「シニア」や「サステナビリティ」に注目が集まる 転職市場NOW コンサルティング業界編

トップヘッドハンターに転職市場の最新動向を解説してもらう本連載。今回はコンサルティング業界についてエグゼクティブリンクのシニアエグゼクティブである北條将也氏に話を聞きました。

北條 将也

(ほうじょう まさや)

エグゼクティブリンク シニアエグゼクティブ。伊藤忠テクノソリューションズにて、エンジニアとしてのキャリアをはじめ、新規事業創出チームにプロダクトオーナーとして携わる。その後、エグゼクティブリンクに入社し、コンサルティング業界の転職支援に従事。特にIT人材の転職支援に強みを持つ。株式会社ビズリーチ主催「JAPAN HEADHUNTER AWARDS 2021」、同2022でコンサルティング部門MVP連続受賞。

デジタル人材だけでなく専門領域人材の採用にも注力

2023年のコンサルティング業界における中途採用のトレンドはどうなりそうでしょうか。

2022年から引き続きデジタルトランスフォーメーション(DX)に対するビジネスニーズが高く、それが中途採用でも大きな潮流となっています。もともとニーズが高かった分野ですが、新型コロナウイルスの感染拡大によるリモートワークの広がりや働き方改革に伴う残業時間減少によって、さらなる効率化・生産性向上のためDXを推進したいという機運が高まっています。 求められる役割も変わってきています。戦略系コンサルティングファームでは「アーキテクト」「CX(顧客体験)デザイナー」「データサイエンティスト」といったデジタル人材の採用を強化するだけでなく、IT企業との協業が進んでいます。一部の総合系コンサルティングファームでもエンジニア採用を積極的にしたり、事業会社との合弁企業(ジョイントベンチャー)設立等が行われたりと、デジタル人材へのニーズは全領域で増えてきています。デジタル系人材の採用が活発なトレンドは2023年も変わらないでしょう。

直近ではどのようなスキルが歓迎されるのでしょうか。

直近でも、引き続き「サイバーセキュリティ」「データサイエンス」「クラウドサービス」「Enterprise SaaS」等の経験に対するニーズは高い傾向があります。そのため、こうした専門領域の経験者は、コンサルティング業界の経験がなくても、即戦力人材として採用する流れがあります。 特に、サイバーセキュリティは、クラウドサービスやテレワークの普及に伴うセキュリティ上のリスク、ランサムウエアによる被害、標的型攻撃による機密情報の窃取等、企業のリスクも近年一段と高まっており、法制度、技術両面で対応が必要です。また、戦略や統制のないDX推進によって起こり得るデジタルリスクに対応するためのデジタルガバナンスに関わる採用も活発です。

サステナビリティの専門家も需要高し

デジタル関連以外にはどんなトレンドがありますか。

東京証券取引所の市場改革やコーポレートガバナンス・コード改訂を背景に、環境・社会・企業統治(ESG)対応へのコンサルティングニーズも増えています。特にグローバル企業ほどそのインパクトが大きいことはいうまでもありません。 コンサルティングファームのサービスとしては、サステナビリティ戦略策定、将来の財務に及ぼすインパクトの分析・可視化や、情報開示等が挙げられます。例えば、「カーボンニュートラル」達成に向けた目標や具体的な計画の策定をしたり、海外から資源調達している企業に対しては、決められた区画で調達をしているか、また児童労働がかかわっていないかなど、適切なサプライチェーン構築に向けた支援をしたりしています。 直近で、複数の企業でこうしたポジションが新設され、採用注力の動きが出ていますが、ビジネス的な広がりに対して、専門性を持った人材が少ないのが現状です。 また、変わったところでは宇宙開発や防衛関連、地政学的リスクへの対応も注目されています。2022年にはじまったロシアによるウクライナ侵攻を契機に、地政学的な経営リスクが浮上しており、個別で専門ポジションが立ち上がっている企業もあります。

