5カ月で辞めた前職
経歴を教えてください。
1997年に新卒でホストコンピューターの保守運用からはじまって以来、ずっとIT業界にいます。いわゆる「2000年問題」を契機に一度フリーランスを経験し、不動産会社、建設機械会社などをへて30代半ばで、外資系のITコンサルティング会社に就職しました。その会社には10年近く在籍していました。2015年頃から「DX(デジタルトランスフォーメーション)をやりたい」と思っていたのですが、保守・運用を主業務とする部署で入社をしてしまったので、新しいことになかなかチャレンジする機会に恵まれず、悶々(もんもん)とした日々を過ごしていました。 その後、社外のチャンスを得て2017年春に、制御機器に強みをもつ事業会社の子会社で、DX関連製品の開発を推進できることになり転職しました。親会社が開発するIIoT(Industrial Internet of Things、製造業におけるモノのインターネット)デバイスに組み込むIoTサーバーアプリケーションなどDXやクラウド関連の開発がメインでした。その中で人生初の特許申請や展示会への出展等にも携わるなどいろいろな経験ができ、満足していたのですが、結局2年足らずで退職することとなりました。
何か起きたのでしょうか。
事業やシステム開発のありかたについて、上司などにずっと改善を提言していたんですよね。ただ、そのようなことをいうメンバーは周りにおらず、疎ましかったのではないかと思います。2019年の初めに、突然西日本への転勤を告げられました。昇進も昇給もなく、10歳にも満たない子どもが2人いて、妻からは「環境を変えたくない」と猛反対に遭いました。キャリアや子どものことを考えた結果、次の仕事を探すことにしました。
次の転職先探しは「東京周辺勤務」以外の条件はあったのでしょうか。
それ以外では、「クラウド開発を伴うテクニカルなポジション」を条件にしました。2019年の夏前に、前職である外資系生命保険会社への転職が決まり、年収1,000万円超でサインをしました。
その会社にいたのはどれくらいでしたか。
5カ月ですね。

ポジションの記載のない条件通知書
短いですね。何があったのでしょうか。
振り返れば、面接の時点からボタンの掛け違いが起きていたんですよ。最初の応募の時点で、グローバルかつクラウドを伴う「ソリューションアーキテクト」で応募したのですが、外資系企業なのでクラウド周りは全て本国中心で推進されており、本国と英語でのやりとりが必要でした。ただ、私は英語が苦手で、当時のTOEICスコアは350くらいだったんですよ。なので、英語に自信がないことを率直に伝えました。 そうしたら、今度は、英語は使わないけど、クラウドも使わない国内プロジェクトにおいて、環境整備やリリース調整を行う「デプロイメントリード」を提示されました。システム開発の経験は長いですが、インフラエンジニアとしての経験はなかったので、「ミスマッチになる」と伝えました。が、なぜか面接はそのまま通過しました。また、「デプロイメントリード」における最大の懸念は、経験がないにもかかわらず待遇が専門業務型裁量労働制だったためです。
2次面接ではいかがでしたか。
予定していた面接担当者が休暇をとっていて、しばらく出てきませんでした。その後、面接官の上司が出てきて面接となりました。内容はわりと表面をなぞるだけでしたので、改めて予定していた人と面談なり、面接なりがあるのかと思ったのですが、そこも通過となりました。3次(最終)面接は執行役員でしたが、スキルジャッジの質問もなく、人柄をみているようでした。
そのままオファーが出たのですか。
いいえ、最終的にアサインするポジションを決めるための4次面接が設けられました。その面接で新たに国内プロジェクトにおける「開発リード」というポジションになる可能性が示され、3つの中から最終決定される旨を、面接官から伝えられ、手短に終了しました。 その後数日たって、オファーが出て条件通知書をもらいました。通知書を見ると、部署の記述はあるのですが、最終的なポジションの記述はありませんでした。おかしいなと思い、人事による電話面談時に「結局、私の担当する仕事は何になるのでしょうか」と聞いたら、「ソリューションアーキテクトです」と返ってきたんです。ソリューションアーキテクトは英語の問題があることを伝えていたので、なんだか釈然としませんでした。
それでも入社したのでしょうか。
はい。正直、西日本への転勤を打診されている状態だったので、かなり焦りもありました。なので、出てきたものに飛びついてしまった面はあります。

