野村総合研究所(コンサル職)の選考を解剖 自ら「コンサルとしての活躍イメージ」を語れるかが大事

「あの会社はどんな採用選考をしているのか」。企業の選考設計には、当該企業への応募を検討している方はもちろん、異業種や異職種の方にも参考になるヒントがたくさん詰まっています。企業の採用を「解剖」し、内定への道筋を探るためのシリーズ企画第1弾は、野村総合研究所(経営コンサルティング職種)。採用に関わるお二人に伺いました。 ※インタビューの内容は2023年11月時点のもので、選考フローなどは変更される可能性があります。

宮脇 陽子

(みやわき ようこ)

コンサルティング人材開発室長。2023年から現職。

佐藤 則子

(さとう のりこ)

コンサルティング人材開発室グループマネージャー。2021年から現職。

スカウトを受け取った方も選考に差はない

まず、中途採用の標準的な選考フローを教えてください。

佐藤(敬称略、以下同じ) 応募いただいたらまず書類および適性検査による審査をし、その後採用担当による1次面接があります。そちらでコンサルタントとしての基本的な適性の見極めと、ご本人の希望と専門性を考慮したうえで、候補となる担当領域を検討します。 そのあとは原則的には現場面接を受けていただきます。この段階の面接は配属候補部署の管理職が担いますが、ここでの面接は1回とは限りません。それを通過すると役員・人事部との面接となります。

人材紹介会社からの紹介や直接応募、スカウトからの応募などさまざまな経路があると思いますが、選考に差はありますか。

宮脇 応募いただいた後は、どの経路からの応募であっても原則として選考のフローや基準に差はありません。スカウトの場合、職務経歴書を拝見し、当社としてぜひ応募いただきたいと思った候補者、という位置づけです。この場合、候補者の方は当社を志望しているとは限らないので、選考要素を含まないカジュアル面談で当社の事業や業務内容をご説明するとともに、職務経歴書から当社が感じた候補者に対する期待をお伝えし、応募いただけるよう促しています。ご本人の応募前に当社からお声がけする点は、他の経路とは違う特徴ではありますが、選考に入ったら他の経路と比べた優遇などはありません。

それぞれの選考段階を、どのくらいの方が通過されるのでしょうか。

佐藤 選考段階ごとの通過率はお答えできませんが、最終的にオファーをお出しするのは応募いただいた方のうち数%です。また早い段階ほど通過率は厳しくなります。つまり最初の書類選考や1次面接でお見送りする方が大半、ということになります。当社で働きたいという意欲がある方には、ぜひ職務経歴書を詳細に記載いただきたいですし、最初の選考にも準備して臨んでいただきたいですね。

スカウトを送っていても、書類で落ちる可能性もあるということですね。

宮脇 こちらからお声がけしているところ心苦しい部分はありますが、実際にはその可能性はゼロではありません。ただ、スカウトをお送りする時点でスカウトサービスに登録している職務経歴書などには、お一人お一人きちんと目を通していることもあり、落ちてしまう数はかなり少ないです。一方、適性試験で落ちてしまうケースは通常と変わらずあるので、ご注意いただけるとよいと思います。

求めるのは「自分で貢献できる領域を見つけられる人」

1次面接では主に候補者のどんな部分を見るのでしょう。

宮脇 冒頭で申し上げた通り、1次面接通過後に各分野の管理職による面接や論述などの試験がありますので、専門性の判断はそちらにゆだねることになります。1次の段階では、どの分野を担当することになったとしてもコンサルタントに求められる基本的な能力や、人柄などを見ます。 コンサルタントは、難しいことでも分かりやすく言語化して伝えることが求められます。「分かりやすく」という中には、「ロジカルシンキング」だけでなく、「相手の思考回路や価値観に合わせて伝える」といった「コミュニケーション」の力が必要です。また、新しい価値を探求できる知的好奇心の強さや、すぐには解決できない複雑な課題に取り組み続けられる粘り強さやストレス耐性なども重視しているポイントです。

そうした能力を見極めるために意識している質問項目などはありますか。

佐藤 必ずこれを聞く、という質問は設けていません。志望動機やご経歴を伺う中で、多くは判断できると感じています。その中で「足りないな」と感じた場合に、質問をして確かめにいくイメージです。 例えば、粘り強さやストレス耐性について確かめたいと思ったら、「これまでの業務で一番苦しかったこと」について聞くといったことですかね。

全員に対する共通項というのは難しいかもしれませんが、1次を通過する方とされない方で「ここが違う」というポイントはあるのでしょうか。

宮脇 選考で見極めることというのは、根源的には「入社後に活躍してもらえそうか」ということだと思うんです。その観点で言うと、当社のコンサルタント職というのはご自身で価値貢献できる領域を見つけ、自分で仕事を勝ち取れるような方でないと務まりません。ですので、選考でも「自分はこうした経験があるから、コンサルタントとしてこんなふうに仕事ができると思っている」というイメージを、根拠をもって語っていただけるかが非常に重要だと思っています。何か用意された職務があって、そこにスポッとはまることを想定していらっしゃるような方だと、難しいなと感じます。