コンサルティング業界の年齢的な面での採用ニーズはいかがですか。

企業側の雇用の考え方に変化があり、ミドルからシニアの人材も採用される動きが出てきており、一部の企業では積極的に採用しています。大規模プロジェクトのマネジメント経験や部下の評価経験など、年相応のキャリアは求められるものの、こうした流れは新しい動きです。

シニア以外での動きはありますか。

今まで実施していなかった大手総合系コンサルティングファームでも、第二新卒採用を進める動きが出ています。 第二新卒の方で評価される観点としては、一定の学力や人物面等が挙げられるでしょう。加えて、英語力、技術力等、何か秀でている点があれば、より高い評価につながります。面接では「成長していきたい」と考えられるマインドセットがあるかなどが見られます。

女性の採用はいかがでしょうか。

以前と比べ、女性の採用が全体で増えています。コンサルティング業界でも、働く環境を含め、多様な働き方が浸透してきています。フルリモートワークや、フレキシブルな勤務形態で採用を検討する企業が増えたことで、育児中の女性や、育児のためにいったん退職した女性の採用といった、今まではリーチが難しかった優秀人材の採用が増えてきています。外資系企業の場合、本国でのダイバーシティ推進の流れが日本にも来ており、女性活躍推進が広がるなかで、ニーズも高まり、採用される方の幅も広がっています。 20代、30代が全体の半数以上を占める状況ですが、若手だけでは、必要な人材が充足できない状況です。シニアへの採用拡大や女性採用の増加は、これまでリーチしてこなかった層から優秀な人材を見つける流れのなかで注目されているのだと思います。

「大手でも不安」という若手が求職者に

未経験者のコンサルティング業界への転職も増えていますか?

増えてきている印象はあります。転職セミナーなどでコンサルタント志望の求職者の話を聞くと、7~8割がコンサルティング会社以外の方です。ビジネスコンサルティングファームは全体として成長傾向にあり、毎期100人以上を採用している企業もあります。大手ともなると毎年1,000人以上を採用し、増員を続けている企業もあります。

求職者の転職動機はどのようなものでしょうか。

不確実性の高い時代に、より自身を成長させたい・市場価値を高めたいと思われる方が少なくありません。最近では、ジョブ型雇用への移行や役職定年制度適用・見直しなどの話もあり、大手であっても将来的な雇用の不確実性が高くなり、若い世代で不安を感じる人が増えています。 事業会社の若手のなかには「中にいるだけではなかなか出世できない。いったん外に出て、コンサルタントとして経験を積んだ後に事業会社に戻ったほうが、早く上に行けそうだ」と、キャリアを見越して転職する方もいます。ほかにも、若いうちにある特定の分野で第一人者になってしまい「このままではこれ以上成長できない。優秀な人たちと切磋琢磨したい」といってコンサルティング業界に転職する方もいます。

「なかには会社がホワイトすぎるので離職したいという人もいる」と聞きます。

数は多くありませんが、20代の方で、リモート勤務が増え、残業時間が減った結果、「働きやすい環境ではあるものの、このままでいいのか」と感じて転職を考えている人も出てきています。 コンサルタントも以前に比べて働き方はマイルドになっていますが、それなりの負荷がかかる仕事といえます。しかし、クライアントの課題解決を通じて、自己の成長につなげられる点が魅力的なのだと思います。

コンサルティング会社の人材育成はどのようになっていますでしょうか。

採用と同じように育成も重視されていますが、企業や配属先によって温度差があるといえます。特にコンサルティング未経験者に対する人材育成の場合、いかに早期に独り立ちできるかがポイントとなるため、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)・バディ制度などを活用した育成プログラムが重要になってきます。求職者側からの視点では、人材育成制度の充実度は大変気になるポイントでしょうから、事前の情報収集が重要といえるでしょう。 さまざまなキャリアの選択肢があるかと思いますが、社会にインパクトを与える業務を通じた自身の成長を志望される方にとって、コンサルティング業界は良い選択になるのではないでしょうか。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

文:久保田 正志 写真:研壁 秀俊 掲載日:2023年2月27日