徐々に転職へ傾いていった
前職の人材業界でキャリアをスタートしたのはなぜですか。
新卒の就職活動をしているとき、社会に出てやりたいことというものが見つかりませんでした。ただ、結局「就職の時点で、やりたいことを決めきらなくていい」との結論にたどり着いたのです。なので、やりたいことを見つけるためにも、さまざまな会社や人の価値観に触れられる仕事がいいと考え、人材業界を選びました。 2018年春に人材紹介会社に入社し、金融機関の法人向け採用コンサルティングを担当しました。主な仕事はクライアントの要望をヒアリングし、求職者とのマッチングをサポートすることでした。 大学時代には、新卒採用を行う企業と大学生をつなぐ場所を運営するベンチャー企業でインターンシップの経験があり、人材のマッチングに興味があったこともあり、性に合っていました。
転職に至る経緯を教えてください。
何かの明確なきっかけがあって「辞めよう」と思ったわけでなく、徐々に転職へ傾いていった感じです。 まず、大きかったのは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響です。流行が始まった2020年は、クライアントの採用ニーズが激減したほか、在宅勤務への切り替えもあり、業績的にもモチベーション的にも厳しい時期が続きました。 「このままではいけない」と気持ちを切り替えようとしていた2021年の3月ごろ、クライアントの求人の中で目に留まったのが、ベンチャー企業支援を業務とする会社の第二新卒の募集です。「いつかはベンチャー企業に関わる仕事をしたい」との思いもあり、カジュアルな面談を受けてみることにしました。

面談はいかがでしたか。
結論から言うと、その企業の主な業務とやりたいことにギャップがあるとわかり、転職しませんでした。 ただ、採用担当者とのやりとりは、転職に向けた「キャリアの棚卸し」のようなものになりました。面談した企業は、大企業が新規事業として始めるベンチャー支援に力を入れていたのですが、自分がベンチャーに行きたいのは、支援する側としてではなく、「ベンチャー企業の中に入って、熱量を感じながら働きたい」ということなのだと気づかされました。 また、インターン時代に企業の社長らと関わった経験から、求人案件の魅力を高めるマッチングを支援する人材紹介の業務より、採用を通じて垣間見える経営判断などへの興味が強く、企業の経営に近い仕事に携わりたいという思いが自分の中にあることも認識できました。 カジュアルな面談をした企業に入りたい気持ちは残っていましたが、比較対象として別の企業を検討していない状況でした。なので、このまま転職すると、単に行き詰まった状況を打破するための「逃げの転職」になってしまいそうな不安もありました。
「逃げの転職」を回避するために、どのようなステップを踏みましたか。
見えてきた「仕事に求めるもの」をより明確にしたうえで、転職できるようにと考え、コーチングのサービスを受けることにしました。内容は週1回の面談と、毎日のチャットを通じたトレーナーのカウンセリングで、費用は40万円ぐらいでした。過去から現在までの選択、自分にとって大事なものを整理し、中長期的なキャリアのビジョンを言語化できました。 結果として「ベンチャーの事業会社で企画系の仕事をしたい」という転職の軸が浮かび上がりました。前職の延長線上に、求めるキャリアがないこともはっきりし、ポジティブな心持ちで転職する決意を固められました。
45分間逆質問し続けた面接
転職活動はどのように進めましたか。
ヘッドハンターを使いました。最初に登録した3社とは相性があまりよくなく、ほとんどがカジュアルな面談止まりでしたが、最後に登録した会社の担当者が、興味のある企業をいくつも紹介してくれ、5、6社ほどの採用試験に応募しました。
最後に登録したヘッドハンターは何が違ったのでしょうか。
転職活動を始めてわかったのは、まだ社会人経験が浅く、企画経験もないなかで、いくら「企画系の仕事をやりたい」といっても、最初から希望通りのポジションで転職することは難しいということでした。 最初の3社は、どうにか自分の希望に合った求人を提案してくれたイメージでした。対して、最後のヘッドハンターは、現実を踏まえて、希望の方向に向かっていけるような提案をしてくれました。たとえば、最初は営業などの部署であっても、そこから企画系にキャリアチェンジできるスピード感を重視して、求人を提案してくれる感じです。

