リモートワークの活用で増える女性管理職
新型コロナウイルスの流行でビジネスパーソンの働き方が大きく変わりました。働く女性、特にハイクラス層の女性にとってはどのような変化があったのでしょうか。
働く女性にとって、コロナ禍に伴う社会の変化は、大きな追い風になったと思います。リモートワーク(テレワーク)が進んだことにより、家庭を持つビジネスパーソン、とくにいまだに家事や育児の多くを担っているとされる女性が働きやすくなったのは間違いありません。リモートワークであれば、昼の休憩時間に自宅の近くのスーパーで買い物をして、夕食の準備をしてしまうことも、保育園のお迎えの時間ギリギリまで仕事をすることも可能になりました。 そのため、女性が管理職になるために越えるべきハードルも全体的に低くなりました。コロナ禍前の出社を前提としていた時期は、「結婚・出産して、その延長線上で管理職などできるのか」という風潮が残り、時短勤務のなかでマネジメント層を務めるのは難しかったのが実態です。しかし、コロナ禍で大きく変わりました。 結果として、それまで管理職やキャリアアップをあきらめていた女性が、前向きに考えるようになってきました。求職者側のマインドセットの変化を非常に強く感じていますし、実際にリモートワークを活用して活躍する女性管理職が多くなってきていると思います。

コロナ禍で、企業側の女性管理職に対する意識の変化はありましたか。
企業側にも大きな変化が見られます。年に200回ほど企業からの依頼で講演をするなかで感じるのですが、4、5年前のテーマは「働き方改革」が大多数でした。コロナ禍を経て、「女性活躍推進」「ダイバーシティー(多様性)」というテーマの依頼が急増し、「働き方改革」が主なテーマとなっていたより前にもあったムーブメントが再来しました。2021年後半からは顕著に増えています。企業が女性活躍に本腰を入れてきた雰囲気です。
女性活躍推進の背景には何があるのでしょうか。
ひとつには少子高齢化が、いよいよ生産年齢人口の不足につながり始めたことがあると思います。生産年齢人口の不足が、ここ1、2年でビジネス現場でも実感されるようになり、今後も減少が続く流れがあります。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組んでも、不足した労働力を完全に補うことは難しいとみられます。そのような見通しのなか、「女性やシニア、外国人のポテンシャリティーを活用することが必須」という結論に至っています。メディアも、生産年齢人口の不足という観点から語るようになった影響も大きいと感じます。
伝統的大企業はあまり変わっていない
女性管理職のハードルが下がったとの指摘がありました。伝統的な大企業はコロナ禍を経て女性管理職が増えているのでしょうか。
伝統的な大企業では残念ながら、「女性活躍を推進してはきたが、実態はあまり変わっていない」という組織が多い印象です。企業としては、女性管理職比率の増加など女性活躍推進の姿勢を見せる必要があり、実際にそのようなPRもあります。しかし、肩書は「課長」「部長」であっても、部下がいない専門職の女性が「管理職」としてカウントされている実態があります。コーポレート部門では女性管理職も見かけるようになりましたが、営業部門などのビジネスラインの部門では女性の管理職はまだまだ数が極めて少なく、非常にマイノリティーです。 また、コロナ禍以前に、社内の女性社員を積極的に管理職に昇格させる動きもありましたが、よほどの実績がないと、「なんであの人が」という目で見られて、男性だけでなく同性である女性も抵抗勢力化することが少なくないという問題もありました。率直に言って心情面の問題ではありますが、実際に起きていたことです。 基本的に、伝統的な大企業の人は「女性が管理職になる」というマインドセットがない傾向にもあります。「ロールモデルがいないため、管理職などなれる気がしない」という女性社員の方も散見され、管理職を目指している女性は非常に少ないのが実態です。講演などで「管理職になりたい人」と聞いてもほぼ手が挙がらないということもしばしばです。また、伝統的な企業では管理職の数が減っています。国内マーケットが縮小し、DXが進行し、管理職の必要性が低下していますので。 とはいえ、部下のいない専門職の人を「管理職」として待遇するのも、企業の体力があるうちは実行できますが、体力や余裕がなくなっていくと、難しいでしょう。

