかけられない状況にありました。しかし、最近は地方でも採用専門の担当者を置く企業が増えてきています。実際、石川県のある食品機械メーカーでは、社長が率先して採用改革を行い、採用担当を配置しました。社員数は3年で70名から100名規模になり、海外向けの案件なども多く受注できるようになって売り上げを伸ばしています。今後はこのように、採用が業績に直結する企業が増えてくることも想定されます。

人材紹介会社の変化もあるのでしょうか。

他のエリアでもいえることですが、地方ではもともと地元に根ざした小規模な人材紹介会社が多くあり、地元企業と強い関係を持っていました。ただ、近年は状況が変わってきており、われわれのグループのように大都市圏に近い形で人材紹介をする企業が増えています。背景には、企業が人材紹介会社に対し、人材の質や数で提案することを求めるようになっていることがあります。私が北陸に来た4年前と比べても、大きな変化を感じています。求職者の方にとっては、地方に転職するチャンスがより広がっているといえます。

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地方ならではの意識の変化も起こっている

地方への転職活動をする場合、選考における違いはありますか。

全国の書類選考の通過率は3割ほどといわれているのですが、採用の可能性をより高めるためか、5〜6割は通過している印象です。その後の選考も現場が権限を持っているケースが多く、1次〜2次面接を通過すれば最終面接で落ちるケースは少なく、内定は大都市圏よりも出やすいと感じています。

面接の特徴はありますか。

コロナ禍で地方の企業もオンライン面接が主流になりました。なかには最終面接までオンラインの企業もあります。ただやはり候補者の方にとっては企業の内側や地域の特性がわからないことも多いので、他の地域からの転職の場合は、できるだけ現地に行くことをお勧めしています。また、候補者の方と企業の採用への意識を擦り合わせるため、面接にわれわれが同席するケースもあります。選考の時点でギャップを埋めることで、ミスマッチは減ってきていますね。

転職後の年収ギャップは100万円~200万円

待遇面でのギャップはいかがでしょうか。

他の地域からの転職の場合、下がってしまうケースが多いです。大都市圏と比べると年収で100万円~200万円下がるイメージです。ただし、家賃や駐車場代などの生活コストも大きく下がるので、トータルで考えるとそこまで差はないともいえます。

それでも移住するメリットはありますか。

私自身もそうですが、やはり生活の充実は大都市圏にはない魅力です。家賃や駐車場代などのコストは低いですし、食事も安くておいしい。実際、自然の多い住環境や子育てのしやすさ、ウインタースポーツなどの趣味の充実などを理由に移住されている方が多いですね。

東京や大阪などの大都市圏から北陸エリアの企業に転職したい方へアドバイスをお願いします。

北陸エリアの企業の場合、希望を出せば面接の前の段階で現場の方や責任者の方とカジュアルにお話しできることが多いです。大都市圏でもこのような対応をする企業はありますが、北陸エリアではそのハードルがさらに低い印象なので、企業と積極的に接点を持つことをお勧めします。そうすることで、選考をスムーズに進められ、入社後の認識のギャップも少なくできるでしょう。

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文:吉田 洋平 写真:松井 晴香