転職市場NOW 金融編 メガバンクで中途採用シフトが加速している

転職市場NOW-07

トップヘッドハンターに転職市場の最新動向を解説してもらう本連載。今回は「JAPAN HEADHUNTER AWARDS」(ビズリーチ主催)の金融部門で9度MVPを受賞したKANAEアソシエイツの阪部哲也代表取締役に話を聞きました。

阪部 哲也

(さかべ てつや)

KANAEアソシエイツ代表取締役。1973年、奈良県生まれ。同志社大学法学部卒業後、富士銀行(現:みずほ銀行)に入行。不動産会社などを経て、リクルートエイブリック(現:リクルート)へ転職し、金融スペシャリストの転職をサポート。その後外資系ヘッドハンティングファームを経て、2010年にKANAEアソシエイツを設立。

バブル世代の大量退職が採用市場に変化を与えている

阪部さんがご担当されている分野と、これまでのご経歴を教えてください。

外資・内資の金融全般をカバーしています。銀行、証券、保険、資産運用、バイアウトファンドなどですね。私自身はもともと銀行に勤めておりまして、人材紹介業をはじめてからは17年目になります。

新型コロナウイルス感染拡大の影響はありましたか。

影響があると予想していたのですが、実際にはほとんどありませんでした。逆にコロナ禍で遠隔での選考などが増えたことで採用業務の生産性が上がり、転職市場は活性化しています。さらにメガバンクや証券会社など、これまで新卒中心だった大手が中途採用を増やす方針を打ち出しており、問い合わせは多くなっています。

中途採用を増やしている背景には何があるのでしょうか。

バブル世代(1965年~1969年生まれ)の大量退職による人手不足が大きな課題になっています。バブル世代は採用人数が多く、企業によっては1年で退職する人数が、現在の中堅社員(35~42歳)の3年分に相当するところもあります。これが1年だけでなく何年かにわたり続くため、人手不足が顕著になってきているのです。それを補うために、金融業界は中途採用を活発に行っており、従来とは異なる異業種からの転職にも間口を広げて採用活動をするようになっています。 ほかにも人手不足を補うために定年延長も広がる兆しが出てきています。三井住友信託銀行が60歳から65歳に定年を延長することを発表しており、今後は他の銀行や金融機関も追随するでしょう。

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金融業界からベンチャーへの転職は減ってきている

金融業界ではリモートワークの取り組みは進んでいるのでしょうか。

大きく進みました。リモートワークの仕組みの整備は、他業界への人材流出を防ぐことにも役立っています。以前であれば自由度の高い職場環境を求めて金融から別の業界へ転職する方が一定数いました。しかし、コロナの影響でリモートワークの普及が進んだことで、金融であってもある程度自由度の高い働き方ができるようになりました。結果として、自由度の高さを売りにする業界への転職はかなり減っていますね。

一時期話題になっていたフィンテック関連への転職はどのような状況でしょうか。

以前は金融大手からフィンテックを手掛けるベンチャー企業に転職するケースは多かったですが、最近は減少傾向です。コロナ前より目新しさが少なくなったかもしれません。大手金融機関の内部でもフィンテック関連の技術を生かした新規事業の取り組みや、外部のベンチャーとJV(ジョイントベンチャー)を設立するなどのチャンスが増えてきたため、むしろベンチャー企業から金融大手に転職していく現象も起きています。フィンテック自体は技術としてもどんどん新しいものが出てくるといった状況ではなく、仮想通貨やブロックチェーン技術、デジタル証券などについてある程度の期間をかける、地に足の着いた取り組みがはじまっている状況です。

まだまだ強い中途採用での銀行人気

銀行ではどのようなトレンドがありますか。

銀行の場合、以前にはなかった外部からの抜擢人事が増えています。中途採用の方が、最初からメガバンクの部長や副部長として入る、といった具合です。特に新規事業やDX(デジタルトランスフォーメーション)、監査、コンプライアンスなど、銀行内部の人材が不足している分野ではそういったことが起きていますね。 銀行法を順守するために必要なKYC(本人確認)やAML(マネーロンダリング防止対策)といった分野も、激しい人材獲得競争が起こっています。

信託銀行ではどのようなトレンドがありますか。

信託銀行では証券代行やIR(Investor Relations)コンサルタント、SR(Shareholder Relations)コンサルタント、アクティビスト対応などの職種に関しての求人が多いですね。まだ求職者からの人気はそれほど高くありませんが、好条件で採用されるケースが多く今後に注目しています。

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40歳を過ぎての転職も可能に

中途採用の場合の年齢条件に変化はありますか。

採用する年齢も、以前は26~35歳くらいが中心だったのですが、お話しした通りメガバンクの部長職、副部長職などへの転職も増えているため、37~45歳くらいでの転職は当たり前になってきました。業界未経験の30歳前の若手より、経験を積んだ中堅・ベテランの方が望まれている、といえるくらいの状況になっています。

求職者からの金融企業の人気はいかがでしょうか。

中途採用で最近強く感じるのは「銀行はやはり強い」ということです。ATM障害など業界にとってはネガティブな話題もありますが、メガバンク各社の業績は好調ですし、まだまだ業界としての規模も大きいため社会全体への影響も大きい。求職者の方にとっても、ほかの業界に比べると給与水準が高いこともあり転職先として非常に人気があります。リモートワークなどの働き方改革、女性活用の推進によって新たな魅力も加わっています。今後まだまだ中途採用の流れは加速しそうです。

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文:吉田 洋平 写真:研壁 秀俊 掲載日:2022年7月8日