転職エージェント自身が別のプロに転職を相談 「入社後が想像できない」会社へ

26歳の飯島明世さん(仮名)は、2023年明けまで在籍した人材紹介会社では、多くの人の転職を支援し、転職サービスでも上位評価されるなど活躍していました。多くの人の転職活動を支える一方、転職エージェントのあり方について考えるうちに、転職することになったといいます。経緯などを聞きました。

飯島 明世(仮名)

2020年、新卒で50人規模のベンチャーに入社。人材紹介会社の担当者としてスタートアップのハイクラス人材を担当。2023年、エンジニアの転職をサポートする500人規模の企業に転職。26歳。

会社からの良い評価に感じた疑問

新卒後に人材業界に入った理由は何ですか。

両親が自営業で、小さいころから近くで働く姿を見て、「仕事は楽しいもの」というイメージがありました。なので、私は大学時代から働くことが好きで、「一生仕事し続けたい」と思っていました。飲食のバイトを週6日で楽しくこなす日々でしたが、まわりには「仕事はめんどくさい」とネガティブな感情を持つ人が多かったです。仕事に対してネガティブな人の根元には「自分のやりたいことを見つけられていない」ことがあると感じていて、そんな人の輝ける場所を見つける手伝いができる仕事がいいと思って、人材紹介に携わることを考えました。 前職を選んだのは、100人に満たない規模で、新卒でも「取りあえずお客さんのとこに行け」と打席に立たせる会社のスタイルが好きだったからです。

「Z世代」は、一般論として仕事に対して冷めているイメージがあります。

私は「働いてまわりに差をつけたい!」と常に闘志を燃やしていました(笑)。大規模な人材紹介会社だと、企業側と候補者側をわけて担当することがありますが、前職は、両方担当していました。ビジネスからコーポレートまでスタートアップのハイクラス人材を対象としていました。企業側は数十社ほど常時抱えていて、求職者も新しい候補者と毎月20人ほど会っていました。在籍2年で300人の候補者と会ったと思います。 扱うのはハイクラス人材なので企業へのインパクトも大きいし、これから世に出るベンチャー企業で花を咲かせる方への貢献もできるし、やりがいのある日々でした。最先端のスタートアップ企業に推薦した人が、1人目で決まったとき、本当にうれしかったです。

充実していたのになぜ退職となったのでしょうか。

正直やめようとは思っていませんでした。会社から「もう独り立ちできる」と評価されて、異動がありました。でも、職歴1年半で自信もないし、会社から評価されることにもギャップを感じ、まだ経験が浅いのでは、と感じていました。 転職エージェントが多く利用するプラットフォームサービスでも、一番良い評価をもらったのですが、ベテランの方とならんで自分が評価されている状態に違和感がありました。上司からは「過小評価しすぎ」と言われていましたが。 不安は漠然としたものだったかもしれませんが、自分の市場価値を知りたくなりました。同業他社とのつながりもなく、自分の仕事のやり方も客観的に見直したい。そう考え、大手人材紹介会社からベンチャー企業専門のスカウトまで4つくらい登録して、3~4人の転職エージェントと話をする機会を作ってみたんです。

転職エージェントもさまざま

プロが他のプロに会った率直な感想はどうだったのでしょうか。

人材紹介ってどうしても売り上げを追いがちで、売り上げだけ見ていたら、候補者の人生に悪い影響がある場合も、企業にとってもマイナスになることもあると思います。私としては、企業と候補者の両方の幸せを追求してヒアリングしていた結果が、売り上げにもつながっていたと思います。 ただ、話をした転職エージェントのなかには「この人、私の人生を考えていない。一つの案件として考えられている」とはっきりわかるケースがありました。ヒアリングで深掘りもされず、案件だけが大量に送られてくるんです。また、実態を知っているからかもしれませんが、注力案件を猛烈にプッシュされたこともありました。 もちろん良い体験もありました。転職エージェントであっても、ダイレクトでオファーしてくれた企業も、何度も時間を作って、私の希望を聞いて、実現のための中長期的なビジョンまで示してくれるほど寄り添ってくれる経験もありました。なので、転職エージェントもさまざまだなと感じました。

実際に選考プロセスにも進んだのですか。

はい。話をしているうちに、転職エージェントのイメージを覆したい、そのためにどうするかを考えるようになっていました。大学の友人と話していても、「話を聞くだけ聞いて案件をたくさん送ってくる人」というイメージが強いなと思っていました。私がどこかで圧倒的ナンバーワンをとって、私の信じる理想的な転職エージェントのあり方を示さないといけないと思いました。そのために、小さなベンチャー企業に所属していて自分のやりたいことができるのかという気持ちになりました。

提示された3つのポジション

何社くらい応募したのでしょうか。

2022年10月中旬にはじめた転職活動では、カジュアルな面談を含めて10社ほど応募し、内定をもらったのは合計3社です。

現職との出会いはどういったものでしたか。

活動を始めた初日に内定を得たのが現職の大手人材紹介会社です。週末に複数人が参加する大きなオンライン説明会があって、初回は全員が個別に面談するんです。 その日のうちに、2人のマネージャーと30分ずつ面談して、最後に事業部長と1時間以上話しました。 まだ、志望動機さえ準備していない状態で、自分がやりたいことを伝えただけでしたが、事業部長から「いつから来られるの」と言われました。そのときは、あまりにあっさり内定を出すので、「怪しい会社だ、絶対行かない」と思っていました(笑)。

