SHIFTの人事戦略 内定まで最短3日の「超高速採用」と「人本位の経営」を両立

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初回面接から内定通知まで最短3日という「超高速」の中途採用フローで、IT分野などの高スキル人材を積極採用しているのが、ソフトウエアの品質保証・テスト事業のSHIFTです。「人本位の経営」を掲げ、数だけの採用に陥らないよう、従業員の適性検定などを通じて育成、やりがい創出の仕組みづくりにも注力しています。人員の拡大を持続的に業容の拡大につなげるための戦略とは。上席執行役員兼人事本部本部長の菅原要介さんに伺いました。

菅原 要介

(すがはら ようすけ)

上席執行役員兼人事本部本部長。事業部門全体の統括を経て、2018年から企業成長の軸となる採用・人事部門の執行役員を兼任。現在はグループ全体の採用・戦略も管掌する。株式会社インクス(現:SOLIZE)を経て、2008年にSHIFT参画。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。神奈川県出身。42歳。

「営業」より「人事」が多い会社

中途採用にものすごく積極的ですね。

はい。当社の従業員数はグループ全体で約9,000人ですが、2022年8月期は年間で2,000人を超える中途採用を行う予定です。当社の主力事業はソフトウエアのテスト・品質保証ですが、近年は開発上流の企画や開発、DX(デジタルトランスフォーメーション)の流れを受けたコンサルティングなどにも業務を広げています。いずれも需要は旺盛です。SHIFTのビジネスモデルでは、「エンジニアの単価×人数」が売り上げを左右するため、採用には何よりも力を入れています。例えばSHIFT単体でも人事部門の社員数は200人近くおり、これは営業社員よりも多い数です。

年間で2,000人以上となると、毎月150〜200人ほど採用しないと届きません。どうやって実現しているのですか。

施策はいくつかありますが、その一つは、採用サイクルの短縮です。

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中途採用というと、内定まで複数回、面接するのが一般的かと思います。でもそうすると何度も日程を調整する必要が生じ、最初の面接から内定を出すまでは早くても数週間かかります。例外はありますが、そこを当社では3~4日ほどで内定が出るようにしています。 まず面接は1回で、その際に動画を撮影します。その動画を候補者の配属可能性がある複数の部署の担当者で見て「採用したい」という部署が内定を出す、というフローです。採用したいという部署が複数ある場合もあり、そのときは内部で調整します。2年ほど前からこの仕組みを導入しています。

なぜそれほど短く?

近年、優秀な人材の獲得競争は激しさを増しています。特にDXを担うIT人材は顕著です。優秀な人材ほど、転職市場に出たらすぐ次が決まり、ちょっとタイミングが合わないだけで他社に行ってしまいます。内定までの期間が短いと、例えばすでに他社から内定をもらっている候補者でも、受諾を数日待ってもらえれば当社からオファーを出すことが可能になります。 中途採用は人材紹介会社にもお願いしていますが、これだけ短ければ、月末に実績を上げたいヘッドハンターさんからの紹介も期待できます。候補者の選択肢に入らなければ、採用の可能性はゼロですから、これは大きな違いになります。

