続々現れる新技術、急増する求人
ご担当の分野を教えてください。
社内にて、IT業界専任チームの責任者をしています。IT業界はもちろんのこと、事業会社、コンサルティングファームでもIT人材のニーズがますます高まっていることもあり、われわれとしてもIT業界への中途採用サポートをさらに強化しています。IT業界のなかでも特にエンジニア関連の案件に強みを持っています。紹介先としては、いずれもITコンサルティングファームと大手・中堅SIer、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める事業会社に力を入れています。
現在、業界全体のトレンドといえる動きはありますか。
経済産業省が2019年に公表した「IT人材需給に関する調査」によると、IT人材は、2030年には最大で79万人が不足するとされています。実際にIT人材の求人は急増しており、背景として、AIや5Gなどの最新技術が次々と出てきていること、新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークをはじめとしたDXが一気に進んだことなどが挙げられます。 最近でも、ブロックチェーン、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、NFT(非代替性トークン)などの新技術の登場を受けてIT産業が活発になっています。事業会社でも新技術を取り入れた新サービスの構築を目指すようになっています。

経験者であれば40代・50代も転職に成功
40代以上の求職者に対する採用動向はどのようになっていますか。
ITコンサルティングファームであれば即戦力を求めているので、40代以降ではプロジェクトマネジメントができる人材が重宝されています。SIerなどのプロジェクトマネージャーと、ITコンサルタントは、クライアント企業の支援をするという点で業務に共通する部分が多く、スキルが応用できるとされているからです。50代で転職に成功しているケースも多く、プロジェクト経験が豊富であれば年齢は関係ないという状況になっています。 IT業界は転職の頻度が高い業界であるため、過去の経験社数を気にしている企業は少ない傾向にあります。それよりも、どのようなプロジェクトの経験があるかを見られます。 求められるのは、予算として数億円から数十億円規模、人数でいうと十数人から100人弱が参加するプロジェクトの経験です。官公庁や金融関連のような業界最大規模のプロジェクトの経験はなくても、中規模以上のプロジェクトを数多く経験している人を求める企業が多いです。
20代から30代半ばはIT関連資格で有利に
20代から30代半ばの「ポテンシャル採用」も増えていますか。
はい、増えています。以前から採用はありましたが、2021年4月以降、大手SIerやコンサルティングファームを中心に未経験者歓迎の求人が一気に増えました。
ポテンシャル採用ではどのようなことが求められますか。
書類選考の段階では、基本情報技術者試験や応用情報技術者試験、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)関連の技術資格などIT関連の資格を持っていると評価されやすい傾向にあります。言語としてはJavaやJavaScript、Rubyなどが扱えると高評価です。中途採用市場における書類選考通過率の平均は約3割前後といわれていますが、先述のような資格保持者や経験者は、通過率が1.5倍程度になる傾向にあります。 面接では、ITエンジニアを目指した動機や、ITエンジニアとしてどのようなビジョンを持っているかを言語化する能力が求められます。
ポテンシャル採用では、もとの職種などは問われないのでしょうか。
はい、そうです。しかし、資格取得などで裏付けられる学習意欲等は一定程度求められるため、しっかり「ITエンジニアとしてチャレンジしたい」という意思表示をする必要があります。未経験者の転職支援例として、学校の先生から大手SIerに転職された20代の方がいます。その方は情報系学部の出身で、独学でプログラミングの勉強をしていました。最近は、職業訓練所や「テックキャンプ」などのITエンジニア育成プログラムに数カ月通ってから転職活動する方も増えています。
コンサルティングファームでもポテンシャル採用は行っているのでしょうか。
はい。コンサルティングファームの場合、もともと採用ハードルが高いイメージですが、以前より間口が非常に広くなっています。
転職でほとんどが待遇アップ
転職における待遇面はどのようになっていますか。
中小規模のSIerの場合、年収・待遇が他社と比べても低いケースがあり、転職者のなかには、待遇面の改善を重視条件として挙げる方が多くいます。ITエンジニアが転職する場合、待遇面の改善を実現する蓋然性が他職種と比べても高いのですが、転職活動しているITエンジニアの期待を企業側が理解して採用に臨んでいるということが大きいですね。 なかには「破格」といえるくらい年収が上がる方もいます。例えば中小規模のSIerに所属している40代のプロジェクトマネージャーで経験が豊富な方が、大手ITコンサルティングファームに転職する場合、年収が300万円から500万円程度上がることもあります。これも珍しいことではありません。
ポテンシャル採用でも年収は上がるのでしょうか。
面接時の評価、転職先の給与テーブル等にもよりますが、平均で年収が40万円から50万円程度上がることは期待できるかもしれません。もちろん現職の給与水準が高ければ、その限りではありませんが、現年収を下回る条件で転職する方はほぼいないかと思います。
SIerからコンサルティングファームへ転職する場合、業務の負荷は大きくなるのでしょうか。
前職より忙しくなるケースはあると思います。以前のITコンサルティングファームは激務のイメージがありましたが、今は働き方改革等があり、従業員の定着を重視している企業が増加しているように思います。過度な残業増加を防ぐために顧客との取引制限を行ったり、リモートワークを導入したりと、積極的に働き方の改善に取り組んでいる企業が多いです。
短期間で大量採用狙う事業会社
IT業界から事業会社のIT部門へ転職する場合、どのような業界に行くことが多いのでしょうか。
各事業会社が社内の情報システム部門を強化していることを背景に、製造、不動産、建設、金融など、どの業界でも求人は急増しており、まんべんなくいろいろな業界にチャレンジできると思います。 また、そのような背景があり、多くの企業は、何年もかけてIT人材を増やすのではなく一定期間で一気に採用したいと考えていることから、今の時期が事業会社へ転職する良いタイミングだと考えています。とはいえIT技術は日々進化していくため、今の採用が一段落したら採用がなくなるわけではなく、事業会社のIT人材の採用は当分の間継続していくことが予想されます。
求職者側が事業会社へ転職する理由には、どのようなものが多いのでしょうか。
IT業界には「事業会社は安定している」というイメージがあるようで、待遇面やネームバリュー、安定感などを総合して考えている方が多いです。また、事業会社で自社製品に携わりたい、新しい技術に関わりたいと考えて転職するケースも多いです。

事業会社に行くデメリットはありますか。
働き方に関してはIT企業に比べて柔軟性が低いことでしょうか。IT企業は、リモートワーク、フレックスタイム、副業等、他業界と比べても1歩、2歩進んでいます。 年々フレキシブルな働き方を推進する事業会社が増えてはいますが、人によっては窮屈さを感じるかもしれません。
事業会社からITコンサルティングファームに行く方もいるのでしょうか。
いらっしゃいます。事業会社でDX、レガシー環境の作り替え、開発組織のアジャイル化等の経験がある方は、ITコンサルティングファームからも求められており、転職で年収を大きく上げています。 近年、各企業が、日々進化するIT技術にキャッチアップする必要が出てきていますが、そのノウハウが自社内に少ない、もしくはないケースが少なくありません。そのため、ITコンサルティングファームへの依頼が非常に増えており、案件は増加の一途をたどっています。自身のIT技術および知識で顧客の課題解決に上流から携わっていきたいという考えをお持ちの方に向いているでしょう。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:吉田 洋平 写真:研壁 秀俊 掲載日:2022年10月14日