会社に振り回されて感じた疲れ
これまでのキャリアを簡単に教えてください。
西日本の大学を卒業後、内資の損害保険会社に入社して自動車保険の査定担当となりました。事故が起きたとき、車の修理費や建物の被害額を審査する仕事です。また、車同士の事故の場合は、過失割合の交渉にもかかわっていました。その後、転職を2回していますが、業務内容は10年近く査定のままです。
保険業界に興味を持ったきっかけはなんでしょうか。
身内が事故に遭ったことがあり、高校生のころから保険業界に興味がありました。大学も経済学部だったので、ビジネスとしての保険にも関心がありましたし、周りに金融業界を志望する友人が多かったというのもあります。 ただ、業務内容は特に希望があったわけではありません。新卒入社時、査定か営業かどちらかの部署の選択を求められました。正直どちらでも良かったんですが、面接で身内が事故に遭ったという話をしていたので査定を選んだという感じです。
1回目の転職の背景を教えてください。
最初の会社は約2年いました。当時の業務は自動車や建物といった「モノ」の査定ばかりで、対人のケガにはかかわれませんでした。仕事の幅を広げたくて異動希望も出したのですが、上司が「今は難しい」といって、しっかりした説明もなくはぐらかされていました。また、人に強くあたる気質でソリも合わない上司だったこともあり、異動はあきらめて、「ヒト」のケガにかかわる傷害保険に力を入れている前職の外資系保険会社に転職しました。

その前職ではどのような職務でしたか。
2社目では当初傷害保険を担当していました。ケガをして入院・通院をしたり、亡くなったりしたときに利用できる保険です。約3年の勤務の後、また自動車保険の担当になりました。傷害保険で「ヒト」に対するケガの判断ができるようになり、前職では「モノ」を見ていたため、どちらも対応できるというのが理由だったようです。
前職の退職検討理由を教えてください。
異動自体に不満はなかったのですが、部署内で頻繁に組織変更があったのには戸惑いました。数カ月単位で所属組織や上司が変わるんですよね。組織活性化などの狙いがあるのだろうとは思いますが、現場からすれば、業務は変わらずに積もっていくのに、環境がコロコロ変わるわけです。業務の性質上仕方ないのですが、保険の査定となると、どうしても契約者や相手方から暴言を受けることなどもあり、嫌気が差して異動したり、辞めたりした人も多かったんです。 さらに、社内の組織や業務改善活動にも巻き込まれ、働く時間がものすごく増えたわけではないものの、いろいろ会社の都合で振り回されることに疲れを感じていました。 そんななか、2021年の後半に、「絶対に辞める」ということではなく、「良いところがあれば。転職先が見つからなくても、今の仕事はあるし」くらいの気持ちで転職サイトに登録しました。
「即戦力」を意識した希望職種
転職先の会社を選ぶ軸はどのようなものでしたか。
損保の仕事は嫌いではなかったので、損保業界に絞りました。1社目は内資系で、2社目で外資系を経験したなかで、それぞれの良さを感じていました。国内相手の仕事は日本語で完結するし時差もないので、決裁や取引もスピーディーでやりやすいという良さがありました。外資の場合は、貨物保険とか、日本国内で完結できないマーケットの雰囲気が感じられました。そんななかで、海外の動きを感じたり、業務の広がりがあったりする会社なのかは、重視しました。 職種についてはあまりこだわる気はなく、志望職種としては、営業から商品開発まで幅広く設定しました。ただ、即戦力となれるという意味では、結局は査定になるんだろうなとは思っていました。 最終的には人材紹介会社を経由して5社に応募しました。
今の会社とはどのように出会いましたか。
ヘッドハンター経由の紹介でした。面接は2回で、いずれもオンラインでした。1回目の面接の相手は、部門長と自動車保険の査定担当の社員数名で、志望動機や普段の業務で意識していることなど定番の内容のほか、算定の方法や知識などの細かい話も聞かれました。実務経験をチェックされたように感じました。 面接官から、業務の説明はあまりありませんでしたが、査定の仕事は大体想像がつくので、こちらから詳しく聞くこともしませんでした。複数人が出てきたのは驚きましたが、手ごたえとしては、「なんとかなった」という感じでした。 2回目の面接は人事担当の方と会いました。流れは意思確認に近く、加えて転職の理由や今後のキャリアプランなど、通常想像されるような内容を聞かれました。希望する職務内容も聞かれましたが、自分の経験や前の面接でのこともあり「査定」としておきました。