そうすると、現状の伝統的大企業の女性管理職は中途採用、転職してきた人ということになりますか。
はい。社内登用が進まない伝統的大企業から「中途採用で実績を作っていきたい」という要望はあります。そのなかで、実際に女性管理職になる方は、コンサルティングファーム出身者であったり、公認会計士や弁護士といった難関国家資格を持っていたりするなど、「誰から見てもこの人は実力がある」という人が多いです。 伝統的大企業では「管理職は下から順々に昇進させていくもの」という考え方ややり方が一般的ですので、女性管理職を中途採用する場合、マネジメントの経験が求められます。
大企業に管理職として中途採用されるような女性はマネジメントの実績をどこで積んでいるのでしょうか。
大企業に管理職として入る女性の場合、外資やベンチャーなどで、若くしてマネジメント経験を積んでいる方がいます。具体的にいうと、40代前半で事業部長や人事部長を務めていたといったケースが多い気がします。 大企業の場合、一昔前は海外の子会社に若手が出向して、現地で管理職を務めるようなケースがよくありました。しかし最近は「現地子会社は現地のローカル採用のなかでマネジメント人材を確保したほうがうまくいく」という考えが主流になっていて、日本の若手がマネジメント経験を積む機会が減っています。
伝統的大手企業のなかで、女性が活躍している管理職以上のポジションはありますか。
内部昇進も中途採用も難しいという伝統的な大企業でも、この2、3年で、女性の社外取締役を採用するケースが一気に増えました。なかでも人的資本経営を推進する必要性が高まるHR領域、つまり人事関係の女性社外取締役が増えています。上場企業の場合、人事を専門領域とする取締役が少なく、社外取締役でカバーしたいという考えがあります。また、ダイバーシティー推進を対外的にPRする意味合いもあります。 もともと人事や広報などは女性比率が比較的高い職種であり、候補を探しやすいということもあります。とはいえ社外取締役への登用も、人材関連企業での経営経験やコンサルティングファームでの経験、他の企業での人事部長経験といった実績が求められるのが実情です。

スタートアップでは急速に増える女性管理職
伝統的大企業以外の会社では、女性登用が進んでいるのでしょうか。
スタートアップなど創業から間もない会社での女性の管理職などへの登用は、ここ数年、急速に進み、「男女は関係ない」といえる状況です。中途採用もスタートアップでは一般的です。男性のみから選ぶより、性別に関係なく選んだほうが、分母が大きい分、確率的にもより優秀な人が選ばれやすいのは当然です。 背景にあるのは「性別に関係なく登用しないと企業が強くなっていかないから」という現状があるためです。東証株価指数(TOPIX)などを見ても、「女性役員の割合が高い会社ほど株価の伸び率が高い」ということが指摘されますし、女性や外国人の多い組織は活性化するという研究データも多く出ています。
スタートアップ企業に女性が活躍しやすい土壌があるのでしょうか。
スタートアップ企業は、創業当初はブランド力がほぼない状態からスタートします。ブランド力が弱い状態で求人を出しても、優秀な人材はなかなか応募してくれない状況があり、子育てなどの事情があっても採用される可能性が高くなります。また、スタートアップ企業では、男女に関係なく、フェアに評価する傾向がありますので、実績に応じてしっかり女性が活躍できる環境があります。 また、小規模の企業のほうが、柔軟に働き方に配慮してもらえることもあります。大手企業では、社員ごとの個別対応は難しく、出社日も固定されているケースがあります。対して、小規模の企業だと、トップが認めれば、「今週は仕事がたまってるから、ずっとオフィス勤務で」「今週は子供が病気だから家で」という柔軟な働き方が可能ですし、そういう環境が女性から求められています。

