元・富士通社員、スタートアップの経験が生きた「2度目の転職」

2021年、データ連携活用のスタートアップから、ホームページ制作支援のペライチに転職した三井拓也さん。胸にあったのは、新卒から11年勤めた富士通を去るときに感じた「スタートアップで企業の大きな成長を経験したい」との思いでした。30代で2度の転職を経験した男性の思いとは。

三井 拓也

(みつい たくや)

2007年、新卒で富士通に入社。システムエンジニアとして、金融機関などのシステム構築に関わる。2018年、国内スタートアップ企業に移る。その後、2021年株式会社ペライチ入社。2023年、同社執行役員VPoE(エンジニアリング部門の管理責任者)。愛媛県出身。高知工科大学卒業。38歳。

想定通りに事業が進まず

前職のスタートアップの在籍期間はおよそ2年でした。転職を検討された背景を教えてください。

簡単に言ってしまえば「思ったように事業が拡大していかなかったから」ということになるでしょうか。 新卒で入った富士通から最初の転職をした際、「仕組みが整った大きな企業よりも、規模は小さくても大きく成長する企業のなかで、裁量も大きな仕事がしたい」と感じていました。実はそのとき、大手のコンサルティング会社や大手IT企業からも内定をもらっていたのですが、前職に内定をもらった際に非常にワクワクしまして。当時の「プロダクトオーナーとして仕事をしていきたい」といったキャリア上の希望からすれば、大手ITのほうが合っていたのですが、選考過程で経営陣などと話すうち「成長の可能性」にひかれ、他の内定を辞退して前職のスタートアップに移りました。 ただスタートアップではありがちなことと思いますが、当初の計画通りには事業が成長せず、入社後1年ほどすると、新規の開発プロジェクトがなかなか進まなくなりました。大企業が主要顧客だったため、柔軟に事業内容をシフトすることが難しい面もあり、転職を検討するようになりました。

2年での再転職をネガティブにとらえる見方もあると思います。不安はありましたか。

転職先がどこもないのでは、とは思いませんでしたが、やはり不安はありました。1社目の富士通では、在籍していた11年間にさまざまな業務を経験し、自分でも「ある程度やりきった」と思えていました。ただ2社目のスタートアップでは、キャリア上の「武器」としてアピールできる成果がないように感じていましたし、年齢も30代後半になっていたので、希望条件に合った転職先を見つけられるかは不安がありました。

面談の場で変わった「募集ポジション」

どんな条件で転職先を探しましたか。

前職の事業が法人向けだったので、クラウド経由でソフトウエアを提供するSaaS(サービスとしてのソフトウエア)企業で個人向けに事業展開しているところがいいと思っていました。規模は小さくても、比較的立ち上げに近い段階の会社で、大きな裁量をもって仕事をしたいという希望は変わっていませんでした。

転職活動はどのように進められたのでしょうか。

転職サービスを使って、企業や人材紹介会社から声がかかったところは積極的に話を聞きました。それでも最初のカジュアルな面談で4~5社、選考に進んだのは現職のペライチを含めてもう1社でしたね。並行して選考が進んでいたもう1社は、ペライチの内定が出たので途中で辞退しました。

実質的に最初に選考が進んだ会社で決められた形ですね。最初からピンとくるものがあったのでしょうか。

いや、実はカジュアルな面談に臨んだときは、求人に書かれたスキル要件と自分は合わないと感じていました。求人上は、アプリ開発のためにプログラミングのコードを書くような人材を想定していたと思うのですが、自分はそれまでの経験から、プロジェクトマネジメントや開発組織管理がキャリアの軸であったため、アプリ開発に携わりたいものの、即戦力ではないと考えていたためです。 なので最初は、取りあえず話は聞くけれども、入社する可能性は低いと思っていました。ところが、面談した当時のCTO(最高技術責任者)に自分の希望を伝えると、その場で「それならば、はじめは別のポジションではどうか」と打診されたのです。当時ペライチでは開発業務を海外に委託する「オフショア開発」の検討をしており、その立ち上げや管理運営ができる人材を探しているとのことでした。オフショアの管理は富士通で恒常的にこなしていた業務なので、「それなら貢献できそう」となりました。