他にも内定はありましたか。
応募した5社のうち、現職含めて3社から査定業務での内定をもらいました。選考スピードに各社バラツキがあり、オファーをもらった会社に「すべての結果が出そろってから返事をしたい」と伝えていたのですが、いざ出そろってみると悩むことなく結論が出ました。
なぜ悩まなかったのでしょうか。
一番の決め手は年収です。他の2社は前職と同等で約600万円の提示でしたが、今の会社は約700万円で100万円高かったんです。 また、職務内容も決め手の一つとなりました。1次面接のときに自動車保険の担当者が出てきたので配属を注視していたのですが、オファーでは企業向け賠償責任保険の査定担当のポジションでした。現職は、個人用の保険も含めて、幅広い商品を扱っており、良い経験が積めそうだと思いました。オファーをもらったもう1社も損保会社だったのですが、扱っている商品の幅が比較的狭かったのも、年収と併せて気になり、お断りする一つの理由となりました。 もう1つオファーをもらったのは、損保会社ではなく、外資系の保険ブローカー(仲立ち人)でした。顧客側に立って保険の内容を精査したり、保険金請求の対応をしたりするコンサルタントのような仕事です。こちらは職務内容に興味があったため、多少迷いました。ただ、ブローカーになるのは、「保険会社の内部でもっと保険のことを熟知してからで良いのでは」と考え、お断りしました。
査定の現場で管理職を目指す
前職からの引き止めはありましたか。
ありました。上司に転職すると伝えたところ、人がいなくて困るから残ってくれ、と慰留されました。転職活動をしていることは周りに一切伝えていなかったので驚いていましたね。 残ったら資格等級を上げるという提案もありました。ただ、昇給額を計算してみたら年収ベースで20万~30万円ほどでした。退職を伝えてから待遇アップを提示されても「いまさら」という感じはしましたね。転職先の待遇を伝えたら、「それは勝てない」と(笑)。 こうして2022年の夏前に現職に入社しました。

入社して1年以上が経過しましたが、いかがですか。
一言でいうと転職して良かったです。今はオファーされた通り、企業向けの賠償責任保険の査定をやっています。企業活動に対する保険ですので、カバー範囲が広いのが特徴です。たとえば工事中に物を壊してしまったりだとか、居酒屋やカラオケのようなチェーン店で事故やケガが起きてしまったケースなどに対応するものです。 自動車保険だと建物や車、傷害保険では人のケガといったふうに査定対象が限られていたのですが、企業保険ですと、各企業様の業種が多様なので知見がどんどん広がっている感覚があります。また、自動車保険での示談代行や傷害保険でのケガについての相場観など、今まで培ってきた経験を生かせる場面があり、満足しています。 あとは企業相手の保険なので、暴言に悩まされるようなことがほとんどなくなりました。契約者が個人だと、査定に納得がいかないということで罵詈(ばり)雑言を浴びせられることが珍しくありません。自分はそこまでメンタルに影響したと感じたことはありませんが、最近いわれるようになった「カスハラ(カスタマーハラスメント)」が嫌で仕事を辞めてしまったり、長期の休養を余儀なくされてしまったりした同僚をたくさん目にしてきましたので、そういうストレスが減ったのもうれしく感じています。
これからのキャリア展望を教えてください。
トラブル対応という面もあるのでしょうが、査定の現場は女性社員が多い割に、管理職は男性が目立って多い状況です。社会的には女性管理職を増やそうという流れがあるので、今はまだ役職はありませんが、少しずつ昇級・昇格を重ねてマネジメント経験を積んでいけるようにしたいです。 社会人になってからは、神戸、大阪、東京と大都市での勤務でしたが、自分は働くエリアを気にしないタイプなので、全国どこに転勤になっても構いません。いずれセンター長などの管理職を目指せればと考えています。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:野田 りん 掲載日:2023年9月22日