大手総合商社からの転職先はまさかのTBS
TBSテレビに転職して3カ月ほどですが、環境が変わっていかがでしょうか。
楽しいです! 私が今所属している部署はキャリア採用での入社者が多く、私のような商社出身、銀行やメーカー出身など、多種多様なバックグラウンドを持った人たちが集まって、自由に意見を言い合う環境です。その自由な社風はメディア企業ならではでないかなと感じています。
前職は大手総合商社、転職先はTBSとまったく違う業種ですが、どんな経緯で転職されたのでしょうか。
採用はTBSテレビなのですが、入社と同時にTBSホールディングスに出向し「事業投資戦略局」という部署に所属しています。 放送と親和性の高い企業へのM&Aや、自社で運営しているコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を通じてのベンチャー投資などを多角的に行う部署なのですが、中でもライフスタイル分野では関連子会社に小売業を営む会社を保有し、放送の枠にとらわれない事業展開が魅力です。私は商社のトレード(貿易)業務で主にモノの売り買いに関わってきましたが、M&A戦略やCVCにも興味がありました。
転職サイトを通じてTBSから転職のオファーがきたとき、「なぜ放送局が私に?」と戸惑ったのは確かです。でも最初の面談で「放送事業だけじゃないんです」と説明を受けました。そのときにライフスタイル、教育、エンターテインメントと連携したまちづくりなど、非常に幅広い事業を手掛けていることを知りました。私がチャレンジしてみたいジャンルがあふれていて、それを魅力に感じて転職を決めました。
商社を離れようと思った理由はありましたか。
私は入社時点から繊維部門への配属が決まっていて、ずっと繊維畑を歩んできました。スポーツウエアのOEM(相手先ブランドでの生産)ビジネスを担当したり、海外ブランドの日本での販路拡大に注力したりと、とても充実した12年間を過ごしました。社内外で人脈も築くことができ、仕事自体はとてもやりやすい環境になっていたと自分でも思います。 しかし、このまま繊維業界の中にとどまってしまっていいのか、疑問を感じるようにもなりました。きっかけはコロナですね。ちょうど2人目の子供の育休中にコロナ禍になったのですが、世界の状況や人々の価値観が変わっていくなかで、自分の今後について深く考え、自分と向き合う機会になりました。そこから、自分に何ができるのかをもっと模索してみたいという思いが強くなりました。
TBSからのメールを2週間放置
転職活動はどのように進められたのですか。
育休中にまずは2社くらいの転職サイトに登録しました。でも育児で慌ただしくしていたので、本格的に利用し始めたのは2021年春に職場復帰してからです。 「まずはゼロベースで、自分の需要がどこにあるのか知りたい」という好奇心があったため、希望の業種や職種を絞り込まずに利用していました。何社かオファーをもらいましたが、これまでの業務と関連の深いアパレルメーカーや専門商社のような企業がほとんどでした。仕事の内容や関わる業界が同じなら、新しい可能性を知りたいという希望はかなえられません。なので「それなら、このまま今の勤務先で頑張ろう」と一度は思っていました。 そんなときに届いたのが、TBSからのスカウトでした。
新しい可能性を求めていた橋本さんからすれば、「待ちに待ったオファー」だったでしょうね。
それが、あまりに想定外だったので「なぜTBS? 何かの間違いでは?」と思って、なんとそのメールを2週間くらい放置してしまったんです。
その間に2回くらいリマインドメールもあったと思うのですが、遅まきながら開いて内容を見てみると「事業投資戦略局」という部署での求人でした。そこでようやく「テレビ局が事業投資ってどういうことだろう」と興味が湧きました。それで慌てて「一度お話を聞かせてください」というメールを送ってみました。
すると「すぐにキャリア採用の選考フローが始まります。エントリーしてもらうために、事前の面談をしましょう!」と言われて急きょオンラインで面談をすることになりました。でもそのときの30分の面談が、非常に心に響くもので。先ほどお話しした放送以外の事業の話や今後の可能性を熱く語られ、純粋にワクワクしてしまったんです。「自分のキャリアや知見を広い世界で生かしたいという私の希望に近い場所なのでは」と思いました。