短期間での退職にはどんな経緯があったのでしょうか。
入社してみたら、ソリューションアーキテクトではなく、国内向けのクラウドを使わない「デプロイメントリード」でした。経験もなく、望んでいるスキルがつくわけでもないので、面接のなかで、「そのポジションであれば入社しない」と明確に伝えたつもりでしたが、なぜかそうなっていました。後から分かったことですが、Javaと呼ばれる言語の環境整備を行えるエンジニアを採用したかったようで、その経験がある自分の採用に前のめりになっていたようでした。 そんな状況だったので、指示された仕事を可能な範囲でこなしながらも、短期離職を念頭において、空いた時間で英語の勉強をしていました。 3カ月の試用期間後、上司との面談の結果、「もう少し適性を見るため」という理由で試用期間が2カ月延長となりました。とはいえもともと経験もなく相性も良くないと感じているポジションのため、状況が改善するはずもなく、あっという間に試用期間の終わりが近づきました。そうこうしているうちに、再度上司との面談が設けられ、一定の条件をつけたうえでの会社都合による退職、つまり事実上の解雇の通告を受けました。そのため、2019年秋に前職を退職しました。
11月に屋外で転職活動
次の仕事は見つかっていましたか。
いや、決まっていませんでした。結果からいうと、2カ月間、無職でした。最初の1カ月は妻にも言い出せず、地元の駅構内のベンチで無料Wi-Fiが使えるので英語の勉強と転職活動をしていました。11月なので寒かったですね(苦笑)。無職になると、貯蓄と関係なく「無駄なお金を使えない」という気持ちが強くなって、チェーンのコーヒー店にすら入る気にならなかったです。 無職期間が1カ月を過ぎて、寒さにも耐え切れなくなってきて、妻にようやくカミングアウトしました。そしたら「わかった」とだけ言われました。後半1カ月は、IKEAに併設した食事スペースで、早期来店サービスの無料のドリンクバーなどを利用しながら、転職活動していました。
どのような転職活動をしていたのでしょうか。
ビジネス用のSNSでつながっていた外資系の人材紹介会社の担当者に声をかけて、前職の退職にいたる経緯を説明しました。希望条件としては、「年収は前職程度」としました。クラウドに関わるテクニカルなポジションの希望は変えませんでしたが、いかんせん無職なので、なんとか次を決めたいと考えました。そのため、クラウドの条件は「絶対」ではなく「できれば」くらいの温度感としました。その中で何社か紹介され、そのうち1社が現職のデータセンター関連の外資系大手企業でした。

現職の選考はどういったものでしたか。
面接は2回でした。1回目の面接官はマネージャーにあたる現在の上司とその上司でした。データセンター、つまりインフラ企業ですので、技術者といっても、クラウドやシステム開発にそこまで詳しいわけではなく、技術や経験を経歴に沿って聞かれるくらいでした。事業会社の面接もその傾向がありますが、できることを聞かれる流れですね。質問の内容から、クラウド関連の経験者で、フルスタックエンジニアが欲しいのだろうなということが伝わってきました。
2次面接ではどうでしたか。
前回に続いて現在の上司に加えて、日本法人においては取締役にあたる部署のトップが面接官となりました。ただ、取締役のバックグラウンドはマーケティング部門でしたので、こちらも一般的な内容でした。 後に知りましたが、現在の会社が旅行関連のクラウドマイグレーション(サーバーを物理サーバーからクラウドに移行すること)の大型契約を受注していて、その現場でマイグレーション後のDXを見据えて即戦力となる人材を探していて、自分に白羽の矢が立った状況だったようです。2019年の秋に無職になりましたが、年内に現在の会社からオファーが出ました。妻も安心したようです。
待遇はいかがでしたか。
ポジションはカスタマーサクセスエンジニアでした。待遇は、前職の報酬を維持し、年収で1,100万円弱でした。さらに別途RSU(譲渡制限付き株式ユニット、一定期間の勤務などの条件をつけ達成後に株式を受け取れる仕組み)もつく仕組みでした。本社がアメリカで、サイン後に円安となり、RSUの価値も相当あがっています。年収にプラスして、毎年数百万円の価値が積みあがっている状況です。
他に内定はありましたか。
4社応募しましたが、他の会社は見送りでした。なので、現職に2020年初めに入りました。
見据える3つの可能性
入社してみていかがでしたか。
そうですね。ポジションも待遇も納得いくものでしたので、心機一転、仕事に専念しようと思っていたら、新型コロナウイルスが世界的な問題となり、もともと私がアサインされる予定だった旅関連の契約が大幅に縮小されました。入社から3年が過ぎ、業務もありつつ、自己研鑽に励む時間も多くとれている状況です。 AWSやAzure等のクラウド関連資格をとるための勉強をしていて、Azureについて言えば3分の2の資格を取得しました。またコンテナ化したアプリケーションの配備・管理を行うためのオープソースソフトウェアである「Kubernetes」関連の資格も取得しています。ただ、問題なのは、実務経験が資格に見合うほどには十分に積めていない点があります。いまでもスカウトはそれなりに来るのですが、選考の過程で実務経験がないことは見ぬかれてしまうでしょうし、穏やかに過ごせているので、「次の会社に移る」までにはなっていません。

今後のキャリアの展望はありますか。
展望は3つあります。1番興味があるのは、日本の事業会社で本気でDXをやりたいと考えています。DXは、マネジメント層とタッグを組んで、事業会社のITリテラシーを高め、変革をしないと日本は世界から取り残されると思っています。ただ、機会がないので、横目で見ている感じになっていますね。 2つ目は、現職の海外の支社に移る、という選択肢です。最近、私の部署がグローバル傘下に入り、早晩プロジェクトに参加することになる見込みです。ただ、海外に移るためには私の英語力が足を引っ張っているため、引き続き改善が必要です。3つ目に現職にとどまったまま副業をする、というプランもあります。十年来の友人が起業をして、時折IT周りのアドバイスをしていたところ、「本格的に手伝ってくれないか」と打診がありました。技術顧問かCTOで参加するという選択肢も考えられます。 8社を渡り歩いてきたわけですが、私の転職の軸は、「スキルがマッチしていて、かつエンジニアとして新しい経験が積めるか(やるべきことができるか)」です。この先もどうなるかわかりませんが、駅のベンチにはもう戻りたくはないですね。 本記事についての簡単なアンケートにご協力をお願いします。 アンケートはこちら
文:岩崎 大輔 写真:的野 弘路 掲載日:2023年10月5日