最初の配属で感じた「つまずき」 解消手段として選んだ転職

日本を代表する大手電機メーカーに技術者として入社し、関西圏で働いていた堀川達郎さん(仮名)。20代にしてマネジメントの役割を期待されるなか、30歳を前にして、最初の配属から引きずっていた「つまずき」、技術者としての軸がないという問題意識を解消するために転職を決意しました。どのように転職活動を進めたのかなどを伺いました。

堀川 達郎(仮名)

2017年4月に新卒で大手電機メーカーに入社。初の転職は2022年5月に大手農機メーカーへ。関西の私大理工学部を卒業。滋賀県出身。29歳。

新人時代に感じた「つまずき」

前職での仕事内容を簡単に教えてください。

新卒で大手電機メーカーに入社しました。大学の専攻はロボティクスで、製品を「賢く動かしたい」という思いがあり、前職を選びました。「AI(人工知能)エンジニア」として入社しましたが、最初はAIとあまり関係のない専門外の知識を必要とする部署に配属され、システムエンジニア(SE)として働いていました。 最初の配属は、どうも社内的な争いも影響していたようで、責任をもって育成する雰囲気を感じませんでした。専門外の部分の職務でもあり、知らないことが多いわけですが、先輩に聞いても「なんでこんなことも知らないんだ」という冷たい対応をされた印象でした。AIなど本来自分が身に付けたいスキルや経験は得られず、「つまずいた」と感じました。転職するまでその「つまずき」という感覚を引きずっていました。

不本意な所属から抜け出すためになにか行動したのでしょうか。

当時、2年目くらいで転職活動をしました。でも、その際ヘッドハンターから「若いし、まだ2年目であれば、もう少し社内でチャンスをうかがってみては」とアドバイスされましたね。 気持ちを切り替えて、会社で何かできることはないかと目線を変えたタイミングで、住宅設備関係の研究開発の担当に異動となりました。2部署目で、データアナリストのような、希望と近い仕事となりました。照明と人のパフォーマンスの相関関係を分析するなど、製品やサービスを「賢く動かす」ための前段階のデータ収集のような仕事で、スキルを磨くこともでき、しばらく続けようと思える配属でした。

「技術で周回遅れ」を取り戻そうと転職活動

それでも転職を検討したのはどのような理由からでしょうか。

いくつかありましたが、最大の理由は「技術的な軸がない」と気づいたことに尽きます。2020年ごろから、私は、部署の若手のリーダー、マネジメント的な仕事を任されました。45歳以上の年配層と、20代の若手層に二極化する部署で、私は5〜7人を率いるリーダーとして予算やプロジェクトの管理も担当していました。しかし、最初のつまずきもあり、部下から技術的な助言をもとめられても、答えに窮する場面が出てきて心苦しく感じることもあったのが実情です。 また、技術者として活躍している社内外の同期と話をしていても、基礎部分の地力で「周回遅れ」になっているように感じていました。次第に、このまま現状に甘えず、技術をしっかり習得したいという思いが強くなってきました。そのため、実務で経験を積んで技術面での軸をつくることのできる職場を探すために、転職活動をすることにしました。

「非テンプレのメッセージ」に感じた魅力

転職はどのようなスタンスでしたか。必ず転職すると決めていたのか、良いところがあれば転職しようと考えていたのか、どちらでしたか。

後者です。関西圏でも、ハイクラス転職をうたう求人データベースのテレビCMが流れていて、2021年の終わりごろに試しに登録してみました。登録後の2、3日は、企業、ヘッドハンター合わせて、1日20〜30通くらいメッセージが来ましたし、その後も多くのメッセージがきました。

多くのメッセージに対して、どのように対応したのでしょうか。

そもそも、技術力を重視していたので、AI、機械学習関連の技術を使って、何かを制御したり、物を動かしたりするような仕事に当てはまりそうな求人を探しました。 そのうえで、基本的にヘッドハンター経由で応募するつもりでしたので、多くのメッセージに目を通して、「テンプレっぽくない」魅力的なメッセージを探していきました。具体的にいうと、経歴だけでなく職種を踏まえて、「システム開発やデータ分析をしていて、特にデータ分析をご希望であれば、〇〇のような求人がありますが、どうでしょう」と書いてあると魅力的に感じました。また、在籍企業と求人企業の比較情報を書いてくれているメッセージもあり、良い印象を受けたことを覚えています。