内定後に、前職での「希望の異動」が内示
そこから採用までは、どのような流れでしたか。
エントリーするために、履歴書や職務経歴書などの書類を正式に提出したのが7月末だったと思います。その後、8月の初めに、事業投資戦略部での面接のために、初めてTBSに行きました。その後は何度かの面接と、Webテストや専門知識を問う課題レポートの提出があり、最終的に内定が出たのが9月に入ってからです。 内定から承諾の返答までにTBSから1週間の猶予をもらったのですが、その間に、たまたま当時の勤務先から自分が希望する部署への異動が内示され、そのタイミングに非常に驚いたことを覚えています。もともと自分が希望していた異動先でしたから、異動をかなえてくれた上司には非常に言いづらかったのですが、最後は思い切って退職の意を伝えました。
育児だけを優先せず、自分も輝くキャリアを選ぶ
上司の方を含め、周囲の反応はいかがでしたか。
異動の内示のときに、私があまり喜ばなかったので変だとは思ってくださっていたようです。退職すると告げたときも家庭に入ると思われたようで、「実は転職する」と伝えたら驚いていらっしゃいました。私のために異動の話をまとめてくれていたでしょうし、思うところはあったのでしょうが、すでに内定承諾していたこともあり、受け入れてくださいました。 さらに驚かれたのは、転職先がTBSということでした。直接の上司だけでなく社内の人たちに「どうしてテレビ局なの?」と聞かれました。あまりに業界が違い過ぎたからでしょうね。私は「なぜテレビ局なのか」を説明して回ったという感じです。「この会社を辞めるなんてもったいない!」という反応ももちろんありましたが、最終的にはあたたかく送り出していただけたと思っています。 うれしかったのは、女性の後輩の一人が「有美さんのように転職するというのも、選択肢の一つだと思う」と言ってくれたことですね。もちろん社内には、仕事も家庭もという形で頑張っている女性がたくさんいましたが、「辞めないで頑張っている先輩も、辞めて自分らしく生きる先輩も、同じように模範として見る」と言ってくれました。
まったく異業種への転職になりましたが、前職での仕事で培ったことが、新しい会社で生かせたシーンはありましたか。
放送は当初は考えてもいない業界だったので苦労するだろうなと思っていましたが、自分の経験が生きる場面って、思いがけないところであるんだと思っています。
例えば私は前職で、海外のアパレルブランドを国内で展開するライセンスビジネスの経験を積んだのですが、グループで保有するキャラクター(IP)を、物販を含めてどう裾野に拡大していくかを検討するという点では生かせる知見があります。 また商社では国内外を問わず、ゼロベースで事業をどう構築し展開していくかということを皆が日々考えていましたので、TBSの持つ多様な経営資源を最大限生かした仕組みを考え実行するという部分で、これまでのノウハウを生かしていけるのではと思っています。
子育て中の転職となりましたが、待遇、ワーク・ライフ・バランス、仕事のやりがいなど、一番優先したいと考えたものは何でしょうか。
娘が2人いるので、育児と両立できる環境は大前提として求めたことです。ただし、それは前職でもできたことなので、転職で一番重視したのは自分がのびのびと前向きにキャリアを築いていけるかという点でした。子供と長時間離れてまで仕事に行くわけですから、「毎日楽しそうに仕事に行っている母親の姿を見せたい」と思ったんですよね。 今の職場では手続きを踏めば在宅勤務も可能です。今はまだまだ日が浅いので周囲と対面でコミュニケーションを取ったほうがきちんと仕事を進めていけると思い、できるだけ出勤していますが、フレキシブルな勤務形態は子育てとの両立を考えると非常にありがたく思っています。 娘たちが大きくなるころには、女性が働くことはもっと当たり前になっているでしょう。自分自身が母として、そのロールモデルになりたいという気持ちがありますね。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:渡辺 園美 写真:横濱 勝博