マッキンゼーからVC業界へ転職 入社後1週間で訪れた想定外の事態

新卒で外資系の大手コンサルティングファーム「マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン(以下、マッキンゼー)」に入社後、3年でベンチャーキャピタル(VC)の「STRIVE」に転職した工藤真由さん。しかし、転職から半年もたたないうちに同業界のグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)に転職します。なぜ、短い期間で転職することになったのか。同業他社への転職に難しさはなかったのか。工藤さんに話を聞きました。

工藤 真由

(くどう まゆ)

慶應義塾大学経済学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンに入社。戦略コンサルタントとして、消費財・通信・金融・自動車・電子機器などの業界において国内外のクライアント業務に携わる。主な取り扱いトピックはDX、5カ年計画作成、オペレーション戦略構築・実行サポート、営業施策立案、サプライチェーンマネジメントなど。2022年10月、グロービス・キャピタル・パートナーズへ入社。27歳。

短期間でスキルを身につける場所として選んだマッキンゼー

新卒でマッキンゼーに入社されたそうですね。外資系のコンサルティング会社を選ばれた理由を教えてください。

「大学卒業後、これがやりたい」と明確に思えるものがなかったんです。ただ、自分のなかで大手企業に入社し、そこで働き続けるのは違うなと思って。それなら、まずは短い期間で多くの経験ができる会社で働こうと思い、外資系企業を中心に就職活動を始めました。 コンサルティングや金融、メーカー、ITなど一通りの外資系企業のインターンシップに応募したなかで、最も早く選考が進んだのがコンサルティング業界でした。本選考でもコンサルティング企業を中心に選考を受け、最終的にマッキンゼーに新卒入社を決めました。参加したインターンシップのプログラム自体がすごく面白かったですし、私自身の強みや弱みなども見たうえで社員の方がフィードバックをくれたんです。「ここなら短期間で成長できそう。ファーストキャリアの場所としても、すごく良さそう」と思い、それが入社の決め手となりました。

ご自身のなかで「良い」と思った会社を3年で退職されています。

もともと、私のなかで「3年」は次のキャリアを考えるタイミングとして設定していました。世間一般的にも「3年」がひとつの区切りになっていますし、それこそマッキンゼーも入社から3年でアナリストからアソシエイトに昇進するといわれています。3年働けば、コンサルタントとして「一人前」といわれる役職になるわけですが、自分のなかで「この働き方をずっと続けていくのは難しいかもしれない」という思いがありました。 コンサルタントとして働くことで、ビジネスパーソンとしての基礎体力はついたと思います。クライアント企業へのヒアリングをもとに課題を特定し、解決プランを策定して実行する。ビジネスパーソンとして、どの仕事でも求められるスキルは身に付けられました。そういう意味では、ファーストキャリアでマッキンゼーを選んだのは良かったと思っています。 その一方で、とにかく必死に働く「ハードワーク」な側面もあって。新卒からの3年間はそれで良かったのかもしれないですが、結婚や出産などのライフイベントが控えているなかで、この働き方を続けていくのは難しいかもしれない。もう少し自分で働き方や関われるものをコントロールできる環境で仕事がしたいと思い、転職を決意しました。

コンサルティング業界からVC業界へ転職した理由

転職活動は、どのように進められましたか。

次のキャリアは自分の興味・関心がある領域で働こうと思い、スタートアップを中心に転職活動を進めていました。学生時代に経済誌「Forbes JAPAN」を運営するリンクタイズでインターンをしていたこともあり、スタートアップになじみもありました。ただ、実際に転職活動でスタートアップの話を聞くなかで、会社が成長しているかどうか、社長との相性や会社全体の雰囲気と合うかどうかなど、チェックしなければいけないポイントが多すぎて、1社に決めるのは難しいなとも思いました。そんなときに転職エージェントの方から「それならVCも良いのではないか」と、複数のスタートアップ企業に出資や経営支援などを行うVCを紹介してもらったんです。

転職活動前は、VCでベンチャーキャピタリストとして一人前になるまで時間もかかるし、ハードルが高いイメージでした。ですが、話を聞いてみると、何かひとつの領域にコミットするわけではなく、さまざまな領域に触れられて、なおかついろんな人と会える。飽き性の私にも合うかもしれないと思い、そこからVC中心の転職活動に切り替えました。独立系のVCを中心に、5社ほど話を聞き、選考を受けました。