現職とはどう出会ったのでしょうか。また選考はどう進みましたか。
そのヘッドハンターの紹介です。プロジェクトマネージャーの職種でした。1回目の面接は2022年の夏前でしたが、相手は現在の上司で、当時の部長でした。30分くらいであっさり終わりました。事業の説明もこちらから聞く感じでしたので落ちたかと思ったのですが、「能力が伝わってきたので、そこまで聞かなくてよかった」と(笑)。ポジションとのマッチ感や事業成長に向けた意識あたりを見られたのかと思います。
2回目の面接はどうでしたか。
事業部のトップとの面接でした。最初は普通の面接だったのですが、事業などの具体的な説明を受けているうちに、聞きたいことが増えて、後半の45分は、こちらからの質問に費やすほどでした。その結果、会社との相性の良さだけでなく、運営側と来訪者双方のニーズの合致を重んじる展示会の運営など、手掛ける事業の意義が十分に伝わってきました。また、成長性の高い企業だとも感じました。
45分間も逆質問するのは難しそうです。
前職の経験が生きたのかもしれません。クライアントから求人についてヒアリングする際、大事にしていたのは、「初日に何をするのか」「上司とどのようにコミュニケーションをとるのか」などを含めて、そこで働くイメージをどれだけ具体的にイメージできるかでした。私の場合は前職の経験があってのことでしたが、逆質問を難しいと感じる場合は、事前に何を聞けば参考となる回答を引き出せるかといった自分なりの「型」を事前に考えておくと、質問が浮かびやすいと思います。
3つの内定「正直迷った」
転職活動の結果はいかがでしたか。
2次面接が終わったあとにオファーをもらいました。ヘッドハンター経由で受けた現職ともう1社、知り合いの紹介で応募した1社の計3社から内定が出ました。ほかの2社のポジションは、DXのコンサルティング業務と、人材紹介会社のカスタマーサービス担当です。
現職を選んだ決め手は何だったのでしょう。待遇などは違いましたか。
年収などの提示条件はほぼ一緒で、正直迷いました。人との相性や、企画系の仕事との距離感など、感覚的には現職に傾いていましたが、直感のバイアスがかかっているかもしれないと思ったんです。なので、ロジカルな整理をしてから判断することにしました。 具体的には「成長性」「ポジションとのマッチ度」「中長期的なキャリア」「人との相性」「人のレベルの高さ」「事業への共感」といった評価軸を設定し、5点満点で点数をつける方法です。その結果、最もポイントが高かったのが現職で、それが決め手となりました。
内定辞退したほかの2社は何がネックでしたか。
DXコンサルティングの会社は、前職のようにクライアントワークがメインでしたので、ビジネスとの距離感で前職と同じような壁にぶつかりそうな不安がありました。人材紹介会社のほうも、プレーヤーとしての役割を明確に求められているのが最終面接でわかり、企画系のポジションに移れるイメージが湧かなかったのが大きかったですね。
前職の会社から引き留めなどはありませんでしたか。
ゼネラルマネージャーから、明確なポジションの打診ではありませんが、興味のありそうな部署に行けるよう働きかける、といった話はされました。とはいえ、求めるキャリアが、社内の異動では実現しないとわかっていたので、意思は揺らぎませんでした。

PdMのキャリアを突き詰めたい
現職に入社してみていかがですか。
実は入社前、1点だけ不安がありました。上場企業の子会社という規模感から、ベンチャー企業とはいえ、会社の中の多くの部分がもう固まっていて、ベンチャーらしさが薄れているのではないかというところです。 結論から言うと、全くそんなことなく、入社して1週間ぐらいで新たにインサイドセールスの部署が立ち上がり、そこに自主的に携わることができるなど、望んでいたフェーズを経験できています。 また、イベントの集客、プロダクトマネージャー(PdM)などをこなしつつ、入社から1年ちょっとで部長に昇格しました。事業全体のマネジメントに携われるようになり、やりたかったことができているという充実感につながっています。
今後のキャリア展望はありますか。
たまたま去年引き継いだ職務なのですが、現時点では、PdMのキャリアを突き詰めたいと思っています。企画の仕事を希望していた理由に通じるのですが、戦略を練って実行するプロセスが好きなんですよね。その点、開発側と、影響を受けるさまざまなステークホルダー間の最適解を見つけ、両者をつなぐPdMの役割は、フィットしているというのが実感です。 また、現時点で転職を考えているわけではありませんが、転職する際のポータブルスキルとしても価値が高いというのも、ポイントです。
ちなみに、コーチングはどの程度効果がありましたか。
今回の転職を振り返ると、「本当に自分が転職したいのか」と「歩みたいキャリア」を見極めるプロセスは欠かせなかったと考えています。それが達成できるのなら、必ずしもコーチングという手段を用いなくてもいいでしょう。 自分としては、そのプロセスを自分1人ではやり通せなかったと思います。コーチングのトレーナーでなくてもいいですが、親や上司、先輩など相談相手になってくれる人の存在は必要だと思いますね。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:福田 小石 写真:横濱 勝博 掲載日:2023年6月8日