最終的に何人のヘッドハンターに求人を紹介してもらったのでしょうか。

サービスが情報提供しているヘッドハンターのランクも参考にしながら、最終的に2人のヘッドハンターに絞り込みました。2人とも最初のメッセージが良かっただけでなく、提示する求人が全く別のものだったので、「使い分けできるかな」と考えました。最終的に7〜8社にエントリーし、5社で面接に進み、3社から内定をもらいました。

入社の決め手は「自分をよく見てくれた」から

どんな会社から内定をもらったのでしょうか。

現在勤めている機械メーカーを含め、3社ともメーカーでした。どの会社も待遇は前職と同じ水準で、勤務地も関西圏のままでした。

3社のなかから現在の会社を選んだ基準は何でしたか。

現在の会社がよかったのは、オープンポジションの人事による1次面接が終わった後で、もともと予定になかった部署との面接を提案してくれた点です。学生時代にドローンのプログラミングの経験があることから、ドローンを使った技術開発を検討している部署を紹介してもらいました。結果的に、1次面接を2回やったことになりますが、自分の経歴ややりたいことをよく見て、そのうえで良い形を考えてもらえているなと思いました。 最終面接で出てきた統括部長の話も、「賢く物を動かしたい」という転職軸に一番合致していると感じました。事業領域も、就農人口が少なくなり効率化の進展が急務である農業分野で、自動化の推進も含めて、事業に社会的な意義が感じられるのも一つのポイントでした。

他の2社はいかがだったでしょうか。

迷ったもう1社もロボットに力を入れており、研究系の業務内容も魅力的でしたが、選考過程がオンライン面接1回のみでした。本来であれば、実際に会社を訪問して、現場を見る予定だったのですが、コロナ禍の影響でオンライン面接に切り替わってしまいました。「スピーディーでよい」ともいえるかもしれませんが、1回の選考で、しかもオンラインのみで内定となってしまうのは、率直に不安がありました。実際に現地に行っていれば、入社する会社が変わっていたかもしれませんが、これも運命でしょうか。

「技術者として一流」以外の道筋も

入社して半年以上がたちました。どんな仕事をしていますか。また「技術力の周回遅れ」「最初のつまずき」は取り返せていますか。

技術職としてドローンの制御に取り組んでいます。自分自身がこれまでに培ってきた経験やノウハウが、今の部署で活用できている感じがしています。 また、自分自身で手を動かして、技術と向き合って仕事ができていますし、新しい知識やノウハウについても外部と仕事で連携しながら吸収しています。 上司も、技術力を高めることに集中できるように配慮してくれていますので、技術の向上と新しいチャレンジの積み重ねで、「周回遅れ」を少しずつ取り戻していっていると感じています。

望んでいた仕事を通じて、今後は技術を究めていきたいと考えているのでしょうか。

そうですね。しばらくは最新の技術と向き合いながら、自分がどこまでやっていけるかを見極めたいと思います。 ただ、長いスパンでは、技術者だけでなく、周囲をサポートするようなポジションも視野に入れています。学生時代の塾講師のバイトでは、どちらかというと学校の授業についていけず、「数学には意味がない」なんて言っているような子を指導していました。身近な例をあげながら、どのように数学や論理的な考え方が社会に役立てられるかをわかりやすく伝えられてうまくいったと自負しています。 なので、技術者として一流になっていく方向より、自分の経験を生かして誰かをサポートし、全体を円滑にするような役割が性に合っていると感じようになる可能性があると思います。とはいえ、いまは技術的なこととしっかり向き合える環境なので、全力で取り組み、しかるべき時が来たら、自分が技術者としてやっていくのか、周りをサポートするほうに回るのかを考えていきたいです。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

写真:高見 尊裕 掲載日:2023年1月30日