ベンチャー企業とはどんな会社か
"ベンチャー企業"への転職を検討している人が増えています。そもそもベンチャー企業とはどんな会社を指すのでしょうか。
自分たちのサービスを成長させることで社会を変容させたいと考えている企業です。
たとえば同じような企業規模でも、飲食店や八百屋さんは、公のためというより自分たちの好きなことをやろうとしていたり、大きく成長させたいとは考えていないところが多かったりします。そこがベンチャー企業といわゆる中小企業との違いです。
ベンチャー企業に転職するメリット
転職希望者にとって"ベンチャー企業"で働くメリットは何でしょうか。
大きく分けて、経験面・収入面・感覚面の3つのメリットがあります。
まず経験面では、新しい仕組みづくりや組織づくりなどの仕事を経験しやすいことが挙げられます。もちろん大企業でも仕組みづくりや組織づくりはできます。ただ、スピード感はまったく異なります。新しい仕組みをつくるときは前例がないことが珍しくありませんが、大企業は新しいことを始めようとしても、まずは過去の例を探し出し、そこから社内を説得・調整するところに時間とエネルギーをとられます。機を逃さずにすぐチャレンジでき、スピード感を持って実行できるのはベンチャー企業のいいところですね。
大企業とは責任の在り方も違います。たとえば何か新規事業を立ち上げて100億円儲かったとしても、大企業ではその成果は組織に帰属します。逆に、赤字を出しても事業が白紙に戻るだけで個人の責任までは問われません。一方、ベンチャー企業はいいときも悪いときも個人の責任の割合が大きい。そういう意味では、より責任感を伴った、他には変え難い経験ができるでしょう。
収入面では、早い段階で入社した場合、ストックオプション(自社株)という形で還元される可能性があります。もし入社した会社が株式上場したりM&Aされたりする場合、持株割合や株価にもよりますが還元される金額は数千万円から数億円になることもあります。
ただ、不確実なストックオプションより、毎月の収入が心配だという人もいるでしょう。たしかに、かつては大企業に比べると給与面でベンチャーが不利だった状況がありました。しかし、最近はまだ売り上げが立っていないスタートアップでも将来に期待して10億円を超える大型の資金調達などができる時代になってきて、IPO(株式公開)が見えてきたベンチャー企業では年収1,000万円以上の方が出るケースも増えてきました。
最後に、感覚面では創業者や経営陣に近いところで働けることも魅力です。大企業ではトップの顔を見ることはまれだと思いますが、ベンチャー企業は創業者や経営陣と日常的にコミュニケーションがあって、自分の視座も創業者や経営陣に近いところまで上げられます。
「ベンチャー転職」が抱えるリスク
反対にベンチャーで働くデメリットやリスクはありますか。
気をつけたいのは、期待値とのギャップです。
よくあるのが「自社プロダクトで社会を変える」というミッションに惹かれて転職したのに、実際にやっているのは受託開発で期待値とズレてしまったパターン。
自社プロダクトを開発するために一時的に受託開発で開発資金を稼ぐ戦略は珍しくありませんが、最初にそのことを確認していないと、期待値とのズレが生じて心が折れかねません。
他にも、「この人に『一緒にやろう』と口説かれたから転職したのに、入社したら別の人が上司になった」など、期待と違う状況になるリスクはあります。
もちろん同じことは大企業でも起こりえます。ただ、大企業は「我慢して次のチャンスを待とう」「他の部署に異動させてもらおう」というように状況を改善できる可能性があります。ベンチャー企業は組織が小さいため、嫌なら辞めるしかないという可能性が高い点がデメリットでしょうか。
ベンチャー企業に向いている人の特徴
"ベンチャー企業"に転職して活躍できる人の特徴はありますか。
仮説設定能力が高く、それを自分から発信できる人です。ベンチャー企業は業務が仕組み化・マニュアル化されていないため、自分で仮説を立てて、「これをやりましょう」とまわりを巻き込んでいく必要があります。
大企業などでは上司からの指示が行動の中心になることがありますが、具体的な指示がなくても自分で仕事をつくって動く「自走」能力が求められているといえます。それを苦に感じない人はベンチャー向きです。
ベンチャー企業に向かない人の特徴
たとえば、大企業から"ベンチャー企業"への転職を検討している場合、転職に向かない人の特徴はどのようなものがありますか。