「新規ファンドの組成はない」 4カ月での同業他社への転職

いくつか選択肢があったなかで、STRIVEに入社する決め手は何だったのでしょうか。

社員にコンサルティング業界の出身者が多かったこともありますし、シリーズAラウンド(すでに一定数のユーザー顧客がいるプロトタイプの事業や製品・サービスをプロダクトローンチさせようとするスタートアップ企業が、追加開発や販路開拓のためにファイナンスを実施する段階の資金調達。シード、アーリー、ミドル、レイターの4段階のうちミドルの初期に該当)のスタートアップを中心に投資を実行していたからです。シード・アーリーステージのVCの話も聞いたのですが、私自身にはゼロイチで事業を立ち上げた経験もないですし、マッキンゼー時代にもゼロイチ段階の企業に触れる機会がなかったので、転職しても生かせる経験が少ないのではないかと思いました。それよりは、事業成長のアクセルを踏んでいくシリーズAラウンドの方が、前職で培ってきた情報整理や優先順位づけなどのスキルを通じて投資先を支援できるのではないかと思い、それが決め手になりました。 また、コンサルティング業界だけでなく、金融やITなどさまざまなバックグラウンドの人たちが集まっていることも魅力的でした。前職だと基本的に同じような考え方の人たちと働くことが多かったので、異なる考え方を持つ人が集まる環境で働きたい思いもありました。

最初のVCに転職してから4カ月で、別のVCに転職しています。

実はSTRIVEに入社してから1週間くらいたったタイミングで、会社の環境が急激に変わり新規で投資を行うことが難しくなってしまったんです。自分で投資を実行しなければ、キャピタリストとしてのキャリアを積んでいけない。新規投資ができない環境ではなく、新規投資ができる環境に身を移さなければと思いました。 ただ、既存ファンドの運用は続いていたので、「今すぐ転職しなければいけない」というわけではありませんでした。2022年6月ごろに「新規で投資しない」という話を聞いたので、私のなかでは同年の年末くらいまでに転職できていればいいか、というイメージで転職活動をスタートさせました。STRIVEに在籍していた4カ月間は、投資先の経営陣との面談やスタートアップ企業からの事業に関する相談などを受けていました。その経験を通じて、改めて自分が投資を実行できる立場になっていきたいと思いました。

キャピタリストとして「一人前」といわれるようになりたい

同業界での転職ですが、どう進めていったのでしょうか。

代表が他のVCの投資管理責任者にあたるGP(ゼネラル・パートナー)を紹介してくれたので、それをきっかけに話を聞きにいきました。また、私もスタートアップのイベントへの参加を通して業界内の知り合いも増えていたので、その人たちに連絡して、カジュアルに話す機会をつくっていました。そこから興味を持ったところは選考を進めていった感じです。

短期間での同業他社への転職となったわけですが、難しさはありませんでしたか。

代表自身が他のVCのGPに対して状況を詳しく説明してくれるなどフォローしてくれましたし、私自身も面接を受けている会社に把握している限りの状況を丁寧に伝えていました。その話をすると、同じ業界だったこともあり、すぐに背景を理解してくれました。特に難しさはなかったです。

グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)に転職した決め手は何でしたか。

GCPには5人のGPがいるのですが、全員と会ってみて初対面とは思えないほど話が盛り上がったんです。私とこの会社の相性が良いんだろうなと思いました。キャピタリストとしてキャリアをきちんと積むために長く働きたいと思っていたからこそ、人との相性は大事だと思っていて、GCPはそこがすごく良かったです。 また、VCは運営を続けていくことが簡単ではないなか、GCPは若い世代の社員育成にも向き合う仕組みをつくることで、長く続いている。そういった環境が構築できているVCは数少ないですし、私自身もまだ社会人のキャリアは浅い状態だったので、そういった環境の方がより成長していけるのではないかと思いました。そこも決め手のひとつでした。

入社して、いかがですか。

日々の時間の使い方も任されていますし、追いかける事業領域やテーマも自由なので、自分のやりたいことに向き合いながら働けています。また、今後も動き方や興味・関心を持つ領域やテーマも変わるので、飽きずに長く続けられそうだと思っています。 現在は「ソーシング」と呼ばれる新規投資先の開拓をメインに動きつつ、パートナーの新規面談にも参加させてもらい、投資するまでの意思決定のプロセスを勉強しています。そのほか、既存の投資先である4社の支援も手がけています。

今後、どのようなキャリアを目指していますか。

キャピタリストとしてのキャリアも浅く、経験もありません。まだまだ不足しているものが多いので、仕事を通して多くの知識を吸収し、早くキャピタリストとして「一人前」といわれるような存在になっていきたいです。自分で新規投資を実行するのが直近の目標ですね。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

文:新國 翔大 写真:嶺 竜一 掲載日:2023年4月17日