経営層を目指して進めた転職活動 「1兆円あっても仕事を続けたい」

約12年で4社を経験し、2022年9月からクラウドファンディングなどを事業領域とする「READYFOR」に入社し、現在CMO(最高マーケティング責任者)を務める椿遼さん。新卒の就職活動時から「仕事を選ぶ3つの軸」を確立し、それは今もなおぶれることがないという。大学院時代の専攻から今日まで、一本の筋が通るマーケティングをいかして、どのような転職をしたのかを聞きました。

椿 遼

(つばき りょう)

兵庫県出身。2010年に新卒で日本コカ・コーラに入社し、販促企画や新製品開発などを担当。その後、2015年にレッドブル・ジャパンに転職。ブランドマーケティング責任者として、中期的なブランド戦略から店頭プロモーションまでを幅広く統括。2018年に転職し、豪州のデジタル広告代理店の日本法人立ち上げに従事。その後atama plusを経て2022年9月にREADYFORへ入社。現在は執行役員CMOとして同社のブランド、マーケティング戦略を経営メンバーの一角として推進。

経営レイヤーでマーケティングを

これまでの職歴を教えてください。

2010年に、新卒で日本コカ・コーラに入社し、ブランドマネージャーなどを担当しました。その後、別の飲料企業を経て、外資広告代理店の日本オフィスの立ち上げをカントリーマネージャーとして担当した後、2020年から教育系のスタートアップ企業で働き、2022年9月に、現在のREADYFORに入社しました。

最初の2社は飲料を扱う企業でしたが、その後は教育や金融・クラウドファンディングなどの会社です。会社の事業を選ぶ基準はあるのでしょうか。

業種は変わっていますが、実は仕事の選び方は最初から変わっていないんです。大事にしている基準は3つです。「扱っているサービスが世の中に良い影響を与えているか」「そのなかで自分が活躍できるのか」「その業務や役割を通じて自分の能力を伸ばせるか」です。 大学院1年生の夏からインターンを始めていて、仕事を探す期間が半年ぐらいありました。なので、他の就活生より自分と向き合う時間が長かったんですよ。そこで「自分のやりたいこと、その価値はなんだろう」と内省していくなかで、軸がクリアになっていきました。その結果として、本当にやりたい仕事のある会社しか受けなくなりましたね。

前職を退職した理由や経緯を教えてください。

前職では事業の「マーケティング責任者」のようなポジションでした。自分で戦略を考えて、エグゼキューション(業務遂行)まで扱う仕事です。ただ、一定の期間を経ると、事業レイヤーでのマーケティングはやり尽くした感じがして、「次は経営レイヤーでマーケティングの力を使って経営を変えていくことに取り組みたい」と考えるようになりました。費用に対するPL(損益計算書)のとらえ方は、経営レイヤーになるとより厳しくなる。一段上の目線から違う景色を見たら、さらに成長できるだろうと考えたんです。

具体的に転職活動をどうすすめたのでしょうか。

2022年の春ごろから、まずは「自分の市場価値がどれだけあるのか」を確認しようと、転職サービスのアカウント利用を再開しました。そうすると、数社からダイレクトに誘いが来ましたし、以前から交流のあったヘッドハンター経由でも何社か紹介されました。その内容を確認すると「CMO」、つまり経営層待遇の話が来るレベルになっていることが確認できました。なので、そのまま転職活動することにしました。

案件をどう絞り込んでいきましたか。

まず、プロダクトについて、「社会課題の解決になっている」と感じられない企業は応募しませんでした。あとは、今までの経験を生かしました。「マーケティングの責任者」というポジションで入社したとき、なんとなく「経営に近いのかな」と思っていたら、経営陣との距離を感じたことがあったんです。だから、ポジションは曖昧にしてはいけないと考えて、「CMO」や「執行役員」を前提としたポジションの企業を選ぼうと決めていました。

1回断ったのに「ぜひ会って」

今回の転職活動では何社応募したのでしょうか。

カジュアルな面談を受けたけれど応募しなかったのが2社、面接を受けたのは2社です。カジュアルな面談だけで終わった2社は、両方ともスタートアップで、1社は対応してくれた取締役とよい感じで話せたのですが、「オファーできるのは事業部のマーケティング課長」とのことで断りました。もう1社は、プロダクトをあまり身近に感じることができませんでした。

READYFORとはどのように出会ったのでしょうか。

あるヘッドハンターから、その転職サービスで最高位のスカウトが来たのがきっかけです。声をかけてくれた理由は「社会課題を解決するスタートアップで働いており、ブランド戦略を考えた経験もある」ということでした。でも、当時READYFORの社名を知りませんでしたし、 クラウドファンディングを身近に感じることもできなかったので、1回お断りしました。 断ったもののヘッドハンターが「経歴を紹介したら、やはりぜひ一度会って話をしたいと言っている」と言うので、「まあいいですよ」くらいの気持ちで会いました。今思えば偉そうですけど(笑)。

