9割は定時帰社。「ワーク」より「ライフ」優先
現在のお仕事内容を教えてください。
国内自動車メーカーの南アフリカ支店で、マーケティング部署に所属しています。マネージャーとして3~4人の部下をマネジメントしながら、新製品に対する収益上の判断を伴うマーケティングの立案を担当しています。言語は100%英語です。

同僚と話す本間さん
これまで、中東やアメリカでの勤務も経験されたとのことですが、海外で働く際に配慮しておくことはありますか。
根本的なところで人生の価値観の違いが見られ、それが働き方の違いにつながっている気がします。日本では「仕事=人生」のような価値観を持つ人が多く、プライベートの事情よりも仕事の完遂が重要視される傾向があります。一方、日本を除く海外では、例外なく仕事よりも「人生」を第一と考える風潮が強いですね。 わかりやすくそれが表れているのが、残業や有給休暇の取得。まず、9割9分は定時で帰ります。管理職になると仕事量が増えて、自宅に帰って夕食を取った後に再び仕事をする、なんて人もいますが、会社への居残りは極力しません。 休暇の取得も柔軟で、例えば、当日の朝に「子どもが熱を出して病院に連れていくから半休がほしい」といった連絡がくるのは、日常茶飯事。大抵は「問題ないよ。何かフォローしておくことはある?」といった返答で、管理職で働くならばこの感覚を心得ておく必要があります。
エジプト旅行中の本間さん 私が南アフリカに赴任した直後のこと。女性上司と急に連絡が取れなくなり、ようやく連絡がきたと思ったら、「ごめん、今日子どもが生まれた。5カ月の育休を取るからよろしくね」と。さすがに「フレキシブルすぎるだろう」と思いましたが(笑)、それぐらい休暇を取ることは働く側にとって当然のことなんです。
人間関係はオープン、役割の違いは明確
業務の進め方ではどうですか。
日本では資料一つ作るにも、あらゆる角度からの指摘に対処できるよう抜かりなく準備しますし、先ほどの休暇取得についても、クライアントや自社に迷惑がかからないように配慮しますよね。他者にマイナスの影響を与えないという視点では、すばらしいマネジメントだと思います。 一方で、海外では資料作成なら日本の3分の1程度しか時間をかけません。管理職は「コアの7~8割を押さえられていればOK」という考え方で、「追加で何かあれば、あとは自分がどうにかする」といった感じです。準備に時間をかけない代わり、「顧客は何を求めているのか」という議論に時間をかける傾向がありますね。
ドバイの風景
コミュニケーションの違いもありそうですね。
南アフリカの場合、関係性は非常にオープンで、何でも言いやすい雰囲気があります。管理職が意識的にそういう空気をつくろうとするのが海外の特徴といえるかもしれません。役員に近いある上位管理職者は、個室のドアを常に開けておき、「会議中でも、いつでも入っていいよ」と促していました。インターンなどのジュニアレベルの人は、意見を言う前に「上位者の意向や指示を確認する」ことが優先される気がします。 とはいえ、南アフリカも「役割」の観点では上下関係は明確です。役職によって権限の範囲が決まっていて、オープンに議論はするけれど、意思決定の順序は重んじる、といった感じ。「決定が自分の仕事である」と意識している管理職の意思決定はとても速いです。
役員は「MBA取得が当たり前」という風潮
本間さんは、2021年にEMBA(Executive MBA)を取得されています。これも、海外で働くなかで影響を受けたのでしょうか。
きっかけは親の影響でした。父親がイギリス・ロンドン大学の政治経済学部で修士号(MBA)を取得しており、それが人生で役に立ったそうです。その話を聞いて漠然とMBAを取りたいと考えていましたが、アメリカでの勤務経験を経て、その思いが強くなりました。 というのも、アメリカでは役職が上がるにつれてMBA取得率が上がり、役員レベルになると持っていて当然という状態。企業によっては、MBA取得に補助金が出ることも。南アフリカでも管理職は取得率が上がります。 そんな折、グロービスが主催する1週間のリーダーシップ研修を受ける機会に恵まれました。これが模擬MBAのような内容で、「自分もMBAを取得できそうだ」という前向きなイメージが湧いたんです。 自身のキャリアを考えても、40歳になるまでに他者と差別化できるポイントを作っておきたかった。日本ではたたき上げで役員になった人が多く、MBAを取得している人は少ない。だからこそ、MBA取得が絶好の差別化につながると考えました。

本間さんは、1年半かけて働きながらEMBAを取得
とはいえ、フルタイムで働きながらEMBAを取得するのは、簡単ではないのではないでしょうか。
通学期間中は週20~25時間勉強していて、ほぼプライベートはありませんでした。私の場合、2020年9月から2021年3月まで、スペイン・マドリードにあるIEビジネススクールにオンラインで通学しました。 海外を舞台に働きたい思いが強いため、最初から日本は除外してアジア・アメリカ・ヨーロッパの3地域で探し、最終的にMBAの世界ランキングでトップ常連校であるIEビジネススクールに決めました。 私の場合は約750万円かかりましたが、取得したかいがあったと思うことばかりです。部下のマネジメントのノウハウは、すぐに実践できることばかりで、チームビルディングに役立っています。 何より、新規事業の提案は非常にリアルで、学びというより実践そのものだったなと。実際に潜在顧客にアンケートを取って、担当者に向けて事業提案を行うもので、新規事業を提案するメンタル的なハードルがかなり下がりました。
受動的ではなく、能動的なキャリア形成
キャリアの展望を聞かせてください。
海外では、社内で「この仕事をしたい」「昇進したい」と自身の願望をしっかり伝え、それでも望むようなキャリア形成ができないなら、転職を考えるというふうに、自分の考えに基づいてキャリアを構築しようと思っている人が多い印象です。 そんな海外の人たちの志向に触れて、私も積極的に自分でキャリアをつくっていきたいと考えるようになりました。EMBA取得もその一環です。学んだ新規事業提案をカタチにしたいと考えており、会社内でも希望をしっかり伝えています。

今後数年間は、マネジメントと新規事業提案に注力したいと本間さん 今後3~5年は、マネジメントと新規事業の提案を2本柱として、スキルを磨くつもりです。現状は管理職になるという一つの目標が実現したところで、新規事業はまだこれから。ゼロをイチにする経験をしたくて、管理職として部下をマネジメントしながら、自身で意思決定をして新規事業をつくっていけたらいいですね。 南アフリカでは新規事業の立ち上げは厳しいので、それができる部署があるならば、日本への帰国を視野に入れています。日本で新規事業とマネジメントを経験した後、また舞台を海外に移したい。それまでに、より影響力のあるゼネラルマネージャーのようなポジションへの昇進も狙っています。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:小林 香織 編集:岡 徳之(Livit) 写真:本間 正史