「ミスマッチ防ぐ」狙いも

サイクルを短縮するメリットは理解できますが、ミスマッチなどの懸念は高まりませんか。

実は、動画面接には入社後のミスマッチを防ぐという効果もあります。

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採用においては、候補者の方がもつ能力を最大限発揮できる業務や環境を見極めることが非常に重要です。動画面接では、候補者の情報をデータ化して多くの部門責任者が閲覧し、判断します。個人の印象に依存せず、データを基によりマッチした職場を候補者に提案するようにしています。そうすることで、当社と候補者双方にとって可能性が広がると考えています。 また当社には、「検定文化」が強く根付いているんですよね。SHIFTでは、テスト事業開始当初から「CAT(キャット)検定」と呼ばれる素養をはかる検定を採用に活用してきました。今は、能力開発部という部署があって、そこがテストだけでなく、独自に職種別の検定を開発しています。 これらは、簡単にいってしまえば「業務の適性診断テスト」のようなものです。これは知識やスキルを問うものではなく、その人のものの捉え方や思考、頭の回転の速さなどから、業務の適性を割り出すものです。 例えばほぼ同等の知識やスキルを持つエンジニアでも、ゼロからプログラムを作るのが得意な人と、プログラムのバグを見つけるのが得意な人がいます。この違いは知識や経験よりも、その人の特性にひもづくものだということが、われわれのノウハウとして確かめられています。テスト自体は30分ほどで回答できるものなので、その結果もあわせて見ることで、適性のある業務のオファーをしてミスマッチを防いでいます。

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「採用を効率化して高速化している」というと、個人に対して向き合っていないような印象を持つ方もいるかもしれませんが、当社としてはむしろ真逆の姿勢だと思っています。採用に技術やノウハウを惜しみなく注ぎ込むことで、積極採用と適正な人事配置を両立させようとしているのです。

元神主、パティシエ…。集まる未経験者

30分での回答となると比較的簡易なテストといえると思いますが、ミスマッチが防げるほどに適性がわかるものなのですか。

当社としては自信を持っていますね。このテストは、社内の各職種で活躍している人材の特性を業務ごとに分解・解析し、作り上げたものです。10年以上運用していますが、その間にテストの結果とその後の活躍度合いを照らし合わせています。われわれの適性の見極めが、個人のパフォーマンスの最大化に寄与していると「答え合わせ」ができています。 例えば過去には、弁護士を目指し勉強していたいわゆる「文系」の方で、CAT検定で高い点数を獲得し、非常に高いパフォーマンスを出す優れたエンジニアに成長した例があります。現在では、非ITの業界からの転職者も多く採用しており、元神主、パティシエ、メーカーで営業をしていた者など、職歴からではなかなかデジタル分野での活躍が想像しにくいケースでも入社後に活躍をしています。 未経験者も増えていますが、それでもかつて2ケタだった離職率はいま1ケタに下がっています。

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未経験でも採用できることが、年間2,000人を超える採用を実現するのに一役買っているわけですね。

未経験でもテストで適性が認められていれば「素養がある」と考えられるので、当社としては安心して育成コストをかけられます。 そもそもIT人材は日本全体で不足していて、すでにスキルを持っている人だけで必要人員をまかなおうとしても無理があります。米国では、IT産業への労働移動が進んだことで生産性が高まっています。それに比べ日本は、これだけ必要性が指摘されているのにIT人材比率はなかなか高まっていません。これは当社だけの問題ではなく、日本全体の生産性に関わる課題だと思っています。

役員は数週間カンヅメで人事評価

人材確保という意味では、待遇面の向上も重要になります。

当社では、従業員平均の年収ベースで10%以上の昇給率を継続しています。もちろん業績が拡大していることが背景にありますが、それだけが要因ではありません。 先ほど育成の話にも触れましたが、当社では職種ごとに「このスキルを身につけたらこの給与水準」という基準が細かく決まっています。そして定期評価の際に、社長を含めた役員や評価者たちが、従業員一人一人に関して「この社員には5年後にどうなっていてほしいか」ということを話すんです。これは非常に手間のかかる作業で、社長は約1週間、他の役員は数週間、個人の取り組みや意向、成果のデータと向き合いながら、ほぼカンヅメ状態でこの人事評価をします。上司は部下の頑張りが正しく評価され、昇給されることに責任をもって取り組みます。個人の成長にそこまでリソースを割くからこそ社員のスキルアップを促せ、会社として規模だけでなく生産性も高められるのだと思います。

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採用は入社してもらえばそこで終わり、というものではありません。採用した人材にどう活躍してもらうか、成長してもらえるかが重要です。採用数を大きく増やしていることは確かで、そのための効率化も進めていますが、働く個人に真剣に向き合っているからこそ実現できているものだと考えています。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

写真:今村 拓馬 掲載日:2022年8月19日