経営資源がないことに不満を感じる人はベンチャー企業に向かないかもしれません。
ベンチャー企業の場合、大企業では事務スタッフなどが行うスケジュール管理やコピーを自分でしなければならなかったりします。そこに不満を感じる人は、大企業のほうがストレスはないと思います。
また、大局観を持っている人は大企業向きかもしれません。普段数百億円、数千億円の取引に携わっている大手商社の人が、数億円のITサービスを面白いと思うかどうか…。
世の中の大きなニーズをとらえることに興味がある人は大企業、その大きな流れのなかで変異点をピンポイントで見抜いて形にしていくことに関心のある人はベンチャー企業に向いているように思います。 ちなみに、組織に所属し続けたいと考えている人は、今後のキャリア形成は難しくなると感じています。これからは大企業かベンチャーかに関係なく、時代の変化に合わせて自分を変えていける人が生き残ります。組織に所属し続けて守ってもらうことより、どこでも通用するように自分のスキルを上げていくことが一番のリスクヘッジです。組織に所属し続けたいと考えている人にとっては厳しい時代になっています。
いいベンチャー企業の見極め方
転職先候補の"ベンチャー企業"を見極めるポイントを教えてください。
まず事業が成長しているかどうかが重要です。まだ投資段階で売り上げが立っていないとしても、ユーザー数やプロダクト開発の進捗状況など、成長度の目安になるものが何かしらあるはずです。聞けば開示してくれるところが多いですが、教えてもらえないとしたら用心したほうがいいかもしれません。
自分が成果を出せる会社なのかもチェックしたいところです。このとき注意したいのは、募集している職種だけで考えないこと。ベンチャー企業は組織が変わっていきます。募集の段階では「営業担当」を求めていたとしても、本当は別の役割も含んでいたり、会社の成長に伴って求める役割が変わったりするかもしれません。そこは自分でも仮説を立てて面談で確認する必要があるでしょう。
もう一つ、経営者やメンバーとの相性も忘れてはいけません。働く仲間は、1日でもっとも長く時間を一緒にする相手です。会話をして面白いかどうか、一緒にいてわくわくできるかどうかなど、人によって相性の良さの基準はさまざまですが、好きになれない、お互いに役に立つと思えないという場合はやめておいたほうがいいでしょう。
ベンチャー企業は若い人が向いているのか
"ベンチャー企業"は若い方に向いているという印象がありますが、転職する際に年代別に気をつける点はありますか。
20代、30代は体力、スピード感、ITリテラシーといった面でベンチャー向きといえます。若い世代は経験や実績に乏しいですが、変革期においては過去の経験や実績があまり役に立ちません。そういう意味でハンデはないので、思う存分暴れまわってもらえればと思います。
もちろん40~50代でも適性がある方はいらっしゃいます。ただし、これまでベンチャー企業に転職して活躍されているケースを見てみると、過去の経験や実績に縛られず、新しく学ぼうとする姿勢がある方が多いです。いわゆるアンラーニング(学習棄却)です。それが難しい方には転職をおすすめしません。過去の経験や実績が生きるのは現職ですから、そこで頑張るのも一つの選択です。
いまベンチャー企業が求めている人材
近年、"ベンチャー企業"が求めているのはどのような人材でしょうか。
一言でいうと、「つくれる人」ですね。世の中に、つくったものをうまく回していける人は大勢います。大企業で求められるのはそういう人材です。
しかし、ベンチャー企業はプロダクトやビジネスモデル、組織が完成されていません。エンジニアとしてプロダクトをつくったり、マネージャーとして事業開発ができたりする人を、どこも求めています。自分で新しいものをつくりたいという方はぜひ挑戦してもらいたいですね。
株式会社フューチャーリンク 代表取締役。早稲田大学法学部を卒業後、ヘッドハンティング会社に入社。その後、インテリジェンス系ヘッドハンティング会社の現場責任者を経てフューチャーリンクを創業。IT・インターネット業界を中心に20年以上人材エージェントとしてサービスを提供。近年では、AI、IoT、fintech、IT×業界特化などのスタートアップ領域でも多数の実績を誇る。株式会社ビズリーチ主催「JAPAN HEADHUNTER AWARDS 2021」のIT・インターネット部門MVPを受賞。
インタビュー・構成:村上 敬 撮影:今村 拓馬