現代のマネジメントのあり方「女性のほうが向いている」
女性の管理職や経営メンバーが活躍する企業に共通する特徴などはありますか。
日本にも規模に関係なくトップが、本気で女性活躍を進めている企業がありますが、1つの共通点があります。それは、トップが20代や30代など若いときに、駐在や出張などの経験によって、欧州の現状を目の当たりにしているということです。欧州企業には、優秀な女性管理職が多く、そうした人たちと仕事をすることで「優秀さに女性と男性の違いはない」と実感した経験があることが多いのです。職業選択も、家事や育児の負担も含めて、性別は関係ないという風土もあります。そういった環境で働いてくると、自分がトップになったとき、自然と「女性に能力がないのではない。能力を発揮できない環境だったから、登用されていないのだ」と考えられるのだと思います。
男性管理職と比較したときに、女性管理職の特徴はありますか。
マネジメントのトレンドは大きく変わりました。ひと昔前は「俺についてこい」という、昭和的、俺様的なリーダーシップが主流でした。しかし、令和になった今、若い人は俺様的なリーダーにはついていきません。「『俺様』から『おかげさま』へ」という、共感型・伴走型リーダーシップが最近のマネジメントの主流となっています。その意味では、環境的な要要因に起因するとはいえ、共感力があって、かつ配慮が行き届きやすい女性のほうが適性はある側面があります。 よく言いますが、男性は社員が髪の毛を切っても気づかないですよね(笑)。体調の変化などにもあまり気がつきませんが、女性のほうが圧倒的によく気がつくということが多いです。ですから、現代のマネジメントのあり方には女性のほうが向いていると考えます。 実際、女性管理職が出てくることで、社員の定着率や人材育成、組織へのロイヤルティーなどの面でよい効果が出ていると聞くケースは少なくありません。
管理職を目指すならマネジメントできるところを探すべき
管理職を目指す女性の転職は、年代的には何歳ぐらいが多いのでしょうか。
30代は育児の真っただ中で、悩んでいる方が多い印象です。具体的に多い悩みは「もうあと1、2年がんばれば管理職になれそう。でも、そうすると出産適齢期を外してしまう」「年齢を考えるとあと2、3年のうちに管理職にならないといけない。でも今の会社では無理そうなので、転職したい」「転職してすぐに出産は考えづらいので、今のうちに産んでおきたい」などです。 その悩みを抱えながら、ストレッチしてがんばろうと考えるのは、30代後半から40代にかけての方が多いです。子供も小学生くらいになる方が多く、物理的な負荷は軽くなる場合が多いようです。同時に、「このまま今の会社にとどまった場合、自分のキャリアはどうなるのだろう」という危機感も芽生えてくると思います。

管理職を目指す女性が転職する場合、伝統的な企業から外に出る方が多いのでしょうか。
すべてではありませんが、少なくないケースです。やりがい、つまり「意思決定ができるポジションに行きたい」という人が多く、ルールを決める側にまわりたいと考える方が多いです。また、収入が理由となるケースもあります。収入アップを考えると、管理職を目指すことになりますが、社内での昇進が難しいと感じることがきっかけとなる場合があります。 どこかのタイミングで実績を作ったり経験を積んだりしないと管理職にはなれないわけですが、タイミングを逃すと、管理職になれないままキャリアのピークを越えてしまうことになりかねません。実際には40代半ばぐらいまでに管理職になる経験が必要といえます。 私は相談者の方に「20代から30代前半ぐらいの若いうちに、前倒しでキャリアを作っていきましょう」とお勧めしています。つまり、「自分がマネジメントの仕事に就けるところを探しましょう」ということです。
若いうちにマネジメント経験を積むということは、大企業でなく、比較的規模の小さな会社を選択するということになりますか。
基本的にはそうなります。小規模の企業だと、他に人がいないからマネジメントをせざるをえないということも多々あります。また、会社が成長していくプロセスに貢献することで、気がつくと部長になっていたりします。さらに、性別に関係なく活躍しやすい環境のある外資系も選択肢となります。業種としてはテック企業、Web企業が多いです。
クオータ制の導入は進んでいないのでしょうか。
女性役員や女性管理職の比率の数値目標を設定して、外部にPRしている会社もありますが、達成されていることは多くありません。日本における経営メンバークラスの女性比率は、欧米の3分の1程度にとどまります。本気で取り組むのであれば、企業名の公表のようなペナルティーを課すことを検討すべきでしょう。 そのためには、まず政治の世界で活躍する女性の割合を増やさないといけないでしょう。たとえば知事にしても、47都道府県の女性知事は2人だけですから5%未満です。ですので、義務を課す側も及び腰な現状はあると思います。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:久保田 正志 写真:研壁 秀俊 掲載日:2023年2月13日