
スタートアップを退職、カンボジアでNGOに
今のお仕事について教えてください。
章太(敬称略、以下同じ) 2020年にそれまで勤めていたSansanを退職しました。その後、一時カンボジアでの国際医療NGO活動を経て、2022年の1月、今住んでいる神奈川県鎌倉市に合気道の道場を開きました。東京の品川、目黒の道場でも教えています。地域の小学校でも教えているほか、警察署と連携して「護身術教室」もしています。 みどり 今は外資系コンサルティング会社で人事の仕事をしています。その前は人材サービス企業やマスコミ業界で働いていました。

ご結婚の経緯を簡単に伺えますか。
みどり 二人とも東京に住んでいて、たまたま家が近くて「飲み仲間」だったんですよ。結婚したのが2015年で、出会ったのはその1年前くらいですかね。
お二人とも転職されていますが、章太さんのキャリアチェンジはとりわけ大きな転換に感じます。
章太 Sansanを退職した理由の一つは会社が大きくなり、少人数のチーム内で同じ思いを共有して事業を推進するという自分の強みを生かせなくなってきたことです。当時マネージャー職をしていたのですが、会社が成長していたことや当時のSaaS(Software as a Service。クラウド経由でソフトウエアを提供するサービス)ブームもあって、ありがたいことに複数の企業から「うちに来てくれないか」といったお話はいただきました。でもいくつかの企業と面接をするなかで、市場が求めているのは、自分が持つSaaSビジネスの経験でしかなく、それも数年で陳腐化する危ういものだと感じたんです。そこで転職市場から評価される立場をやめて、自分が価値を感じることを考えた結果、カンボジアの国際医療NGOで働くことを決断しました。
「キャリアを捨てるの?」
みどりさんは、キャリアチェンジのお話を聞いたときにどう思われましたか。
みどり 正直なところ、理解できずに反対していました。人事の仕事をしていることもあって「えっ、今まで築き上げてきたキャリアを捨てるの?」と思っていました。これまでの経験を生かせるわけじゃないですし、一体何を考えているのかと。私自身は何度か転職していますし、別のことをするのに抵抗はないのですが、想定を超えてしまっていて、当初は結構もめましたね。 章太 それでも最終的には、カンボジアに行くときには「行ってらっしゃい」と言うくらいには納得してくれていたじゃない。 みどり 納得…というのかな(笑)。でも夫婦とはいえ、個々の人格・価値観を持つ人間だし、自分の考えを押し付けて、相手がやりたいことを止めることはできないなと思うようにはなっていました。あと大きかったのは、資金計画を詳細に話してくれたことですね。今の手元資金がいくらで、今後どれくらいの収支を見込んでいて、二人の老後の備えについてはこう考えている、というのをかなり詳細にプレゼンしてくれました。私はお金に無頓着なところがあるので「無謀な決断だと思っていたけど、私よりも将来のことをしっかり考えているじゃないか」と感じて、それならいいかと思う部分はありましたね。

カンボジアからの帰国後、合気道の道場を開かれたのですよね。合気道の経験は長いのですか。
章太 実は、本格的に始めたのは社会人になってからです。学生時代に海外をヒッチハイクなどしながら回っていたのですが、そのときに出会ったスウェーデン人が合気道をやっていて、その人に教えてもらったのがきっかけで、のめり込みました。
失礼かもしれないですが、そうした背景で合気道をお仕事にまでしようという方は少ないように思います。ご自身ではどういったお考えだったのでしょうか。
章太 IT系の仕事をしてきたわけですが、今はインターネットに情報があふれる時代です。検索すればあらゆるノウハウや方法論が出てきますよね。でも、それをみんなうまく実践できるかといえば違うわけです。「知識を持っている」ことの価値は減っていて、それを身体のレベルに落とし込んで「体得」する価値こそが重要になっていると思いました。合気道というのはまさに、「こうすればこうなる」という理論をもとに、体で実践することですから、その価値を広めたいと思ったんですよね。少し飛躍したことを言わせてもらえれば、そうした身体に落とし込む大事さを伝えることで、知識や理論偏重の社会にいいインパクトを与えられるのではないかと。
変化したバランス
章太さんが脱サラされて支出バランスは変わりましたか。
章太 そうですね。以前は、家賃などの定期的なまとまった支払いは私で、日々の生活費などこまごましたものは妻といった区分けでした。支払額は、元々は私のほうが多い状態でしたが、今は半々です。 みどり こうなってみて思うんですが、私のほうが家事を多くしていたので、彼の家計負担が大きいのはなんだか自然なこととして意識していなかったんです。ただ、二人とも働いていて収入があるのに、家計と家事の負担が半々でないのは、なんだか変だなと思うようになりました。

