転職市場NOW 広告編 コロナ禍で業務が大きく変わった代理店 IT系人材を積極的に採用

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トップヘッドハンターに転職市場の最新動向を解説してもらう本連載。今回は広告業界についてポーラーベアーメソッドの土屋裕一郎代表取締役に話を聞いた。

土屋 裕一郎

(つちや ゆういちろう)

ポーラーベアーメソッド代表取締役。大手総合人材サービス企業にて約8年間、業界大手から創業フェーズの優良ベンチャー企業まで、幅広く採用を支援。その後クラウドサービスを提供するITベンチャーにて人材業界向けのプラットフォームの立ち上げに現場責任者として参画。2012年に入った日系人事コンサルティングファームでは、インターネット業界や広告業界を専門とする人材紹介サービスの立ち上げを経験。2018年から現職。

広告代理店がコンサルティングサービスを提供しはじめた

土屋さんがご担当されている分野と、これまでのご経歴を教えてください。

広告業界の転職の支援に携わって、およそ20年になります。領域としては、広告・宣伝・PRといったマーケティング系職種を主に担当しており、広告代理店や事業会社のマーケティング部門、それらに関わるDX(デジタルトランスフォーメーション)の担当部門などへの転職をご支援しています。

広告業界における転職市場の足元の変化はどのようなものですか。

新型コロナウイルスの流行を契機に、広告業界でもDXが一気に進みました。それによって広告代理店のビジネスモデルが変化し、従来型の広告の制作や広告枠の販売だけでなく、広告によって得られたデータや、それを活用した効率の良いマーケティングシステムなどを含め、企業のビジネスそのものをプロデュースする方向に発展しています。従来、ITコンサルティング会社が担っていた領域に、広告代理店が進出したイメージです。システム開発を伴うサービスを提供するために、IT系人材を積極的に採用するようになりました。

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ITコンサルティング会社と広告代理店が提供するサービス内容に違いがあるのでしょうか。

一般的にコンサルティング会社の場合、クライアントの既存業務の課題を抽出し、適切な方向に持っていくようなサービスを提供します。対して、広告代理店の場合は、クライアントと一緒に新しいマーケティング手法やサービスを起案するなど、距離感の近い伴走型のサービス提供です。クライアントは、広告代理店には面白いアイデアやこれまでにない発想を期待しています。長年クライアントと付き合い、関係性を築き上げてきた広告代理店らしいサービス提供のあり方といえます。

中途採用の人数はコロナ以前の1.5〜2倍に

コロナ流行前と比べて、広告業界の中途採用の求人はどうなっていますか。

広告業界では、ここ2年ほど、IT系の人材を中心に中途採用は拡大しています。当社の実績でも1.5〜2倍に増えている印象です。従来、広告業界におけるIT系人材の採用は、前職で広告やマーケティングに関わっていた人を中心に採用していたのですが、今は採用の範囲が広がっています。実際に、広告と全く関係ない分野で業務システムを作っていた大手ITベンダーの技術者の方が、「マーケティングに興味がある」として転職されるケースも増えています。 大手広告代理店では、グループのシステムエンジニアを集めて数千人規模のITの専門会社を作ったり、デジタルに強い企業を買収したりする、といった動きが続いています。例えば、電通でいうと電通デジタルという会社が2,000人規模の会社となっています。

広告代理店は従来、システム開発が必要な場合、ITベンダーへ外注していたと思います。どうして方針を変更したのでしょうか。

広告代理店においても、コンサルティング業務や、広告から派生するクライアントのDX支援など、多くの業務でIT、デジタルに関連した部分が出てくるようになり、「外注のスピードでは不十分」という状況になったのが大きな要因です。多くの広告代理店が、自社でIT系人材を確保するほうが、外注よりメリットが大きいと考えるようになっているわけです。

転職は年収が上がるケースがほとんど

広告業界で転職する方はどれくらいの年代が多いのでしょうか。

かなり幅広いです。経験とのバランス次第ではありますが、広告代理店と事業会社のマーケティング部門のどちらも、40歳までの方の転職が目立ちます。 以前は主にインターネット広告を扱う会社を中心に、「20代のうちに多くの仕事をこなせるようになるべき」という文化・雰囲気がありました。しかし、近年は「40歳くらいまでに、しっかり経験を積んで足場を固めるべき」という考え方をする広告代理店が増えているように感じます。それが求職者に影響し、40代で広告代理店から事業会社のマーケティング部門に転職する方が増えています。

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転職した場合の条件面はいかがでしょうか。

広告業界における転職は、IT業界などから広告代理店に転職する場合と、広告代理店から事業会社のマーケティング部門に転職する場合があるわけですが、どちらのケースでも年収は大きく上がることがほとんどです。広告代理店間の転職でも、年収が上がる場合が多くあります。年収を下げてまで転職する方は、まれな状況といえます。

働き方についてはいかがですか。ハードに働く業界、というイメージがあります。

近年はかなり改善されました。大手広告代理店では、月間の残業時間が平均30〜40時間という企業が増えてきています。リモートワークもかなり進んでいて、大手も含めて、週半分の出社やそれ以下も、珍しくありません。自立して働ける方であれば、かなり働きやすい環境だと思います。

人付き合いが苦手でも、緻密に取り組める人は重宝される

他業界から広告業界への転職が向いているのはどのような方でしょうか。

必要な能力は2つあると思っています。一つは変化に対応する柔軟性です。近年、広告領域からIT領域のコンサルティングを手掛けるようになったという業務内容の変化からもわかる通り、仕事の仕方や常識が大きく変わっている業界です。そういった変化を面白がれる、良い意味でミーハーであることが必要だと思います。もう一つはITやデータ、最新技術などに抵抗がないことも重要な要素になっています。

ITやデータに関して、特にこれができると良い、といったことはありますか。

数字から傾向を見たり、事象を数字で説明したりしようとする志向があることが大切です。昔は、クライアントや関係者に「気に入られる能力」が重視されていました。しかし、現在では、人当たりが良くなかったとしても、広告の効果の分析や、その結果に基づいた戦略を構築するような仕事であれば、緻密性があればとても重宝されるようになりました。本当に大きく変わったと感じます。他の業界でも人気の高いエンジニアやデータサイエンティストも含め、出身業界などにもとらわれなくなっていますし、今は広告業界への転職を希望する方にとっては、大きなチャンスだと思います。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

文:吉田 洋平 写真:研壁 秀俊 掲載日:2022年9月29日