面談をしたのはいつですか。

転職活動を始めたのが2022年の5月で、その翌月には最初にREADYFORのカジュアルな面談を受けていました。そこで会ったCOO(最高執行責任者)から「NPOや事業会社で、長期的に社会にとって大きく良いインパクトを与える活動をしていても、短期的な投資リターンが低いと、現状の資本主義の仕組みの中ではなかなかお金が流れづらい。そこにお金を流すことをやりたい」と言われたんですね。クラウドファンディングはあくまで手段で、今後、今やっているお金の循環のエコシステムを大きくしていきたいという話を聞きました。それで、一気に印象が変わったんです。 会社が目指しているビジョンやミッションと、既存の事業がしっかりつながっていると感じましたし、競合プレーヤーも少ないなかで、先行している企業でした。いま展開している事業領域で成功できるのであれば、一人勝ちできるくらいの勝ち筋もありそうだなと思いました。あとはCOOの人柄が包摂的で、感じが良かったのも心を動かされた要因ですね。 次がCEO(最高経営責任者)との面接でした。そこでもREADYFORが抱えるブランドやマーケティングの課題などをざっくばらんにディスカッションしているうちに話が盛り上がり、「ぜひ来てほしい」と言われました。

CMOになる条件「あいまいな部分も」

展開が早いですね。

ただ、2回の面談・面接はオンラインだったので、そこで「COOとCEOのお二人と対面で会って話したい」と僕からお願いしました。

なぜでしょうか。

オンラインだけではわからないフィット感もありますし、2回とも面談・面接時間が1時間ぐらいで、「話し足りない」と感じていたのもありました。実際に会って、READYFORのブランディングについて議論することとなりました。CEOはマーケティングのバックグラウンドはありませんでしたが、ブランドのあり方、なぜ過去にブランディングがうまくいかなかったかを自分なりに考えていました。それに対して、僕は自分の経験から、原因について思い当たる節がありました。そういったやりとりのなかで、お互い「大丈夫」と確信できたということかと思います。その面接を経て、CEOから、「CMO候補」というポジションでオファーをもらいました。

入社前にCMOになるための条件は何か提示されましたか。

基本は役員間の合意を前提としていて、「問題なければなれる」という話でした。「役員候補」が「役員」になった前例を聞くと、他のCxOが候補のポストで入って4~5カ月で正式に就任したというので、そのあたりを目指せればいいんじゃないかと思いました。

CMOへの昇進は、入社タイミングでは確定ではなかったわけですよね。

たしかにあいまいな部分はありましたが、特にブランド戦略の部分は「これだけのアウトプットを出せば合格」と線を引けるような業務でもないですし、スタートアップの会社は入社後に状況が変わることもたくさんあります。厳密に確認しきれない部分は、あきらめましたね。前職の企業は中途採用のメンバーばかりの会社で、スムーズに退職でき、9月に入社して、2023年の1月にCMOになりました。

READYFOR以外の選択肢は、ありましたか。

READYFOR以外にも、もう1社面接を受けて、内定をもらいました。ただ、その会社は「会社のステージとしてCMOを入れるか悩んでいる。経営層に入れるかどうかわからないけど、それでも良ければ来てほしい」とのことでした。なので、不確実性が高いと思いお断りしました。

年収はどうなりましたか。

前々職が100だとすると、前職が60に落ちて、今は70ぐらいですね。あとは、ストックオプションがついている感じです。

銀行口座に1兆円が振り込まれても

現時点でこの先のキャリアをどう考えていますか。

正直キャリアについて、深くは考えていないんです。ある程度経験を積んできたので、何をしてでも生きていける気がしています。あとは自分が楽しめることをやろうかなと思っています。ただ、担当する業務として「マーケティング」というのは重視したいと思っています。

そもそもなぜマーケティングにこだわるのでしょうか。

大学の学部が経済・経営系で、マーケティングの専攻でした。たまたま入った学部ではありましたが、大学院にも行き、マーケティングに魅力を感じるようになりました。マーケティングは「顧客を科学する学問」であり、「マーケティング≒経営」と考えています。全てのビジネスは顧客への提供価値の上に成り立っているのですから。 新卒で入った日本コカ・コーラの面接のときにお世話になった人事担当者が最近かけてくれた言葉が印象的だったんです。「真ん中にマーケティングを据えながら社会との関わり方を模索しつつ、椿さんらしさを突き詰めている」。その言葉の通り、マーケティングという軸を使いながら、どうやって世に貢献していくかをいつも考えてきました。その生き方はずっと変わらないし、明日、銀行口座に1兆円が振り込まれていても仕事は続けると思います。やはりマーケティングという仕事でしか得られない達成感があると思っていますので。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

文:鈴木 工 写真:横濱 勝博 掲載日:2023年3月30日