そうすると、コンサルタント未経験者や、御社からのスカウトでそもそも職種に関心が薄かった方などはかなり難しくなりますか。

宮脇 コンサルタント未経験者は大歓迎です。特定分野で事業の実務に携わってこられた方の経験は大変貴重で、コンサルタントとして大いに役立てられるものも多いです。 コンサルタントの経験があるかないかより、応募にあたってご自身でも仕事について調べイメージを膨らませていただけているかが重要な気がします。こちらからのスカウトを受けた当初はコンサルタントに関心が薄かった方であっても、応募を決めるのはご自身なので、応募された段階では最低限そうしたことは求めたいというのが正直な思いです。インターネットで検索すれば当社のコンサルタントが執筆しているレポートなどは簡単に見つけられますので、コンサルタントがどのような企業の経営課題や社会課題について、どのようにアプローチしていく職種なのか、ある程度は想像いただけると思います。先ほど「ロジカルシンキング」などが重要とお話ししましたが、その手前で、興味を持ったことや必要なことを自分で調べる行動力や自律性はコンサルタントとして持つべき素養として必須です。 佐藤 実は、社会人3年目までを対象とする「若手採用」では「志望動機」の記載を必須でお願いしておりますが、それ以外の方にはこれがありません。当社としては、一定の社会人経験がある方にはご自身で考えて記入いただきたいとの思いがあり、あえてこちらからはお願いしていません。

記載を必須でお願いするといった「ヒント」なく、書類や1次面接で「コンサルタントとして自分が活躍するイメージ」を自分から発せる方というのはどれくらいいますか。

佐藤 率直に申し上げて、それほどいらっしゃらないです。ただ、例えばこちらから「ご自身の経験を当社でどう生かせるとお考えですか」などと水を向けると、その場で考えながらでもきちんとお話しいただける方は少なくありません。 また、口頭ではなかなかうまくお話しいただけなくても、書類の記載が非常に分かりやすく魅力的で、こちらから質問しながら一緒にイメージを作るようなこともあります。 選考ではありますが、何か一つ短所があるからといって優秀な方を採用しないのは、当社としても損失です。選考では「ここがダメだから不合格」というのではなく、できるだけその方の強みを見つけて当社での可能性を探るよう心がけています。

世の変化に自ら対応していってほしい

1次通過後の選考はどのようになっているのでしょうか。

佐藤 1次で伺ったご本人のご経験とご希望と、こちらの考えを合わせて部長やマネージャークラスとの面接を設定します。面接を複数回お願いすることがありますが、これはネガティブなことではなく、「可能性がある領域が複数あるので」というケースがほとんどです。 また、この段階で論述試験やコーディングの試験を受けていただきます。コンサルティング業界の採用試験というと「フェルミ推定」のような課題のイメージがある方もいると思いますが、そうした要素は一部であり、選考においてそこまで大きなウエートを占めるものではありません。

他のコンサルティング企業と比べ、御社の採用の特徴はありますか。

宮脇 一般論としてですが外資系企業の影響力が大きいこともあり、コンサルティング業界では数年間の在籍で転職を繰り返すような方も少なくありません。そうした業界にあっては、当社は比較的、入社される方に長く働いていただきたいと考える会社だと思っています。 社内でのチームワークやコミュニケーションも重視しており、あまりにご自身の業績を上げることに関心が集中していると思われる方は難しいと判断します。そもそも、1人のスキルで完結できるような仕事を当社はしていません。 逆に一緒に仕事をするチームへの貢献、業務を通じた社会への貢献などに意識がある方は相性がいいと感じますね。互いにリスペクトし、組織として向かう方向に対してリーダーシップを発揮していただける方を求めています。

これから御社の採用選考を受けようと考える方にメッセージはありますか。

宮脇 先ほども申し上げた「自分で貢献できる領域を見つけられる方」にぜひ応募いただきたいのと、もう一つ、業務に関する知識や手法をアップデートしていける意識も重視しています。正直に言って、過去は何か一つの業務経験で長くコンサルタントをするということも可能だったと思いますが、産業界の変化が速くなり、ある一つの知見が陳腐化するのも早まっています。長く働いていただくためにも、変化にアンテナを張り、自ら対応していけるかを重視しています。 佐藤 重なりますが、会社としても多様性が重要だと考えています。 さまざまな業界から経験を持った方に来ていただき、外部の知見を取り入れていかないと井の中の蛙(かわず)になってしまうという意識があります。先ほど触れた「通過率」を聞くとハードルが高く感じられるかもしれませんが、さまざまな方に活躍いただける土壌はあると思っています。採用担当として、候補者の方の強みを見つけようと心がけてはいるものの、こちらから引き出せることにも限界はあります。書類の記載も含め、選考ではぜひどのような可能性があるかご自身でも考えていただき、われわれにぶつけてもらいたいと思います。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

写真:竹井 俊晴 掲載日:2024年1月12日