増える「国境なきリモートワーカー」 長野でカナダShopifyの仕事をするエンジニア

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最近、住む場所にとらわれず、国境を越えて企業に所属して働く「国境なきリモートワーカー」が、リモートワークの浸透によって少しずつ増えています。今回は長野県松本市に暮らしながら、カナダのテック大手Shopify(ショッピファイ)の仕事にリモートで従事するITエンジニアの深山雄太さんに、お話を伺いました。ドイツやカナダで働いた深山さんが日本に戻って働く理由とは。

深山 雄太

(みやま ゆうた)

大学卒業後、東京でソフトウエアエンジニアとして複数のスタートアップで勤務。2016年3月〜12月、ドイツのスタートアップnerdgeschoss GmbH勤務。2016年12月〜2020年8月:ドイツのスタートアップ ChartMogul勤務。2020年8月〜:カナダのテック大手Shopify勤務。2021年12月、カナダ・トロントから長野県松本市に引っ越し。

日本の地方でグローバルな仕事

長野県松本市在住のソフトウエアエンジニアの深山さんは、カナダに本拠を置くテック大手Shopifyに勤務するシニア・デベロッパーです。Shopifyは、国境を越えた商品取引をワンストップでできるECサイト構築サービスで、世界中で200万近い事業者に利用されています。 税制面への対応などから、所属先はShopifyの日本法人。ですが、深山さんの担当業務はグローバルな仕事で、日本市場向けの仕事をしているわけではありません。世界中で事業を展開するShopifyでは、チームは担当するプロダクトやプロジェクトごとに編成され、居住地と「どの地域向けの仕事をするか」は必ずしもひもづいていないそうです。 「オフィス中心の時代は終わった」。同社のトビアス・リュトケCEOは2020年にそう宣言しました。世界各地に点在していたオフィスはコロナ禍を受けて閉鎖。全世界、約1万人弱の社員は原則リモートで働くというスタイルになりました。 深山さんはそんなShopifyに2020年8月、カナダのトロントオフィスで採用されました。しばらく現地でシステムの機能開発の仕事をしていたものの、2021年末に日本に帰国することを決意。今は実家の近くで、カナダ勤務時と変わらない収入で働いています。

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トロントで出会ったエンジニア仲間たちと 深山さんによると「Shopifyには自分の考えや希望を会社に伝えれば、それに沿って仕事内容やチームを変えやすい環境がある」といいます。 コロナでオフィスに出勤するという前提が外れたとき、深山さんには「日本の実家近くでアウトドアライフを楽しみながら、家族との時間を過ごしたい」という思いが湧き上がりました。どこで働いてもいいなら、オフィスがある国に住む必要もない、というわけです。

時差のあるチームでプロとして働く

ただ、トロントと日本では時差が13時間あり、昼夜が逆転します。「日本に帰る前から覚悟はしていましたが、実際やってみると大変でしたね」。自分が業務時間中に達成したことは文章で残し、カナダのメンバーが業務開始後に把握できるようにするなどの工夫は最大限しました。 しかしシステムに不安定な設計が見つかるなど、急ぎで対応すべき案件が生じた場合、カナダにいるメンバーとタイムリーに直接コミュニケーションを取り、対策を立てる必要があります。「夜遅くまで働いたり、早起きしたりすることがそれなりの頻度でありました」

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深山さんは海外の仕事をこなしながら、松本に暮らす

そうしたなか、深山さんは個別の開発よりも、システム全体を理解できる仕事をしたいと思うようになります。タイミングよく、しかもアジア地域の時間帯で勤務できるポジションの社内公募に巡り合えたことで時差問題は改善されました。 それまでの業務は「設計者のデザインに従ってプログラミングをする」など、比較的素早い対応が求められていました。それを、システムの本番環境における安定性を高める業務を担うようになることで、「最近はだいたい決まった時間に働けるようになった」といいます。

流動的な組織が柔軟な働き方を実現

しかしなぜ同社では、それほど柔軟な働き方ができるのでしょうか。深山さんによると、その土台には「チーム・組織は流動的である」という企業文化があるといいます。 同社の仕事の進め方はプロジェクト主導で、半年あるいは1年くらいのプロジェクトが次々と立ち上げられ、その都度メンバーが集められます。その際、「ベストなスキルセットや役割の人同士を組み合わせる」だけでなく、「時差が小さい地域の人たちを集める」ことを優先するといった選択肢もあり得るのだといい、そうした柔軟な組織のあり方が、多様な働き方を可能にしています。 深山さんにも日本に戻った当初は「仕事の幅が限定されるのでは」という不安がありました。しかし、もともとShopifyでは頻繁に社内異動があることもあって、「実際には日本に帰ったからといって、マイナスを感じるようなことはなかった」といいます。 深山さんはShopifyの前、ドイツ・ベルリンのスタートアップ企業2社に勤務。海外では、ドイツで約3年半、カナダで約2年間働いていました。その間にも転職を3回、昇進を2回経験。年収は海外勤務を始めたときと比べ3倍ほどに増えたそうです。 自らが望む働き方や待遇を求めて環境を変えることは、深山さんにとっては「当たり前」のことのように見えます。

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トロント在住時代の自宅の仕事場

海外企業で働けば「日本」という枠に捉われなくなる

多くの海外企業で働いてきた経験により深山さんは、「国の枠で働く場所を制限する発想が薄くなった」といいます。 コロナ前から、深山さんの仕事はインターネットを介してグローバルでした。ベルリンで勤務していたドイツのスタートアップのChartMogulに対しても、トロントに移りたいと希望を伝えて実現させ、最後の1年近くはカナダでベルリンのチームと一緒に働いていたそうです。 日本でもコロナ禍の影響でリモートワークが広がり、新しい働き方が生まれていると指摘されます。エンジニア職を中心に、勤務地を問わない求人を出す企業も徐々に増えています。果たして、日本にいながらにして世界中の企業で働くチャンスはこのまま広がるのでしょうか。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

取材・文:駒林 歩美 編集:岡 徳之(Livit)