家事は1分単位でエクセル管理 可視化がもたらす「イーブンな関係」

2017年に結婚された黒川梨那さん・峻さんご夫妻は、3歳の長女の子育てをしながら、2人ともフルタイムで働いています。梨那さんの出産をきっかけに、家事や育児を分刻みで「Excel」(以下、エクセル)で管理するようになったそうです。その方法は「周囲に驚かれるけれど、私たちには合っている」といいます。お話を伺いました。

黒川 梨那

(くろかわ りな)

外資系保険会社勤務。在職中に産休、育休を取得し復職。好きなアーティストはビートルズ。東京都出身。36歳。

黒川 峻

(くろかわ しゅん)

IT系の企業でITコンサルタント業務に従事。好きなアーティストはTWICEとBUMP OF CHICKEN。千葉県出身。34歳。

家事タスクはエクセルで一覧化し、イーブンに

お二人のお仕事と働き方について簡単にお聞かせください。

峻(敬称略、以下同じ) IT系の会社に勤めており、ITコンサルをしています。現在はほとんど在宅勤務で、必要に応じて出社します。 梨那 私は保険会社で保険商品の企画の仕事をしています。今は週2日在宅、3日出社の勤務バランスです。2人ともフルタイム勤務で、協力しながら3歳の娘の子育てをしています。

ともにフルタイムで会社勤めとのことですが、家事・育児の分担はどのようにされていますか。

 家事・育児に関しては、基本的にイーブンになるようにしっかり調整しています。具体的にはエクセルで「タスク管理」しているんです。家事や育児のタスク名と、各タスクの見込み所要時間、担当者が一覧にしてあって、妻と僕それぞれの合計時間を自動算出するようにしてあります。

梨那 タスクは1分単位で刻まれていて。「娘を起こす:1分」とか。日頃の運用としては、小さなことでも気づいたら都度タスク一覧に追加していますね。最近は、「加湿器の水、毎日補充してるの私だな…」となり、追加しました。

かなり衝撃的です。「イーブン」というのは、お二人が家事に使う「時間」が等しくなるようにしているという意味ですか。

 はい。エクセルが算出するそれぞれの所要時間を見て、定期的にバランスを見直しています。在宅勤務時と出社時で家事に割ける時間が違うので、勤務形態ごとにパターン分けもして、考慮に入れています。 ただ、実績管理は大変になってしまうのでしていません。例えば「娘を起こす」は1分の計算ですが、3分かかる日があったとしても計算は1分です。タスクの所要時間はだいたい半年ごとに見直すかたちを取っています。娘の成長によっても変わっていくものなので。直近では引っ越しに伴って、生活環境や通勤時間が変わったので、抜本的に見直しました。

勤務パターンを考慮に入れた家事時間の妥当性評価シート

支出は月収比に合わせて案分

もしかして、支出も同様に管理されているのですか。

 家計管理も専用のエクセルがあって、月収比率に合わせてそれぞれの負担が変わるように計算しています。 梨那 家族に関わる出費、食費や家具、家電などにかかるお金を「家計」としています。投資以外の貯蓄は別々で、自分で使うものは完全に別です。

「家計」のなかで振り分けが難しいものもあるのでは。

梨那 食費はあえてうやむやにしていますね。それを言い出したら大変なので。たとえば週末に私だけが飲むワインも「家計」に含んでしまっています。  僕もお菓子を買うので。それに外食したら確実に僕のほうが食べる量が多いですし。それによってわざわざ比率を変えたりはしません。

家電も家計に含むということですが、例えば自分しか使わない家電の場合はどうするのでしょうか。

梨那 それは都度相談です。前も、夫がトレーニング器具の「SIXPAD」を買うのに、一緒に使うか確認されまして。そのときは、私は使わないと言ったので、夫だけがお金を出すことになったんです。でも、一度ちょっと使ってみたくなって、使わせてと言ったら、「それがもし常態化するなら半分お金出してね」と(笑)。

 そうでした(笑)。でも結局常態化はせず、むしろ僕もすぐ使わなくなって、フリマアプリで売ったんですが。

そもそもそういったエクセル管理をするようになったのは、どのような経緯だったのでしょうか。

 家事の分担をイーブンにしたいというのは、もともと目標としてあったんです。この仕組みを明確に作ったのは、妻が育休から復帰するタイミングでした。子どもが生まれる前は、明らかに妻の方が多く家事をしてくれていましたね。 梨那 実は、産休に入るタイミングで昇格の話をもらい、復職すると同時に業務のレベルが上がることが決まっていました。その前も仕事が忙しかったこともあり、このままの家事分担では復帰後つぶれるかもしれないという不安がありました。そのことを純粋に相談したと思います。  その相談をきっかけに仕組みを整えて、今も運用を継続しています。

「昔は管理していなかった」のにうまくいくわけ

ご結婚前からそうだったわけではないんですね。

 はい。同棲していたときから結婚後もしばらくは単純に家賃を折半するくらいで、今のような仕組みはなかったです。なんなら、僕はもうずっと貯金ゼロ、みたいなテキトーな感じで…。 梨那 そうですね、各管理シートはすべて夫がフォーマットを作ってくれていますが、もともとそういう気質の人だという認識はなかったです。彼のお金の使い方に関しては、ずっと思うところがあったレベルでした。  そうだと思います…。考えてみると、仕事でする「プロジェクト管理」の練習みたいなものだったかもしれません。 梨那 そういえば、結婚式の計画もWBS(Work Breakdown Structure:プロジェクトの計画管理に用いられる手法)で管理したよね。  確かに、作ったね。家のリノベーションするときの要件整理やタスクもエクセルで管理しました。 梨那 うちには、あらゆる管理用エクセルシートが存在します(笑)。

そういったものの分担を管理しようとすればするほど、うまくいかないという夫婦も多い印象があるのですが。

梨那 私たちにはすごく合っていて、むしろやりやすいです。パートナー間において「見えない家事」をやっている側(がわ)の不満がたまるということは、よくあるケースだと思いますが、この方法だと、自分がやっていることが相手に認識されるのがいいんです。エクセルに書いておけばいいですから。可視化されることで相談するきっかけにもなるので、モヤモヤすることも減りました。  正直、どの家庭にも適用できるとは思っていません(笑)。 梨那 そうですね。人に話すと本当に驚かれます。

もともとはそうではなかったのに、今の運用方法が成り立つことがすごいです。ケンカになることはなかったのでしょうか。

 ケンカというより、ちゃんと思っていることを話す、という感じですね。そもそも妻は本当に情緒が安定していて。僕はケンカをしたくないタイプなので、いつも穏やかでいられるのがとても心地よいです。 梨那 確かに「最近どんなケンカをしたか」と聞かれても、思い浮かばないですね。夫は、小さなことでも話せばしっかり聞いて、どうしたらいいかを真剣に考えてくれます。対等に建設的な会話が日頃からできるからこそ、今のやり方もうまくいっていると思います。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

写真:的野 弘路 掲載日:2023年12月25日