そうすると現在は家事の分担なども半々にされているのでしょうか。
章太 そうですね。 みどり え、違うでしょ。平等じゃないよね。 章太 いやいや、精神的な支援があるでしょ(笑)。学校で指圧の勉強をして、普段マッサージしてあげたりしてるじゃない。 みどり あれ仕事じゃなくて私のためだったの? 章太 そうだよ。 みどり 知らなかった…。まぁでも、それも夫婦の違いだなと思うんですが、夫とは家事の「気づくレベル」や「やるタイミング」が違うんですよね。私はすぐ気づくし、すぐキレイにしたいほうですが、夫は少しそれが違うだけで、お願いしたことや、気づいたことは自分のタイミングではやってくれます。 章太 あとはやり方の違いもありますかね。今の新居に移ったとき、妻は掃除のためにほうきを買ったんですよ。でも僕はお掃除ロボットの「ルンバ」にして、その手間自体をなくしてしまえばいいじゃないという考えで。負担を分け合うのではなくて、それをなくせばお互いにとっていいじゃないと考えるほうです。 みどり 今住んでいる家が無垢材のフローリングなので、シュロのほうきで掃除をしたほうがツヤが出るという理由だったんですが、確かに「ルンバ」で楽になったんです。私にはない発想だったので、そういう、自分にない部分を補ってもらえる感覚はあります。
2020年に、都内から鎌倉に移住されています。理由を教えてください。
章太 コロナ禍で職場に近いところに暮らすメリットが薄れたのが一つ。それと都内の家だと手狭ですし、日常の生活圏のなかだけで過ごすのも息苦しくて「早くコロナ禍が終わってほしい」と祈るばかりだったんですよね。でも、そうしたストレスがなくなる場所に行けば、もしコロナ禍が長引いても、それほどストレスを感じなくていいと思いました。コロナ禍の先行きに左右されないために自分で打てる手を打った、という感覚です。
自分にできないことが、できる
共通の趣味がサーフィンと伺いましたが、それをするためではなかったのですか。
みどり サーフィンは鎌倉に移住してから始めたんですよ。正確にいうと、夫は最初ウインドサーフィンをやっていて、そのうち私と一緒にサーフィンもするようになりました。 章太 妻のほうがサーフィンがうまいんですよね。ちょっと合気道の話にもつながりますが、同じことをしていると、妻のほうが頭で理解したことを身体に落とし込むのに秀でているんだと思います。サッとできちゃうんですよ。

「互いの違い」に自覚的なお二人ですが、いろいろなことが異なる存在と暮らすことにどんな価値を感じますか。
章太 サーフィンもそうですが、妻は私にできないことができるんですよね。だから単純にリスペクトしています。「会社を辞めて道場を開いた」というと私のほうがなんでも飛び込めるように思われるかもしれませんが、私はいわゆる「理屈人間」で、順序立てて理屈をつけないと思い切れないんですよ。自分のなかでは「やりたいのに二の足を踏む」ことが多いと思っていて、それに対して妻はより自分の感情や感覚をストレートに表現できる人だと思います。感じたことをきちんと表現し、伝えることって大事じゃないですか。合気道でやろうとしていることそのものですが、理屈だけにとどまらず「身体に落とし込む」ことの大事さを、一番近くで教えてくれています。 みどり 二人でいることが自然すぎて、考えたことないな(笑)。でもやっぱり、自分にない考え方があるところだと思います。もちろん共通項もたくさんあって、悩んだりつらかったりしたときに、良き理解者でいてくれることもありがたいです。でもそれに加えて、自分にない視点や考え方を示してくれるので彼と話して解決策が思いつくこともよくあります。互いに縛り合うのではなくて、補い合えるような関係でいられたらと思います。 編集注:菅原さん夫妻は、こちらの動画にもご登場いただいています。
「働くわたしの好き時間」 外資系コンサル人事・みどりさんのモーニングルーティン
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掲載日:2022年12月21日