でも、結局その会社に入社したわけですよね。

はい。その後、事業部長と何回か会いました。IT技術職の転職に強い会社ですので、「IT技術職のことを知らないんですよ」などの不安を伝えたら、「IT技術職が世界を変えるんだ」と熱っぽく話されました。 また、候補者と密にコミュニケーションをとって提案する会社数を絞り込んでいるという話もありました。その事業部長も、人材業界についてまわる「案件をたくさん紹介するだけ」というイメージを変えたいと思っていました。話をする中で、本気でIT技術職における人材紹介会社のトップを目指していると感じられました。また、会社が数百人規模で一定程度大きいのも、影響力という意味でプラスに捉えました。 12月のオファー面談では、3つのポジションを提示してもらいました。企業側の担当者と会社の人事の選択肢もあったなかで、候補者側の担当者にしました。今の仕事はIT技術職のミドル層におけるキャリアアドバイザーです。

人事に興味はありませんでしたか。

組織作りの観点から人事も面白そうだとは思いました。でも、人事が会えるのは、基本的に自分の会社に来たい人、興味のある人がほとんどです。そうすると、シビアに考えて採用しないという判断もしないといけないし、採用しなかった人に違う選択肢を提供することもできない。現時点で、自分がやりたいことではないと思いました。

残ることも一つの選択肢だった

ほかに内定先も2社あったわけですよね。

1社はHR系のSaaS企業のセールスでしたが、人材紹介がやりたかったため断りました。もう1社は人材紹介会社です。面談してくれた転職エージェントから直接、「飯島さんがやりたいことはうちの会社ならできる」と自社にスカウトされ、そのまま内定をもらいました。

待遇はいかがでしたか。

待遇面では、前職と比較すると、年収ベースで、現職は150万円アップ、もう1社が年収200万円アップでした。

もう1社のほうが年収で50万円高かったにもかかわらず、現職を選んだのはなぜですか。

もう1社の人材紹介会社は、規模でいうとベンチャー企業でした。本当に良い人が集まっているし、自分が楽しく働く姿が簡単に想像できました。とはいえ、そのような環境にいると、当時感じているような不満をまた感じてしまって、また短期間で退職する未来が浮かんだんです。

不満とは結局なんだったのでしょうか。

結局、いまの不満というのは、転職エージェントのイメージを変えたいと考えているなかで、小さな会社では、自分や周囲が変わっても、世の中のイメージを変えるまでにはいたらないのではないか、という部分でした。業界に対する影響力といえるかもしれません。

最初は「絶対行かない」と思っていた会社ですよね。

はい。転職エージェントのイメージを変えたい、ナンバーワンになりたいという自分のやり方が明確になったときに、現職以外の選択肢はなくなっていました。良い意味で「入社後の自分が想像できない」、自分がワクワクできて、成長できる環境として選んだところもあります。

退職はスムーズにいきましたか。

率直に前職に残ることも一つの選択肢でした。上司や同期が引き止めてくれましたし、ある程度裁量をわたしてくれるという話もありました。少し揺らいだのは事実ですが、結局、退職を検討した理由が「ナンバーワンになりたい」「転職エージェントのイメージを変えたい」である以上、前職に残るという選択にはなりませんでした。

誰かの居場所を作りたい

春から現職で働きはじめて、いかがですか。新しい職場での今と今後の目標を教えてください。

めちゃくちゃおもしろいです。「IT専門職の転職」という未知の領域に関わることもそうですが、会社の規模感が変わったことで環境ががらりと変わりました。面談というフェーズ1つをとっても、ヒアリングの目的が徹底されています。みんな仕事が大好きでフラットだし、いい意味でプライベートも共有できる会社です。 直近でいうと、現在の事業領域がミドル中心なので、ハイレイヤーのチームがつくりたい。あとは、企業側でも、特にベンチャー企業を担当したいです。エンジニアの母数を考えると、どうしてもSIerへの支援が多くなってしまうのですが、ベンチャー企業支援も会社のビジネスとして確立していくことに貢献したいと考えています。これは1年くらいの目標です。そして、3年後には、会社がエンジニアの転職でナンバーワンになっていて、そこに貢献できていればと思います。

具体的ですね。その先で思いえがいていることはありますか。

個人としては、まだしっかりしたイメージはないのですが、中長期的にベンチャー企業にはこだわりたいという思いもあります。また、今回は規模の大きい人材紹介会社に転職しましたが、個人としては社会に新しい変革をもたらすベンチャー企業で働きたい、という気持ちもあります。20代のうちに、ベンチャー企業で即戦力として活躍できるくらいのスキルを身につけたいです。 さらに30代、40代でかなえたい夢は、誰かの居場所を作ることです。嫌な話もできて、素でいられる場所、いわゆるスナックのようなものがイメージに近いかもしれません。居場所をつくるって、今の人材紹介の仕事ともしっかりつながっています。私の行動原理は、「自分ではなく誰かのため」だと思っています。私の原点であり頂点は、ただただ「ハッピーな人を増やしたい!」ということに尽きるんです。

最後に聞きたいのですが、現職にはどのような経緯で応募したのですか。

大量に案件を出してきた大手人材紹介会社経由です。もちろん感謝していますが、それでも案件だけ大量に出すようなやり方には疑問を感じる気持ちは変わりません。自らの仕事で高いパフォーマンスを出して、転職エージェントの担当者のイメージを変えたい。まずはそこに向かって努力したいと思います。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

写真:研壁 秀俊 掲載日:2023年5月22日