国内ならどこに住んでもいいように
通勤費の上限を引き上げられたとか。
はい。これまで月に2万円を上限としていましたが、このほど10万円に引き上げました。当社は2020年からフルリモートOKの体制をとっており、一部のコーポレート部門の担当者を除く社員の8割が、月に数えるほどの出社費用だけを支給すればよい状態でした。 ただ仮に出社するのが月に一度だけだとしても、2万円ですと東京のオフィスとの往復交通費をまかなえる距離というのは限られています。10万円であれば、おそらく国内のほぼすべての場所と東京を1往復はできると思いますので、引き上げることにしました。
「全国どこからでも往復できる額」にこだわったのはなぜですか。
当社は「自立した持続可能な地域をつくる」というビジョンを掲げ、ふるさと納税事業をはじめとした地域に関するビジネスを展開しています。だからこそ、社員にも「業務に影響が出ない範囲内で国内であれば好きなところに住んでいい」というスタンスでいるのですが、これまでは通勤費の上限が実質的な制限になっていました。会社の成長に合わせて、少しずつ理念に沿った制度を整えてきており、今回はその一環で交通費の上限を引き上げたということになります。
コロナ禍が一服したとされる2023年ごろから、国内外で「オフィス回帰」を促す動きもありました。それとは異なるのでしょうか。
狙いとしては違います。今でも社としては出社を求めていませんし、「もっとオフィスに出てくるように」という意図で額を引き上げたわけではありません。あくまで「出社の必要が生じたときに、国内なら往復交通費をまかなえるようにした」のです。 フルリモートを前提とはしていても、実際には「みんなで集まる機会を作ろう」という声は多くの部署で上がります。頻度はチームによって大きく異なりますが、対面することが効果的な業務というのは、やはりゼロではありません。ですが、そのたまにしかない出社日のために、居住地を制限してしまうのは当社としては望ましくないと考えました。
社員は27都道府県に分散
それほど、東京の通勤圏外に住みたいという社員の方が多いのでしょうか。
多いと思います。事業内容からして地域との関わり方が密ですし、みな地域共創という理念に共感をもって入社してきます。当社の社員は名刺に出身地を印刷しているのですが、そのあたりにも姿勢が表れていると思いますね。市区町村の「観光大使」に就任しているメンバーもいますし、事業で関わった地域に移住する者もいます。 ご参考までにお伝えすると、47都道府県のうち社員が居住する地域は27に上り、北海道や沖縄にもいます。割合でみれば一都三県に8割の社員がいて、集中してはいますが、東京にしか自社の拠点がないIT企業と考えると、かなり分散していると考えられるのではないでしょうか。今回の制度変更と社員のライフステージの変化などによって、分散具合は変わってくると思います。
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IT系エンジニアなど、一部の職種で人手不足感が強まっています。今回の制度設計には、従業員の確保という狙いもあるのでしょうか。
制度設計の狙いや趣旨は先ほどお話しした通りです。ただ副次的なものとしては、そうした面もあると思います。 居住地に関係なく働いてもらえれば、地方での採用機会も大きくなりますし、あとはやはり配偶者の転勤や親の介護などに対応がしやすくなります。実際、採用時は鹿児島県に居住していた社員が、その後家庭の事情により大阪府に移住したというケースも出ています。当社は平均年齢が38歳と子育て世代が多いので、子育て環境を求めての移住などに対応できるのも大きいかと思います。
自立的に動ける人財を
地域密着型のビジネスをされているからこそ、会社としてもっと「各地に居住する社員を増やそう」という考え方はあるのでしょうか。
いえ、結果的に今より分散が進む可能性はあると思っていますが、社としては社員に「選択肢を提供している」だけに過ぎません。当社はそもそも人財開発の主要テーマとして「自立的に動ける」ことを掲げており、「会社のこの考えや方針に合わせてください」と明示するのはそうしたスタンスからも外れると思っています。
2024年1月、本社拠点をそれまでのシェアオフィスから占有型のオフィスに移しました。フルリモートは継続するなかで、こちらの狙いはなんでしょう。
きっかけとしては、社員数が増えてきて以前のシェアオフィスでは対応しにくくなったことが大きいです。ただ移転するにあたって、これから構えるオフィスに求める機能は何かということは検討しました。当社としては、それはやはり「交流機能」だろうと。だからこそフリースペースを多くしたり、歓迎会などの懇親会に活用できるカフェスペースも用意したりしています。 オフィスですので、「自宅では集中して業務ができない」といった社員のニーズに応えられるような設備というのはベースです。ただ「みんなが出社しているのにオンラインで会議をしている」といったことでは意味がないので、対面で交流する価値が発揮される空間を備えるということを重視しています。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
写真:竹井 俊晴 掲載日:2024年5月23日