実際の選考はどのように進みましたか。

最初の選考はスキルチェックを目的にしたもので、開発に関わる課題の提出が求められ、それをもとに対面でのやりとりをしました。その次がもう最終面接で、当時COO(最高執行責任者)で今は代表取締役CEO(最高経営責任者)を務める安井と、当時代表取締役CEOだった創業者の橋田と会いました。ただこちらは基本的な質疑を終えるとほぼ世間話をしていたような形で、終了後すぐに内定をもらいました。選考自体はスムーズでしたね。

「事前の見極めには限界がある」

前職で、入社後に思ったように事業が拡大しなかったというお話がありました。もっとほかの会社も見てみようとは思いませんでしたか。

それはあまり思いませんでしたね。思い通りではない部分があったとはいえ、スタートアップの中にいたことで、面接で話を聞くと「その会社が今どんな状態か」をイメージができるようになっていたんです。富士通から2社目に移った際はスタートアップの組織がどんなものか想像がつきませんでしたが、認識の解像度が上がったことで組織に対する不安が減っていました。また前職に比べるとペライチのほうがいくらか成長段階として先に進んでいたので、「そんなに仕組みが整っているのか」と感じる部分が多かったこともあります。 それに加えて、特にスタートアップは「やってみなきゃわからない」ことは多いと思うんですよ。いくら事前に見極めようとしても、入社前に把握できる情報は限られていますし、事業をしていれば想定外のことが日々起こります。逆説的ですがまさに前職でそれを体験して、やはり予見可能性には限界があると考えていました。 だとすれば、むしろ「どんな人たちが働いているのか」といった要素を重視するのもいいのではと思いました。面接などのやりとりではみんなやわらかい雰囲気で、ユーザーとの交流会などの様子も和やかでとてもいい空気を作っている会社だなと感じていました。出資を受けているラクスルから大きな組織のマネジメント経験が豊かなメンバーが出向してきているなど、スタートアップにありがちな「若くて勢いはあるが、ビジネス経験が少ない」といった組織上の課題も少ないと思ったのも要因です。

2社目を経たからこその出会い

入社後の印象はいかがですか。

思っていた以上に仕事しやすい環境でした。当たり前ではありますが、同じスタートアップでも会社が違うと大きく異なるんですね。業績などにもよるとは思いますが、「やりたい」と思ったことに対する反対が少なかったり、任せてもらえる範囲が大きかったり、「一定の裁量をもって仕事をしたい」という希望もかないました。 面接で言われた通り、最初の1年はオフショア開発の立ち上げをしていたのですが、それが回り始めると、それによって生まれた人的リソースを使って新規の機能開発を主導しました。開発基盤の整備など、けっこう部署横断的な仕事を多くさせてもらえて、2023年の春には執行役員に就任するとともに「VPoE」というエンジニア部門の責任者の役割もいただきました。 何か新しいことをしようというときに、社内での反対が多くて進まないといったことがなく、面接で感じたイメージ通りでよかったと感じています。

2度の転職を経て、考え方やキャリア観で変わったことはありますか。

先ほどと少し重なりますが、経験して初めてわかることの多さでしょうか。富士通の時の同僚で転職した人もちらほらいますが、少なくとも私の周囲ではスタートアップに移った人はいませんでした。でもその経験があったからこそ今、現職で責任のある立場を任されるようなキャリアがありえたのだと思います。 富士通から直接ペライチに移れたかというと、そうではなかったと思います。以前は転職先に求めるものが違いましたし、この間に結婚もしているので、もっと長く富士通にいたら思い切ってスタートアップに転職すること自体が難しかったかもしれません。 2社目の事業が当初思い描いた通りに進まず、再転職したことは確かですが、その経験があるからこそ違う選択が開けました。どこに行っても得られるものはありますし、その先に違う可能性があるとわかったことが、以前と変わったところでしょうか。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら

写真:竹井 俊晴 掲載日:2023年6月16日