「私『出戻り』入社しました」 働く会社は「自分の都合で選ぶ」というキャリア観

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一度は離職したWeb系の外資企業に、再入社した青森健治さん(仮名)。その間に別の2社で働いた結果、経営理念を重視する古巣の良さに気づいて「出戻り」を決意したといいます。「その時の自分の都合に合わせて、働く会社は選んでいい」というキャリア観が育まれた背景を伺いました。

青森 健治(仮名)

2018年、一度は離職したWeb系の外資企業に再入社。新卒では日系の大手自動車メーカーに入社するも、社風が合わず退職。その後、現在のWeb系企業、電気自動車の米テスラの日本法人、製菓会社を経て、2社目のWeb系企業に再入社。米国の私大を卒業。埼玉県出身、41歳。

前職で気づいた「ミッション」の大事さ

4回目の転職で、2社目に勤めた外資系のWeb系企業に再入社されました。どのような経緯だったのでしょうか。

前職の製菓系のベンチャー企業には1年半ほど勤めていたのですが、その間に会社の経営体制が変わりました。簡単にいうとファンドに買収され、創業経営者が実質的に経営から離れることになったんです。元々、経営者の姿勢に共感して入社していたこともあって、彼がいなくなった翌日はまさに社内から魂が抜けたような印象を受けました。 その経験を受けて、会社にとって軸となる考え方や理念がいかに重要か痛感しました。創業者が去った後、よりどころとなるような「ミッション」を作るべく努力もしたのですが、なかなか思うようにはいかず。「どんなにプロダクトが良くても経営体制が揺れるとこうなってしまうのか」と身に染みました。

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そこで、転職先は「ミッションが社内にしっかりと浸透していて、一定程度経営に安定性があること」を軸に検討したんです。すると、前に働いていたWeb系企業がその条件にピタリと当てはまることに気づきました。

元社員の再入社を促進する仕組みがあるのですか。

いえ、元社員だからと特に優遇されるようなことはなく、通常の中途採用の選考を受けました。ただ私は1度目の在籍時に採用業務も経験していましたので、面接の雰囲気や、想定される質問についてはある程度わかっていました。以前勤めていたときの実績なども会社は把握できたでしょうから、未経験の方に比べれば実質的なハードルは低かったとは思います。

「創業期メンバー」への憧れ

前回、今の会社を離職した背景を教えてください。

1度目は2011年に入社したのですが、当時はまだ日本に進出して日が浅く、社員数もそれほど多くないときでした。その後会社は急拡大をしたのですが、日本での「立ち上げメンバー」を第1期とすると、私はちょうど第2期の初めあたりに入社した形になります。 仕事は非常にやりがいがあり、規模が本格的に拡大する前から関われていたことに誇りも感じていたのですが、同時に、本当の草創期を知っている第1期メンバーへの憧れや羨望の思いも強くなっていきました。 「自分もそんな経験をしたい」と思い、もっと創設から間がなく成長可能性の高そうな企業で働こうと思いました。そこで2016年に移ったのが、電気自動車の米テスラの日本法人でした。

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テスラといえば世界的にも急成長を遂げた企業です。それ以上ないほど目的にかなった転職先に思えますが、当時はどんな状況だったのでしょうか。

従業員は100人に満たず、私が担当したバックオフィス系の業務に携わる社員はわずかしかいませんでした。まさにこれから日本での販売を拡大していこうというときで、確かにタイミングとしては目的に沿っていました。 しかし、草創期にはやはりそれなりに大きな苦労があることもわかりました。米国本社の創業者であるイーロン・マスク氏は「自動車ビジネスはディーラーに利益を吸い取られ過ぎている」として、徹底して直販、効率的な納車にこだわっていました。 他方、当時でいうと車両価格は1,000万円を超えるような高額です。ありがたいことに環境意識や所得の高い層からの強い支持をいただいていましたが、そうした方のなかには内装などのカスタムにもこだわる方が多くいます。「1,000万円以上出すのだから、細部に要望するのは当然だろう」というのは、もっともだと思いますが、カスタムに対応しようとすればするほど、マスク氏の「効率的な納車」を実現するのは難しくなります。ここが非常に大きなジレンマでしたね。 私は販売部門の管理職でしたので、そうした矛盾に向き合う部下を多く抱えていました。今思えば、チーム全体でそれを乗り越えるやり方を見つけることがイノベーションだったのかもしれません。私自身はとても仕事にやりがいを感じ、面白いと思っていたのですが、少人数で持続的にお客様に喜ばれる販売をしていくことが難しく、結果として1年半で退職しました。

「入ってみなきゃわからない」

テスラ、製菓会社と2社を経験するなかで、企業選びの考え方に変化はありましたか。

明確に思うようになったのは、外からいくら調べても会社のことは「入ってみなきゃわからない」ということですね。2社ともに、重視していたことに合う会社に入れたので転職自体に後悔は全くありませんが、実際に入って予想していなかった課題に直面したことも事実です。 もう一つは、「望ましい就職先」というものが個人のライフステージなどによっても変わるということです。私が「出戻り」で今の会社に入った理由には、ちょうど子供が産まれたタイミングだったため、入社後のストレスが緩和できること、不安が少ないこともありました。

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そういう意味でもともといた会社というのは、納得して働いていたのであれば、転職先として自然と候補に入ってきますよね。例えば何度か転勤した人が、「もう一度住みたい」と思った場所に住み着くようなものです。それも「子育てしているときはここ」「仕事を優先したいときはここ」という考え方で、自分の状況に合わせて行き先を選べるとしたら、個人にとって好ましい状況といえるのではないでしょうか。

「倍返しするくらいなら、辞めればいい」

終身雇用が根付いていたとされる日本の企業社会からすると、自由なお考えですね。

米国の大学を出ているので、影響されている部分があるかもしれません。最初に就職した日本の大手自動車メーカーでは、管理職が管理しやすいように行動することが求められているようで、性に合わない部分がありました。 余談ですが、すごくはやった「半沢直樹」というドラマがあったでしょう? 実は私はあれに共感できなくて、「倍返ししないといけない上司がいる会社なら、辞めればいい」って思っちゃうんです。お話として面白いのはわかるんですけどね。

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「今いる会社以外でも働ける」。その選択肢を意識できることが大事だと思うんですよ。今はすぐに転職するつもりはありませんが、転職サイトの利用はずっと続けています。自分はどちらかといえば向こうみずで、可能性を見てリスクを見ないほうだとは自覚しています。でも何度か転職したことで、「働く場所を選ぶ」という感覚を持てました。自分は会社に従属する存在ではなく、対等でいいんだと思えるようになって、ずいぶん生きやすくなったような気がします。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

写真:的野 弘路 掲載日:2022年8月26日